第9話
ごめんな。高い宝石見せてもらうってのが目的で初めから買うつもりはなかったんだ。
まるで詐欺師になったみたいに良心が痛む。
「申し訳ございません。せっかく見せていただいきましたが、どうやら今回は縁がなかったようで……」
と、すくりと立ち上がる。
「あの、でしたら、青、いや緑の宝石では……」
店長が引き留めようとする。
すまん。本当にすまん。買う気など、もともとないんだ。
「今日は、よいものを見せていただいたとご主人様にお伝えいたしましょう」
金貨の入った巾着に手を入れ、金貨を1枚手に取り、そっと机の上に置いた。
もちろん、コピーした宝石を巾着に入れる動作を不自然なく行うための動作ではあるが、それだけじゃない。
さすがにね。申し訳なくて。せめてものお詫び。
店長は机の上に置かれた金貨を見てから、俺の顔を見た。
すぐに立ち上がると丁寧にお辞儀をして店の外まで見送りについて来た。
「今回は、満足行く品をご用意できずに大変失礼いたしました」
いや、ごめんって。
満足したよ。
「またのお越しをお待ちしております」
ぺこぺこ頭を下げられ、本当、いたたまれない。
店への損害はゼロとはいえ……。何も盗んだわけではないとはいえ……。
違法コピーなんて日本じゃ普通にある単語だ。
もちろんこっちの世界じゃそんなこと言うやつはいない。けどな。俺がコピーを取るために、何らかの期待をさせてがっかりさせたというのが申し訳ない。冷やかし客……。時間を奪うのも罪なんだと思う。
って、こんなところで立ち止まるわけには行かない。
この世界は、魔法があるくせに収納鞄なんて便利な物はない。
もし、収納魔法なんて便利なものがあって、それを作る魔法みたいなのがあれば、宇宙船丸ごと収納魔法に収納しちゃうとかいう戦い方もあっただろう。
収納魔法の中で時間停止機能さえあれば、脱出不可能だからな。
……っていっても、どれだけ大きなものを作り出せるかというのも問題だし、そもそもどうやって収納魔法の中に入れるか。罠を張るのも大変そうだ。
さらに、魔法を無効化するような科学がもしもあればおしまいだったんだが。
宝石は便利だよな。金貨1000枚の価値でも、手のひらに収まるんだからな。
金貨は増えれば増えるほど重たい。
そして、盗難の危険が付いて回る。
……もっと金持ちどうしてるのかな?
あ、ギルドカードに貯金みたいな機能あるんだっけ?あとで考えてみるか。今は金貨をたくさん持っているという姿を見せる必要があるからな。
普段の生活なら、金貨1枚ありゃ十分。
路地裏に入り、ポケットからスマホ……手鏡テレビを取り出す。
カネにがめつい男爵家なら、宝石ちらつかせて書かせることができそうだよな。
宝石だけ奪われて「ははは、ばかめ。誰か紹介状など書くものか!殺して埋めろ!」とか言われても困るな。
となると、あまりがめつすぎてもダメだろう。そもそも、性格が悪くて評判のよろしくない男爵からの紹介状なんて相手にされるとも思えないよな。
そうなってくれば、評判の良い男爵家か。
……身元不詳の俺に紹介状なんて書いてもらえるのか?弱みに付け込むか?
弱み?評判の良い男爵に弱みなどあるのか?
こりゃ、難しいな。表面上はいいひとだが裏ではひどいみたいな表裏がある人間が一番か?それでいて人を殺すほどの根性もない小心者がいい。
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