第13話

「全然おかしくない。メリシャ……。助けたいと思ったら助けたらいい」

 メリシャがキラキラした目で俺を見ている。

「ただ、助けられない、助らる能力がないから他の人間は助けないし、助けることをあきらめてしまうだけだ……助けられる力があるなら、助けたいだけ助けたらいい!」

「助けたいだけ助けていいの?」

 メリシャの目が恍惚とした光を宿す。

 えーっと、あれ?

 もしかして、変なスイッチ押しちゃった?

 世の中には、借金してまで人にお金貸しちゃう自己犠牲精神のすさまじい人というか、なんか、人助けが趣味みたいな人もいたような。

「師匠、私、師匠に一生ついていきます!」

 はぁ?

「あの、申し訳ないけれど、師匠って何?俺の名前はヒロシな。ヒロシ、それから、えーっと」

 メリシャが両手を体の前で組んで俺を見上げている。

「助けてもらったお礼に、皇太子殿下に、会わせて?」

 メリシャが首を激しく横に振った。

「もう、お礼は十分受け取りました。私、こんなに心が満たされたことはありませんっ!」

 うおーーーっ、なんなの?

 だから、困る。

「ああ、じゃぁ、ほら、助けると思って皇太子殿下に会わせて?」

「助ける?あの、誰を?」

 誰って、俺だよ。俺を。

 いや待て、違うか?

 俺もだけど……。

「世界中の人を……いや、人だけじゃない、生きとし生けるものすべてを救う」

 ……まぁ、俺が死にたくないんだけど、最終的に結果としては、人間だけじゃなくて、この世界の生き物全部助かるんだよな?

 もしかすると人間が死んで、生き残った生き物はより幸せになる可能性もあるけどさ。

 地球は人間がいなければ絶滅せずに済んだ生き物ってめちゃめちゃいるし。

「す、すごいです、師匠!生きとし生けるものすべてを救うなんて!私なんてまだ目の前にいる人を救うことがやっとで……さすが、師匠ですっ!」

 うぽ?

 あれ?

 なんか、俺、おかしいな、なんでマシュマロピンク頭のメリシャに師匠って言われた上に、こんなキラキラ光線飛ばされてるんだろ?

「ヒロシ様、ありがとうございます。お嬢様、まずは中に入っていただいてお茶でも……」

 あれ?

 様とか付けられるような人間じゃないぞ?

「そうね、師匠、どうぞ、中に入ってくださいっ!」

 メリシャの白くて傷一つない綺麗な手が俺の手をつかんで引っ張る。

 うわぁ!

 女子高生の年齢の女の子に、手をつながれるとか、日本じゃ考えられない出来事がおっさんの身に起きてるんだけど。

 全然ドキドキしねぇ。ときめきとかじゃなくって、なんていうの?

 家宝の1億する茶碗です、お手に取ってごらんください……って言われても、もし割ったらどうしよう、触れないよっ!みたいな方向のドキドキはある。怖いよ。触られたくないよ。何か、悪いことが起きそうな気がしてならない。

「何者だ、お前は!」

 鋭い声が背中からかかる。

「メリシャから離れろ!不届き者め!」

 ほらみろ。

 なんか厄介ごとが起きたぞ。

「あ、アレン様、ちょうどいいところに!お会いしたかったんです」

 アレン様?

 えーっと、聞き覚えがあるようなないような……。

「なんだ、メリシャ、私に会いたかったのか?そうか。そうか」

 声に棘がなくなり、でれっとしたぞ。メリシャの信者の一人か!

「で、そいつは何だ?新しい使用人か?いくら使用人とはいえ、手をつなぐというのは感心できないな」

 手をつないだんじゃねぇ!

 勝手に手をつかまれたんだっ!

「えへへ、この方、ヒロシ様は私の師匠なんですっ」

 待て、何という紹介の仕方を!

 ってか、いつ俺がメリシャの師匠になったのだ?そもそも、何の師匠だ?

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