第7話

 感謝されなくてもいいか……。

 救えるなら救いたい……ね。

 きれいな言葉だ。

 俺とは大違いだ。

 俺は、この世界を救うために立ち上がったわけじゃないもんな。

 自分が死にたくないからだ。

 自分が楽に生きられる環境を失いたくないからだ。

 人のためになんて、本気で言えるなんて……すごい……。

 傲慢だな。

 結局は目の前で人が苦しんでいるのを見ているのが不快だから。

 助けられるのに助けないと後悔するから。

 とか、自分のためだろ。

 悪いが、地球じゃぁ「あなたのためよ」って言葉は一番信用するなって言われてるんだぞ。

 まてまて、なんかもう、痛みで頭がおかしくなってきた。

 そうじゃない。俺だって若いころは純粋だった。

「【この星の力よ、少し私に   癒したまえ】」

 頬の痛みも熱も、足首も……どこもかしこも痛みが引いていく。

 おい、まじでか。

 回復魔法。癒しの魔法……。

 すげぇな、魔法。

 痛みが引くと、脳みそも正常に働く。

 今の子、俺のことを心配して、そして何の見返りも期待せずに治してくれたんだぜ?

 なんで傲慢なんて思ったんだろう。すんげぇいい子じゃねぇか。

 天使みたいな子だ。

 そうだ、お礼、お礼を言わなきゃ。何としても恩返しをしたい!

 慌てて立ち去っていく足音が聞こえる方に顔を向ける。

「うご?」

 やけに足音がたくさん聞こえるとは思ったけれど、10人ほどの人間の後姿が見える。

 制服姿の男子?

 え?声は女の子だと思ったんだけど。

 まさか、男の娘?

 嫌それとも、あの男の集団を引き連れた女の子がいるのか?

 まぁいい。

「ありがとー!俺、もう一回頑張るからな!」

 できうる限り大きな声を出す。

 男の娘だろうが女の子だろうが、とりあえず声が届いていたらいいな。

 やるべきことが見つかった。

 まずは、買い物だ。

 浮浪者と言われてムッとしたものの、確かに今の恰好は間違えられても文句は言えない。

 住んでいた街では肉体労働者や食えない冒険者も多くてそれほど悪目立ちはしなかった。

 だが、この王都では、非常に目立つ。

 ……ふと、王都に入るための金額が金貨3枚だったことを思い出す。だいたい日本円で30万くらい。でもって、田舎の人間の月収なんてせいぜいが10万あるかないか。

 つまりはそういうことか。

 貧乏人が地方から王都へは入れないようになってる。もちろん王都にもスラムのような場所もあるが、もともと王都に住んでいる人間ならスラムから出て綺麗な街並みを無駄にふらふらとするようなことはないだろう。

 本物の浮浪者を見たことがない人間にしてみれば、地方都市では普通の恰好の俺も、小汚い浮浪者に見えるってこと……だよな。

 そりゃ、陛下に会えるわけねぇわ。

 男爵すらあってもらえないよな。

 金の無心に来たと思われそうだ。

 てなわけで、まずは身なりを整えることにした。

 服を買う……ああ、入店時に金貨を見せることでやっと入れてもらえた……。そこで、服を着替え鏡に映った自分の姿に眉根が寄る。

 こりゃ、ひでぇな。

 髪の毛もひげも伸びっぱなし。こぎたねぇ。

 そういや、家に鏡はあるけど、鏡として使ったことなかったもんな。

 こりゃ、確かにおっさんだわ。怪しいおっさん。

 よく、怪我を治してくれたよな、どこの誰とも知らない子。

 俺なら近づきたくない。いや、この世界の地方じゃ普通だからあれだけど。日本にいたら近づかなかっただろうな。こんなおっさんには。

 どんな服にしようか悩む。

 あまり金持ちそうな服装にしても、盗賊や強盗に狙われても困る。

 かといって、そこそこ信用が得られるような服装……。

「あ、これだ、これ!」


=========

ご覧いただきありがとうございます。

さ、どんな服を選んだのかなぁ

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