第20話 ババアイーツ
出産後、家に帰ると惨憺たる有様だった。夫に「家事をする」という概念はなかったようで、カップ麺の空はゴミ箱からあふれんばかり、テーブルの上は本やらチラシやらが乱雑に積まれていた。呆然としていると、電話がなった。義母だ。
「あっちゃん、今日帰ってきたんでしょ?ご飯食べた?」
「いえ、これから作ります」
「持ってってあげるから!寝てな寝てな」
「家の中が散らかっていて、」
ガチャンと切れた。義母は話を最後まで聞かない。
テレビを見ながらげらげら笑い続ける夫を尻目に、生まれたばかりの子を抱っこ紐で抱えながら部屋を片付ける。涙を表面張力でなんとか溢れないように、目をしばたかせながら。
ピンポーン
義母だ、もう来たのか。窓から外を見ると、たしかに義母のカブが見える。
「ねえ、お義母さんだから出て」
夫の方を見ずに言うと、仕方ないなあ、といいながらブツブツと玄関に向かった。仕方ないってあんたのお母さんでしょ。
2人分の足音と共に、義母が部屋に入ってきた。そして
すっぱーん!!
と良い音がした。義母が夫の後頭部をスリッパでフルスイングしたのだ。
「ちょっとあんたあ!父親になった自覚ないのかあああ!!」
サイケデリックな紫色の髪に、工事現場からパクって来たようなヘルメットをあみだにかぶった義母が、左手に風呂敷、右手にスリッパで激昂している。なかなかシュールな絵面だ。
「あっちゃん、寝てな!食べ物は大量に持ってきた!片付けはこれからやっとく!」
なんというパンクなババアなんだ、お義母さん。
堪えていた涙がポロリと落ちた。
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