第26話 檻の中から

 柵の向こうから、男の声が聞こえる。

「俺は神の使いだ!」


そうすると、別の方向から、他の男が叫ぶ。

「俺は神だ!てめえを使いに出した覚えはねえ!」


もうめちゃくちゃだ。自殺未遂でここに運ばれた。目が覚めたら周りの部屋は、神様やら神の使いやら、悪魔の手先やらで天地創造揃い踏みな有様だった。死んでいた方が、穏やかな世界に送られていたんではなかろうか。


そこへ野太いおばさんの声が割って入る。

「はいはい、神様もお使いさんも、ほら、そこの悪魔のあんたも!検温の時間だよ」

天地創造組も、このおばさんには逆らえない。


「世の中上手くいかないねえ」

私の部屋にやってきた、おばさんもとい、看護師さんは言う。

「生きても死んでも地獄なら、生きて地獄を見てから死ぬね、私なら。2度も見られてお得じゃないか。」

「・・・」

自殺未遂で運ばれてきた私に言うか?それを。検温をし、血圧を測りながらまた口を開く。


「死ねなかったんだろ。本物の神様かなんかが、入国許可をくれなかった、ってこった。生きるしかないんだよ、あんたもわたしも、誰も彼も」


独り言を呟くようにそう吐き出して、おばさんは戻って行った。

そうか、地獄行きのビザが降りなかったか。

生きるしかないのか。


気づくと柵の外の神様たちは消えており、家康やら秀吉やらがあらわれて戦国時代が繰り広げられていた。



 

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