第4話 ワンルーム

 就職を機に、実家を出た。

六畳一間、ユニットバスにキッチン付きのワンルーム。築三十年で、少し立て付けが悪いけれど、家賃は安い。


電気とガス、水道の手続きは先に済ませておいた。たまった水をぬくために、水を勢いよくながし続ける。そろそろいいだろう、と水を止めて、段ボールの山から引っ張り出した薬缶に水を入れてコンロにかける。ボッ、チチチ。ガスも出る、良かった。


一度買ってみたかった、お店のティーバッグで紅茶をいれて、ふくよかな香りを楽しみながら、窓の光を眺めていた。気付いたら、私は泣いていた。


やっと、親の監視から逃れられる。


聞きたかった流行りの音楽を聴きながら、漫画や雑誌を好きなときに読める。買ったものを詮索されないし、誰と電話しても聞かれない。

クラシックじゃなくても、純文学でなくとも、誰と友達になっても、もうなじられることはない。


私は自由になれたのだ。ワンルームという城の主となって。

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