第3話

 赤く細い光を出す銃を、ぐるりと1週させる。

 石造りの城の天井が丸く切り抜かれて落ちてきた。青い空が見える。

「うわー、マジか……マジで、マジなのか……」

 茫然として鏡テレビを見る。

 青い空に、突然ピカピカと何かが光って現れた。

『私はただの調査員だ。1年後、ウィール星第一戦団がこの星の住人を処理しに来る』

 空に浮かんでいるのは、丸い筒状の飛行物体。

 この世界には空を飛ぶ技術も魔法も存在しない。せいぜい空を飛ぶモンスターを調教して乗りこなすのが精いっぱい。ワイバーンと呼ばれるものに乗る騎士を「竜騎士」と呼んでいる国もある。本物のドラゴンでもないのに、御大層な名前を付けたものだと30分は笑わせてもらった。

 1年後、処理……。

 処理ってなんだ。破滅といっていた。破滅……処理……。

『その時に、もう一度この星の意思を確認することになるだろう。国ではない星としての意思だ。服従か破滅か。意思統一をしておくことだな』

 青い人間はその言葉を最後に、開いた天井の穴から降りてきた光のエスカレーターに乗って謎の飛行物体に吸い込まれていった。

 慌ててチャンネルを切り替え城の外へを映したもののすでに謎の飛行物体は姿を消した後だ。

 別の国の城へとチャンネルを移す。ミーナミ王国。

『陛下、1年後にやつらは攻めてくると言っておりました。いかがなさいますか』

『もちろん戦うにきまっておろう!』

 キッタ帝国。

『調査しろ。あの不届き物がどこの者か。地下にでも潜んでいた亜人か?それともモンスターが進化したのか。見つけ次第先制攻撃を仕掛ける』

『ですが、とてつもない魔法を使っておりました』

『はっ。やりようはいかにでもあろう。ねぐらに毒でもばらまいてやればいい』

 ヒシガシ皇国。

『……どうしたものか。あの力に対抗できるとはとても思えない。税を、税を上げよ。宝石を買い集めよ。美男美女をそろえよ』

『それは、貢物を用意しろということで?』

『仕方あるまい。他の国がやつらと手を組んでしまえば我が国はおしまいだ。先に手を組むことができれば……』

 鏡チャンネルを閉じ、ベッドにだいぶする。

 布団を頭からすっぽりかぶる。

「いや、だめだろ、だめだろ!」

 冗談じゃない。

 マジもんの宇宙人が攻めてくるんだぞ?

 あいつら王様ども、そろいもそろってバカかよ。

 ちんけな魔法で戦えるとでも思ってんのか。

 っていうか、星ごと手にはいるのに、宝石なんかで懐柔されるわけねーだろ。

 モンスターだとか下に見てるやつらの気がしれない。

 圧倒的に宇宙人のが進んでる。知能もある。そういう言い方をすれば、この世界の人間は下級種だよ。

 お前たちが、ゴブリンを見下すような目であいつらはお前たちを見てるんだよ。

 ガタガタと全身が震える。

 おしまいだ。

 もう、おしまいだ。

 1年、1年後には宇宙人が攻めてくる。

 きっと、宇宙船からレーザー砲みたいなのガンガン打ち込んであっという間にこの世界は死の世界に代わるんだ。

 いや、毒をまいてみんな殺しすのかもしれない。邪魔な生き物、人間を滅ぼした後に星に降り立つのかもしれない。ん?それなら戦団引き連れてこなくてもいいよな?調査団が服従しないって返事聞いたら毒まいて帰ればよかった……って、待て待て。

 毒なら、解毒魔法が有効なんじゃないか?

 地球じゃ毒なら毒の種類に合わせて解毒薬を用意しなければならない。だけれど、魔法はそんな必要はない。

 毒に、強弱はあっても、それに合わせた強さの解毒魔法を使えば回復する。なんだ。大丈夫じゃん。

「ってわけあるかー!絶対大丈夫じゃない!死ぬ。殺される!もし、服従を誓ったとしても、ろくな目にあわされない。奴隷扱いだろうよ!」

 だってさ、ゴブリンが素直に従うようになったとして、給料出して働かせるか?逆に逆らったら鞭を振るだけだろ?従っている間は生かしといてやる程度の待遇じゃね?

 従っても地獄。

 従わなければ死。

 せっかく異世界に来たというのに。

 不労収入を得て、毎日ゴロゴロテレビ見て過ごすつもりだったのに。

 あと1年の命……。

「あ!そうだ!」

 どうせ俺、引きこもって生活してるだけじゃん。

 だったら、どっか安全な場所探して隠れて生活したらいいんじゃないか?

 よし。そうしよう。

 でっかい干し肉とでっかいパンとか買って洞窟にでもこもろう。

 コピーで増やしながら消費すりゃ食べる物には困らない。

 困らない……わけないだろう!

 もう、同じものばかり食べるのは嫌だって絶対思う。

 誰かの声が聴きたいって絶対思う。

 引きこもっていられるのは、外に出れば誰かがいるのが分かっているからだよ。

 布団をひっかぶってガタガタと震える。寒いわけじゃない。

 いつの間にか、涙が流れている。

 なんでだよ。

 どうしてだよ。

 俺は、スローライフを送りたいんだ。天寿を全うするまでのんびり暮らしたかったんだ。

 コピースキルで悠々自適に……いや、自堕落な生活を満喫するつもりだったのに。

 この世界の人間は駄目だ。

 地球から転移した俺じゃなきゃ……。宇宙人なんてものがこの世にいることを、科学が進んだ世界の戦い方を……知っているのは俺だけだ。

「なんでだよぉ……怖いよ」

 レーザー銃だよ?宇宙船だよ?

 勝てるわけないじゃん。

 何もしなければ1年後に確実に死ぬ。

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