第12話 川縁にて

 寂しくなると、近所の川に行く。大雨の時期は暴れ川となるが、冬のこの季節は水量がぐっと減り、川底が顕になって向こう岸に行くにも造作ない。さらさらと流れる細い水流を見つめながら、少し大きな平たい石に腰掛ける。ただひたすらに、光に反射する水面を見つめ、水の流れを聞くことで、頭の中を空っぽにするのだ。脳の皺にまで入り込んでこびりついた、訳の分からない寂しさを掃除するために。


ある日の夜、些細なことで家族と口喧嘩をしてしまい、気まずい空気に耐えかねて家を飛び出した。行くあてはない。夜空の星を見上げながら、ほとほとと川縁に向かう。


お気に入りの平たい石の辺りまで来て、先客がいることに気がついた。田舎で薄暗く、男か女かもわからない。私が小石を踏みしめるジャリ、という音でシルエットが振り返った。


人じゃなかった。何?かわうそっぽい。

「お嬢さん、道に迷ったみたいな顔をしておる」

かわうそでもなんでも良い、その言葉が、心に染みた。

「そんな酷い顔してますか」

「人間は難儀よのう」

隣に三角座りをして、星空を眺める。

かわうそ?も黙って星空をながめる。


しばらくして、立ち上がる気配がした。

「貉(むじな)の我が見える人の子よ、そろそろ去るでな、ゆっくりと思案するがよかろ。なーに、なんだかんだ言って大抵の人間は、しぶとく老いるまで生きておる。時間はたっぷりあるぞい」


にかりと笑って(いるように見えた)、川の向こうに貉は去った。


夜の川縁、不思議なこともそりゃ起こるだろう、となんだか妙に納得した。家を出た時のやるせなさや寂寥感は、もう失せていた。そろそろ帰るか、人の世界に。

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