第10話 花火

遠くから花火の音がする。冬にしては随分と打ち上げているな、結婚式場の花火ではないな。そう思いながらも、取り立てて気にも止めず、車を出した。珍しい冬花火を見ようと、手を擦りながら沢山の人々が道路に出ていた。

どこで打ち上げられているのだろう?


答えはすぐにわかった。城下公園だ。消防車と警察車両が待機しており、打ち上げている現場も植え込みの向こうに見える。


このゲリラ花火は、医療関係者へのエールが目的のようだ。城下公園のまわりは、感染症指定病院が林立している。この市は師走を迎えて感染者が急増、病床使用率が50%を超えた。


頭上に輝く鮮やかな花火を見ながら、涙が出そうになった。たしかにエールなのだろう、しかし、これは事実上の敗北宣言だ。新型ウイルスの押さえ込みに、私の居住区は失敗したのだ。


厭世的にすぎるだろうか。目を輝かせる人々を尻目に、敗戦を告げる花火を睨みつけるように再度見上げるのだった。

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