第11話 カノープス

南の空に、一際輝くシリウス。実はもう一つ、あかるさ-0.7等と、非常に明るい星があるのだが、南中高度が低すぎて滅多に見られない。名前はカノープス。見られると縁起が良いことから、中国では「南極老人星」や「寿星」と呼ばれている。


☆☆☆

冬の寒さも本格化したある日、天文観測が趣味の彼が、ベランダから興奮気味に戻ってきた。

「アイちゃん、すごいもの見えるよ!」

星に興味がなく、暖かい部屋で動画サイトを見ていた私は、あーはいはい、といった感じで一応付き合うことにした。


「見て、ビルの明りがあそこに見えるでしょう?そこから右に、ちょっと言ったところに、赤い星があるんだけど、見える?」


PCをずっと眺めていたから、焦点が合うまで時間がかかる。しばらく言われた辺りをじっと見つめていたら、照明ではない、赤い星が見えた。


「あった。あんなに低い位置にあるんだね」

「すごいでしょ、あの低さだから、滅多に見えないんだよ。見たら長生きするんだって、僕たち長く一緒にいられるね!」


ものすごく重大なことを口走ったのにも気づかず、かれはまた双眼鏡片手に星を観察しはじめた。


長生きして一緒にいるって、意味わかってる?実質的にはプロポーズじゃないのか?暖かい部屋に戻り、あとで問い詰めてやる、と思いながら悶々と動画の続きを開いた。

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