第4話

「あと何日ってカウントダウンしながら死を待つなんて、それこそ発狂死するっ!3か月後には首くくってるかもしれねーよ!」

 わかったよ。分かったよ。わかったって!

「あああああーーーーーーっ」

 かぶっていた布団を跳ね上げる。

 服の袖で乱暴に流れていた涙を拭き、コピーでため込んだ金貨と、数日分の食料を斜めかけの鞄に詰め込みドアを開く。

「おっと、忘れものだ」

 テーブルの上に置いてあったスマホを手に取る。

 ま、スマホって呼んでるだけで、実際は手鏡だ。要は鏡テレビの持ち運び用。鞄の中に乱暴に突っ込む。

「まずは王都だな。豚に宇宙人とは何か教える。で、対策をアドバイスしていく。対策としては、まず国同士が手を結ぶことからか……」

 おっと。豚じゃない。王様、王様な。えーっと、本人目の前にすたら「陛下」って呼ぶんだよな。


 歩いて1週間かかる距離を、金をつかって馬車に乗って3日で王都についた。ほら、俺32歳の体力ないおっさんだし。何か月も引きこもり生活してて筋力落ちてるし。

 馬車に乗っている間に、王都をスマホ……手鏡テレビで勉強した。ぐるりと100キロほど分厚い壁に囲まれている。

 厚みにして5mの壁だ。高さは6mほど。よく作ったもんだよと、一瞬思ったけどな。

 土魔法なんて便利なもんも存在するし、中国の万里の長城なんて2万キロ以上もあるっていうし、たかが100キロじゃないかと思い直した。

 ってか、異世界に来て改めて万里の長城すげーとか思ってる俺、日本が恋しいんかな……。帰れるなら帰りたいな。

 帰れないかな?1年後に宇宙人に皆殺しにされるほぼ決定のこの世界にいるより、ブラック企業で働く方がましなんじゃね?

 帰れないってわかってるんだよ。

 なんせ転移してから1か月くらいはひたすら鏡テレビで帰る方法を探して世界中見てたからな。


 さて、門をくぐるときには身分証明としてギルドカードを見せなくちゃいけない。冒険者ギルド、商業ギルドのどちらか。カードがない場合は、その場で鑑定魔法にかけられ、通行料として金貨3枚支払わなくちゃいけない。

 金貨3万。たっけーなと思うけど、んなこと言ってはいられない。金はいいんだ、金は。それより問題は鑑定魔法をかけられたその結果がどう出るかだ。

 異世界転移者だっての、ばれるのかどうか。この世界って不便なことにステータス見られないんだぜ?

「よし、次の者」

 金貨三枚を門番の一人に渡すと、隣の男が呪文を唱え始める。

「【光に照らさりし大地のように科の者に光を照らし正しき情報を我に開示せよ、リールドガーナファークルフラー、鑑定】」

 めんどくせぇな、呪文。

「名前、ヒロシスズキ。種族、人間。年齢、32歳。家族、なし。職業、無職。犯罪歴、なし」

 鑑定魔法をしたものが見えている何かを読み上げる。それを別の者が用紙にメモしていった。

 いや、いや、そんだけ?

 レベルとか、HPとかスキルとか、そういうのは?ねぇ?そういうの!

「お前無職か?仕事を探しに王都に来たのか?」

 門番の一人が気安く話かけてきた。チャラ男……と、日本だったら分類できそうな男がそのまま30になったような奴だ。

「32歳にもなって無職とか、嫁ももらえないもんなぁ」

 ニヤニヤと馬鹿にしたように笑っている。

 うるせーよ。別に結婚したくて王都に来たわけじゃねぇし。好きで結婚しないだけだし!モテないわけじゃないからなっ。

 えーん、門番がいじめる!

 くそ、くそ、いいんだよ、結婚したって1年後に死んじゃうんだからな!

 このまま死ねば妖精になれる綺麗な身なんだからな!死んだら妖精になって楽しんでやるんだからな!……えーん。

「でも、ラッキーだぞ。2日前にお触れが出て、兵の募集がかかったところだ。戦争でもおっぱじめるつもりか知らねーが、兵なんて入ったもん順で先輩面できるからな。まだ地方から人が集まってきてない今がチャンスだぞ」

 バンバンと背中をたたかれた。

 兵の募集?

 戦争って、まさか、マジで宇宙人とやり合う気か。いや、やり合わないといけないからそれはいいとしても……。人を増やせば勝てるとでも思ってんのか?

 しかもなに?先に入った兵が先輩面?どう聞いてもまっとうな兵力になるとは思えないんだが……。

「どうした難しい顔して。ほらよ、身分証明書だ。今度からコレがあれば金なしで出入りできるからな」

 クレジットカードのようなサイズの木札を渡される。書いてあるのは数字だけだ。

 どうやら鑑定結果をメモした紙の数字と紐つけられているらしい。マイナンバーカードかよ。変なところで日本より進んでやがるな。ははは。

 乾いた笑いが漏れる。

「ああ、ありがとう」

 どうやらニヤニヤ笑いは馬鹿にしていたわけじゃなかったようだ。俺を心配して軽口に交じって情報を教えてくれたんだから、親切な奴なんだよな?

「王都を楽しめよ!右に行って6本目を左に行くといい!」

 右に行って6本目を左?

 事前に勉強しておいた王都の地図を思い出す。

 花街じゃねーか!何を紹介してるんだよっ!兵の募集はどこだって教える場面だろ?いや、まぁ、うん。大事だけどな。うっかり足を運んでしまった時に「あれ?門番に教えられた場所に来てみたら……あれ?来ようと思ったわけじゃなくて、門番が……」って言えるしな!

 って、行かねーよ。

 今はそれどころじゃない。

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