第24話 一反木綿

 暗い田舎道。イヤだなあ、と思いながら歩いていると、白い布が不自然にはためいていた。何あれ?

しょせん布だし、畑のカラス避けかな?と思いながら近づいていく。紛れもなく布だった。それ以上でもそれ以下でもない。


安堵して、その場を通り過ぎようとした時だ。布が喋った。

「どうしてスルーするんですかあ?」

なぜ布が喋ったのか分かったというと、布が振り向いて顔が見えたからだ。

某妖怪アニメさながらの、愛嬌のある顔をしていた。それにしても、スルーって。現代語にどっぷり浸かっているなあ。


「いや、だってただの布にしか見えなかったから」

そういうと、あからさまに落胆した表情になった。

「これでも知名度は高いと自負していたんですが」

「一反木綿かな?」

「そうです!そうなんです!わー、やっぱり有名なんですよね!?」

ぱあーっと一転明るい顔になる。


「お姉さんいい人ですね!お礼に端っこを齧らせてあげます!!」


え、いらねーよ。そんな不気味なもん食えるかよ、と思っていても、一反木綿はさあさあ!という感じで先端部を近づけてくる。


「いや待って、人間が食べて害がないの?というか、何味なのよ」

「前回食べた人は江戸?時代の人でしたが、おいしいと大絶賛されたので、半分差し上げました!」


・・・ああ、明治から平成まですっとばかして、栄えある2人目は令和の私ですか。

前例があるなら仕方ない、端っこだけ頂くか、と申し訳程度に齧ってみると、まるで餅だった。

江戸時代には、たしかにご馳走だろう。

しかし、何故私は暗闇で餅味の一反木綿を齧っているのか。


何とも言えない気持ちを抱えつつ、意外に美味しい餅味だったので、三分の一くらい頂いた。良い夜だった。

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