第2話 話かける颪ファン
安田と一緒のバイトの帰り道、横浜線で新横浜を通過した時にそいつに遭遇した。
横アリでアイドルグループ「颪(おろし)」のコンサートがあったらしくファングッズを抱えた大勢の若い女性たちが新横浜で電車に流れ込んできた。
結構、混んできたはずだが、俺たちの席の前には、フリルのついたモノトーンの服を着た大柄な女性が一人だけ立っている。どことなく金太郎人形に似た顔立ちの彼女の周りには大きなスペースがあり、他の颪ファンは彼女に近づくのを避けているかのようだ。
「ネノ、超格好良かったよね‼」
彼女はいきなり話しかけてきた。
周囲には友達らしき人影はない。彼女の視線は俺たちだけに注がれている。
「私、ネノと結婚したい‼ 私たちって似合っていると思うの‼」
なんだかやばいやつだ。安田も気が付いたらしく、こちらに目配せして狸寝入りを始めた。彼女はその様子を見て、俺の方に向き直った。
「ねえ、あなたは私たちのことどう思う。似合う? 似合わない?」
俺も安田に倣い、狸寝入りを始めたが、少し遅かった。彼女の話しかけは止まらない。自分がどれほど彼が好きで、二人がどれほどお似合いかを延々と話し続ける。
聴いているうちに、意識が朦朧としてきた。見えない重しが後頭部と背中にのしかかっているかのようだ。
〈中略〉
「ネノが私の横を通り過ぎた時に投げキスしたの、気が付いたよね!」
口撃は、続く。心なしか女の声が大きく響く様になってきた。
〝苦、苦しい、誰か、この女を黙らせてくれ〟
〈中略〉
いつ果てるかも判らない語り掛けが自分勝手なリズムで雪崩れ込んでくる。いい加減、次の駅じゃないか?
「気づいた? この人形達、メンバー全員じゃなくて、実は全部ネノなの‼」
彼女の腰には、5体の乾燥した小さな死体のような不気味な人形がぶら下がっている。
〝誰か、助けてくれ! これは拷問だ!〟
〈中略〉
〝もう我慢できない‼誰かこの苦痛から解放してくれ‼〟
口撃が続く中、いつしか心の中で救いを求めていた。
〝絶滅教徒に救いを求めるのね? いいわ、助けてあげる。目を開けなさい〟
つい最近、どこかで聞いた覚えのある声が心の中で囁いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます