第6話
鏡テレビで見たことを思い出す。
確か、この国のジラハー公爵は公金横領してたよな。
「ジラハー公爵を脅して紹介状を書かせるか……」
バコーンッ。
左頬に激しい痛みを感じ、体が横に1mほど吹っ飛ぶ。
鞘に入った状態の剣で思い切り頬を殴られたらしい。
「冗談でも物騒なことを言うな!」
剣を振った兵が、地面に倒れた俺の腹を目いっぱい力を込めて蹴り上げた。
ぐふぅっ。
「公爵を脅すだと?」
しまった。声に出てました?
なんたる失態。
「冗談……ですよ……僕に、そんな力があるように……見えますか?」
へらっと笑ってごまかす。
「冗談でも言っていいことと悪いことがある。早くどこかへ行け!」
もう一度思い切りけりを入れられた。
痛む腹と頬……それから倒れて打ち付けた肩。ああ、足首もなんかおかしいな……。
全身の痛みをこらえて何とか立ちあがり、ふらふらと城門から離れる。
やべぇ。
痛い。
すんげぇ痛い。
それから、もうすでに詰んだ。
鏡テレビで簡単にみられるから、豚にはすぐ会えるもんだと、城に来てウィール星人の情報を持ってきたと言えば会えるとなんか思い込んでた。
むしろ、ウィール星人の情報を持ってきた俺は歓迎されると……どこかで思っていた。
それが、実際はどうだ。
THE門前払い。
見事なまでの門前払いだよっ。
はぁ、痛ぇ。なんで俺がこんな目に。
もうやめようかな。みんな亡んじまえばいい。うん。
赤信号みんなで渡れば怖くないっていうし。
みんな一緒なら……。
「って、死にたくねぇってっ!」
くそっ。
考えなしに突撃したから失敗したんだ。ちゃんと考えて行動しろ。
紹介状が必要だって言ってただろ。
じゃぁ、紹介状を書いてもらえばいい。
公爵家に紹介状を書いてもらえばいいんだろ?
ああ、俺も学習した。
どうせ、公爵様にお会いしたいって言っても門前払いだ。
となれば、その公爵様に会うために、もうちょっと下の位の、伯爵様だかに会えって公爵様への紹介状を書いてもらえばいいだろ。
でも、伯爵様に会いたいって言ってもどうせ門前払いだ。
だから、伯爵様に会うために……えーっと、その下ってなんだ?うーん。なんか、分からんが、一番下の貴族は男爵だろう?
男爵家にまず出向いて、ちょっと上の位の貴族に紹介してもらう。それを繰り返していけばいいだろ。
しかし、ただで紹介してもらえるわけもない。
袖の下だ。
わかってるって。コツコツ貯めた金貨……じゃ、足りねぇよな。
まず俺に必要なのはなんだ。
「ああ、駄目だ。あちこちが痛すぎて、ちょっと休憩……」
人の邪魔にならないように道の端によって座り込む。
痛い。
そろそろ頬がぼんぼんに腫れてるんじゃねぇかな。
冷やした方がいいのか?
てか、あちこち痛すぎて井戸を探して水を手に入れるのすら億劫だ。こんな時水魔法が使えりゃ……いや、冷やすなら氷魔法か?
「おじさん、大丈夫ですか?」
おじさん?俺のこと?
心配そうな若い女の子の声が耳に届く。
顔を上げようとしたが、
「ばか、そんな怪しい浮浪者に声なんてかけるなっ!」
と、男の声が聞こえたのでやめた。
面倒ごとに巻き込まれたくないしな。
「でも、怪我をしているみたいです」
それにしても、おじさんは、まぁいい。
怪しい浮浪者だと?
こう見えてもおじさん小金はもってるし、住む家も借りている。コピー能力を持った不労所得者……ああ、不労者か。ぷぷっ。
「本当、メリシャは誰にでも優しいんだな」
「そ、そんなことないです。だけど、怪我をしているなら、私なら力になれると思ったから……」
「だが駄目だぞ。世の中は善人ばかりではないんだ。怪我を治してやっても感謝されるとは限らないんだからな」
「私、感謝されなくてもいいんです……。誰にも死んでほしくない……私の力で救えるのなら……」
随分なきれいごとだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます