第8話
選んだのは、白いシャツに、黒いズボンとベスト。それから白い手袋。紐タイ。帯ベルト。
鏡テレビでよく見かけた、お屋敷で働く執事のような服装だ。
これなら、どこぞのお屋敷で働いている身元のしっかりした人に見えて信用されそうだし、使用人がお金を持ってるってこともないだろうと盗賊には狙われにくそうだし、貴族の屋敷で働いている人間に下手に手を出して問題になったらやばいだろうと、絡まれにくくもなりそうじゃね?
俺、天才!
服を買った後に、床屋へ。
「よし、すっきりした」
鏡に映るのは好青年。
なんつって。日本にいた時の俺の顔だな。
髪は短めに切ってもらう。
ひげはきれいに剃ってもらい、おすすめの髭剃りを購入。
……うまく剃れるかな。日本じゃ電動髭剃りだったからな。顎とか切れないかな……。しゃぁないよな。これしかこの世界ではひげをそる物がないんだから……。
で、次に行くのは……。
「いらっしゃいませ」
身なりを整えたおかげか、執事風にコーディネートしたおかげか、すんなり店内に案内された。
「いくつか、お嬢様へのプレゼントを見繕ってくるようにと頼まれたのですが……」
と、執事の振りをしてみる。
「どのようなお品をご希望でしょうか?」
「誕生日パーティーにお召しになるドレスが赤ですので、合いそうなものをいくつか見せていただけますでしょうか。予算はこれくらいで」
金貨の入った袋の口を開けて店の人に見せる。
「かしこまりました!」
店員が奥に引っ込むと、店長らしき人を連れて戻ってきた。
それから、奥のVIPルームに案内され、向かい合わせのソファセットに腰掛けた。
お茶まで出てきたよ。
ごめん。いや、まじ先に謝っとく。
「お待たせいたしました、こちらなどいかがでしょう。いずれもご予算内に収まると思います」
柔らかな布の上に置かれたのは、キラキラ輝く宝石類だ。
すでに指輪やネックレスに加工されたものから、未加工の者まで。
一番大粒の赤い宝石に目が留まる。
「これは?どれくらいの価格か伺っても?」
店長が緊張気味に答える。
予算を超えてもダメ、安く言いすぎてここから駆け引きできない値段でもダメ……と、頭の中でいくらだと答えるべきか計算しているのだろうか。
そう考えると、はっきり初めから値札がつけられてる日本の店は親切なんだよなー。
ああ、そういえば、その日本でも値札のない店もあるか。
「時価」って書いてあるとこ。ちゃんとした寿司屋だ。
寿司屋が衰退してったのって、何も回転すし屋のせいばかりじゃないと思うよな。あれは値段をはっきりさせなかった店側の責任も大きいと思うんだ。高くなくても、高かったらどうしようと思って入りずらいじゃん。
なんか、客の顔見て値段も変えるなんて噂さえあったし。客を選ぶと言うけど、逆に客に選ばれなかったっていう典型的な失敗例だよな……。
「金貨200枚になります」
店長の言葉に、反射的に言葉が飛び出た。
「安いな」
何カラットあるのか、直径3センチ以上もある大きな宝石が、金貨200枚。
2000万円くらいって、安いだろ!って思うじゃん。
いや、実際安くないんだけどさ。2000万なんてマンション買えちゃうよ。地方なら。
「少々お待ちを」
俺のつぶやきに、慌てて店長が奥から追加の宝石を運んできた。
「こちらなどいかがでしょう。赤いドレスをお召しということで、おそろいの赤い宝石もよろしいかと思いますが、透明なこちらはどのようなドレスにも合わせやすく……お値段は金貨1000枚と少々値は張りますが、使い勝手がよろしいので、おすすめです」
金貨1000枚。日本円で1億。
そうだな。やっぱり、億に行かないとだよな。
「うーん、そうですねぇ、透明の宝石はすでにいくつかお嬢様はお持ちですので……」
と、考え込むふりをして口元に手をやる。
『コピー』
小さい声で呟けば、口元にやった手の平の中に、目の前の1億の宝石が複製される。
よし、目的は果たせた。
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