第16話

「婚約破棄を言い渡されて、辛くて悲しくて姿を消したんだろうが!なんで分からない!」

 皇太子が首を傾げた。

 その隣でメリシャも首を傾げた。

 ちょ、角度までそろえるとか、何気にかわいいんだけどこいつら。

「サラは、いつも私といても楽しそうな顔一つしていなくて……お后教育もとても厳しくて……私の婚約者でいることでサラを苦しめているのが、つらくて……」

 は?

「そうなんです、アレン様は、サラ様にこれ以上辛い思いをさせたくないって。それで、好きな人と結ばれるように、お后教育をこれ以上続けなくてもいいようにと、サラ様を自由にするために婚約破棄しようと考えたのです……」

 え?

「メリシャが案を出して協力してくれたんだ……」

 い?

「サラを悪者にして婚約破棄を言い渡す、でもよく調べればサラは何も悪くなかったと分かる、そうすればサラは皇太子に婚約破棄をされた問題のある令嬢ではなく、かわいそうな令嬢ということに世間の評判はなるだろうと……。そうすれば泥をかぶるのは私だ」

 メリシャが首をぶんぶんと大きく横に振った。

「いいえ、アレン様が泥をかぶる必要などありません。私が、皇太子殿下をたぶらかした悪女ということで後ろ指をさされれば済むことです」

 にこっと笑うメリシャ。

「いや、流石にメリシャにそこまでのことはさせられぬ。サラが無事新しい婚約者を迎えたころに、すべてを打ち明ければ済むことだよ」

 ……。

 何、これ。

 えーっと、悪者は誰?

「殿下、一つお聞きしてよろしいですかね?」

「色々知られてしまったからには、何でも答えよう」

 いろいろ知られたって、お前らがぺらぺら勝手にしゃべったんだろうが。

「サラのこと、好きなの?」

 殿下の顔が真っ赤になった。

 はー、いや、まぁ、そうか。

 頭をガリガリとかきむしる。

「馬鹿やろーがっ!」

 殿下の頭をひっつかんでグラグラとゆする。

 不敬とか知らねぇ。

 王族とか関係ねぇ。

 アオハルに、王子も公爵令嬢も関係ねぇーってことだぁ。

 くっそ、若いっていいなぁ。

「ちょ、メリシャの師匠、何を……」

「いいか、俺の言葉が信じられないなら、あとで、サラの部屋の机の2段目の引き出しの中にある日記帳を見せてもらえ。いいな?」

「え?サラの日記?」

 しまった。なんでそんなものを知っているのかと思われたらまずい。

「こ、サラの心の声が、その、助けてほしいって声のついでに聞こえてきた、うん、そういうことだ」

 ごにょっと早口で言い訳してから、殿下の両肩に手を置く。

「サラは、殿下のことが好きだ」

 殿下の表情が固まる。

「う……」

 顔が再びゆでだこのように真っ赤になった。

 それでも、すぐにその気持ちを否定するように首を大きく左右に振る。

「そんなはずはない。サラは、サラは……僕を迷惑がっていた」

 ぐっと殿下が両手を握り締めて下を向く。

「何をプレゼントしても、無表情に一言ありがとうございますとお礼を言うだけだった……」

 あー、うん。日記では殿下にいただいたわ嬉しいってめちゃくちゃ書いてたけどな。

「好きなものをリサーチしてプレゼントしても同じだった」

 あー、うん。日記では殿下が私の好きなものを知っていてくれたなんて感激って書いてたけどな。

「使いやすいだろうと、プレゼントした普段使いの小物を何一つ身に着けてはくれなかった」

 あー、うん。日記ではもったいなくて使えないって書いてあったし、殿下からいただいたものコレクションルームとか作ってたけどな。

「王妃教育は辛くないかと尋ねたときには……いつも無表情なのに、その時ばかりは表情を曇らせた……きっと辛い思いをしていたのだ」

 あー、うん。日記では王妃教育辞めてもいいっていうことなのか悩んでたな。それはつまり、別の女性を王妃にするって意味だからと。

「舞踏会でのダンスは、いつも1度しか一緒に踊ってはくれなかった……私と踊るのが嫌だったけれど、務めとして1度だけ踊ってくれていたのだろう」

 あー、うん。日記では、心臓がバクバクして感情が抑えるのに必死だった。もっと殿下と踊りたかったけれど、あれ以上体を触れ合って踊っていたら魔力が暴走しちゃうっ。とか書いてた。

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