第5話
もう一度地図を思い出す。左だ。左を突き当たりまで進んでから右。
道なんて確認しなくたって、遠くからもしっかり見える。
中世ヨーロッパ風の異世界にして、地上30階はあろうかというとびぬけて高い建物が城だ。
土魔法があるから高い建物も建てられたようだが、なんせ土だからな。強度などしれているだろう。モンスターの素材で強度を多少高めているとは言っても……。
城の天井はレーザー銃一つで簡単に大穴が開けられた。とても宇宙人に対抗できるほどのものではない。
「帰れ!」
城の周りに配置された兵に、槍の柄で突かれる。
「だから、大切な話があるんです!どうか陛下に会わせてください!」
「紹介状もない者が、突然来て陛下がお会いするとでも思っているのか!」
再び槍の柄で肩を押される。後ろによろめいて2歩後退する。
すぐに体制を立て直し、兵に訴える。
「いえ、ですから、大切なお話が……ウィール星人のことでとお伝えいただければ、陛下も会っていただけるかと」
「は?何をわけの分からないことを。ウィールセージーだとかウォールセージーだとか何のことか知らないが、伝えたいことがあるなら嘆願書でも持ってこい」
今度は槍の先でとん、とんっと、二回押され、3歩後ろに後退した。
ああそうか。
俺は鏡テレビであの騒動をすべて見ていたけれど……。もしかするとウィール星人との出来事は伏せられているのか?
確かに、服従しろと迫られ、城に攻め込まれた時のとっておきの魔法人を使った魔法を破られたなんて恥でしかないよな。
「嘆願書……」
嘆願書を出せば会えるのか?そこにウィール星人のことを書けば……。
「ああ、あっちで受け付けている。嘆願書は全国から集められるからな。今出せば2か月後には応急勤めの官吏の手に渡る。謁見を望むのであれば、その旨を書いておけ。運が良ければ半年後くらいに謁見がかなうだろうよ」
は?
「半年後?それじゃ遅いんだっ!1年しかないのに、半年もぶ……陛下に会うだけのために無駄にできないっ!何とか、何とか今すぐ……!」
ずいずいと兵に迫る。
「無理だ、無理!いいからもう帰れ!」
槍の柄でぐーっと肩を後ろに押される。
はしっと両手で槍の柄をつかんだ。
「頼む、この世界の運命がかかってるんだ。お前の命も、お前の家族の命も、そう、陛下自身の命も!」
必死に訴えかける。
「おい、なんだもめごとか?」
「今陛下の命がどうとか聞こえなかったか?」
槍の持ち主の兵が、周りに集まってきた兵たちの顔に困った顔を向けた。
「それが、こいつ、陛下に会わせろとしつこいんだ」
「何のために会うつもりだ?今、命がどうとか言っていたが、陛下のお命を狙っているんじゃるまいな?」
眉毛の濃い兵に睨まれる。
「陛下の命を狙っている奴らがいて、そいつらから陛下を守る方法を教えに来たんだよっ!だから、会わせてくれっ!」
「陛下のお命を狙っている奴らがいる?それなら、話は私が聞こう。我らの仕事だ」
うー。
「ウィール星人の話がしたいんだって!お前らに話たって分かんないだろうから、陛下に会わせてくれ!上司にウィール星人のことで話があるという男が来ていると伝えてくれ!ウィール星人のことをしている人間まで、話を上げてくれ!」
兵たちが顔を見合わせた。
「怪しいやつめ。どうする?」
「ただの頭のいかれた男だろう?」
頭はおかしくないよ。
っていうか、おかしくなりそうだ。1日だって無駄にしたくないっていうのに、こんなところで話がとん挫するなんて……。
思ってもなかった。
っていうか、当たり前か。
国の一番偉い人に突然会わせろって、日本だって、総理大臣に言いたいことがあると突撃したらSPにつかまる。
……畜生。どうするかな。
「紹介状があればいいんだな!誰の紹介状があればいいんだ?」
またまた兵が顔を見合わせた。
一人がバカにしたような顔をする。
「そうだなぁ。陛下がすくにお会いするほどの紹介状ともなれば、公爵家か、少なくとも伯爵家の紋入りの紹介状がなければ無理だろうな。もちろん紹介状があるからと言って必ずしもお会いできるとは限らないが」
公爵か伯爵か。
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