第7話 転がる恋

メンタルクリニックの佐藤先生のことが大好きだ。私の話をいつも熱心に聞いてくれるし、「それはつらいね、頑張ったね」と優しい言葉をかけてくれるし、それに、私の診療時間は、他の人よりも明らかに長い。

先生も私のこと、好きだよね?

結婚指輪をしていないは確認したし、「彼女いるんですか?」って聞いたら笑顔で「いないよ」って言ってたし。


診察の日には、いつもはしないお化粧を念入りにして、デートに行く気分で服を選ぶ。会えるのは2週間に1度、それもたった数十分。先生の立場を考えたら、先生から私を誘えるわけがない、先生は私からのアクションを待っているはず。


だから、今日は先生に告白する。


緊張しながら、待合室のソファーに座る。ほどなくして診察室から、先生が甘い声で私の名を呼ぶのが聞こえた。


「最近どうですか?」いつもはじめは同じ問いかけ。私が切り出すのを待っているのだ。

「先生、最近好きな人がいるんです」

「そう、どんな人?」

「先生です」


先生はにっこりと笑って、こう答えた。

「それは『陽性転移』といって、治療者に患者さんが好意を抱いてしまう現象なんです、あなたは私のことを愛してないですよ。そのうち消えますから、大丈夫」


いつもどおりの優しい微笑み、甘い声。とてつもなく残酷な答えを、どこか遠くで聞くように、ぼんやりとかみしめていた。

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