第10話

 って、あー、もう、男爵なんて興味がなくてろくに鏡テレビ見てなかったし、今からいちいち調べる時間もない。

 突撃だ、突撃。

 確か、貴族の屋敷が立ち並ぶ区域の、一番隅っこあたりが男爵家の屋敷だろ。

 急ぐぜ、急ぐぜ。

 貴族の屋敷が立ち並ぶ区域に入る。土魔法というものがあるためなのか。

 やたらと大きな屋敷が多い。

 ただ、繊細な作業は土魔法では無理なのか、見た目はヴェルサイユ宮殿みたいなあんな綺麗な感じではない。

 どちらかと言えば、国境沿いの砦みたいな武骨な屋敷だ。

 かと思えば、大きくはないが美しい屋敷もあり……。

「もしかして……武闘派は武骨みたいなあるんかな。将軍を輩出するような武に長けた一族は、チャラチャラした屋敷に住むなど恥みたいな感じなのか?この飾り気のない屋敷……ピンポーンって呼び鈴ならしたら……」

 呼び鈴はないけどな。

 マッチョが出てきそうだ。

 など、想像しながら歩いていると、日本でいうところの、2階建てで一人暮らしの部屋が6つほど並んだアパートのようなサイズの建物が目に入る。

「うん、こんな感じじゃないの?男爵家って」

 てなわけで、呼び鈴……はないので、門番に声を……門番もいないので、ドアをノックする。

 あ、もちろん素手じゃないぞ。とりあえずドアにノッカーっていうのがついてたんで、それで。ライオンの顔みたいな金属のやつにわっかみたいなのがくっついてて、それをコンコンって打ち付けるやつな。

 ……たぶん、ノッカーって名前で合ってる。そして、ライオンの顔はついてない。シンプルに丸いわっかだ。

「はぁーい。どちら様でしょうか?」

 中からかわいらしい声が聞こえてくる。

「お嬢様、いけません、来客の確認は私の仕事です」

 なんか、年老いた女性に叱られてる。

「もう、ハンナは膝が痛むのでしょう?休んでて。これくらい私がするから」

 おや、年寄をいたわるいい子みたいですよ?

「いえ、お嬢様の癒し魔法で痛みはよくなっておりますから」

「嘘よ。怪我や病気はいくらだって癒してあげられるけれど、加齢で弱ったものはどうしようもないって知ってるもの……。とにかく、ハンナには無理をしてほしくないのっ!」

 おや?癒し魔法が使える?

 かちゃりとドアが開くと、ピンク髪のかわいい女の子が出てきた。

 見たことあるぞ。

 ああ、そうだ。

「マシュマロ頭……」

「え?」

 思わず口からつぶやきが漏れる。

 サラを悪役令嬢に仕立て上げ、皇太子をはじめ多くの男どもを侍らしている女だ……。

 確か、名前は……。

「メリシャお嬢様、どなたでしょうか?」

 そうだ!

「メリシャ!メリシャだっ!」

 あれ?ちょっと待てよ?

 えーっと、そうだ、そう!

 なんか、怪我してるの直してくれた子のことを、男がメリシャって呼んでたよな。

「あの、どなたでしょうか?ごめんなさい、覚えていなくて……」

 うっ。

 そうだ。俺は一方的にめっちゃ知ってるけど。

「あーっと、数時間前に、道で倒れているところを癒していただいた者ですっ」

 嘘じゃない、そう、事実だ。

「え?えーっと」

 メリシャが首をかしげる。

 畜生、可愛いな。いや、もちろん17,8の少女に対して性欲的なものはわかないけどな。

 日本じゃ犯罪。単に、画面の向こう、手の届かないアイドルだとかそういう感じで単純にかわいいって思うだけな。2次元キャラと同じだよ。

 決して手が出せないあたり、一緒だろ?かわいいと思うだけ。

「あら、またお嬢様は人助けをなさったのですね。申し訳ありません、いつものことで、覚えていないのでしょう」

 ハンナさんが申し訳なさそうに小さく頭を下げる。

「あの、あの時は、髪の毛もひげも伸び放題で、服装も今よりボロボロで……えーっと、王城近くの道の端で座り込んでいたのを……」

「ああ、覚えてます。えっと、すっかり良くなったのですね?よかったです」

 にこっとメリシャが嬉しそうにほほ笑んだ。

 だから、可愛いな。俺が同じ年なら、間違いなくころっと……。

 ん?

 待てよ?

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