第15話 主よ、人の望みの喜びよ

 主は仰いました。

「汝の隣人を愛せよ」「汝の敵を愛せよ」


ならば、汝であるところの、私を誰かが愛してくれるのでしょうか?

汝たる私自身が「私」を愛せないのに、他の人間が愛してくれるとでもいうのでしょうか。私が誰かの「隣人」であり、「敵」であったとしたら、その誰かはきちんと私を愛してくれるのでしょうか?


主よ、見ていますか。


私は隣人も敵も愛します、ですが汝たる私だけは愛せません。

そのような不完全な人間を作りし主よ、私を地上に降り立たせて、荒野に放置されし主よ。私は善行を積み続け、私以外の人間を愛しつづけます。


苦行のような人生の果てに、私のくぐる天国の門は、たしかに待ち受けているのでしょうか。

 

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