第13話 閉ざされた町
1
『きゃ、きゃ』
(こどもの声? 声が聞こえてくる。どこからだろう)
少年は一人、真っ暗な視界の中、声の主を探す。少年の名は、安達相馬あだちそうま。
「君は、誰だい。どこにいるんだい?」
安達の足になにかに掴まれたような感覚が走る。彼が目を向けるとそ彼の足には、無数の手が張り付いていた。
視界が明転する。白い床が姿を現す。周りには、白衣を着た人間、聴診器やらなにやら付けている。すると、あたりが真っ赤に染まり、彼はそのまま無数の手に引きずり下ろされる。床に、大穴が開き、その下には、一片の光も通さない暗黒が広がっている。
『『『出して、出して』』』
「うわああああああ!?」
彼は引きずり下ろされる。暗黒のそこに。
2
俺たちは、刑務所を離れ少し開けた丘に来ていた。大間や他の施設の人たちは「ここでまだやること」があると、分かれてしまった。
町の中でもこの場所は高い位置にある。町は盆地で森に囲まれていることが分かる。町の向こう側には、黒い物体が広がっている。
「本当に町の向こう側がみえねえ」
山県が唖然といった表情で独り言のように呟く。
「どうされました?」
京の宮先生が、安達に問いかける。
「京の宮先生、みんな。どうして、ここは?」
(それに、またこども? の夢を見たあそこは? 病院?)
「ここは、刑務所の近くの丘の上です」
「刑務所?」
「ええ、気を失ったあなたを私が背負ってここまで運んだんですよ。もっと食べたほうがいいかもしれないですね」
京の宮先生が、そう言って、安達のお腹をつまもうとしていた。
「ん…」
「こまちゃん? 心配したんだよ……」
小町に寄り添っていた。しずくが小町に声をかける。そのエメラルドブルーの瞳が潤いを帯びている。
「私です。玲子さん、迎えをお願いできますか。だいたいそのあたりです」
京の宮先生が、電話越しの相手にそう伝える。
「小町も起きたようですね。気分はどうですか」
「良くはありません」
そんな会話をしていると、玲子の運転する車が到着する。どうやら、病院の施設のものらしく中型車ほどの大きさがある。玲子とともに、俺と山県、安達、しずく、みやこ、小町は再び病院に向けて出発する。
出発する直前、京の宮先生もまた「この町で起こっていることを調べてきます。玲子さん。あとは頼みますよ」とその場を離れて行ってしまった。
坂を下り、道なりに車は走行し、そして病院についた。そこまで、俺たちは、一切会話を交わすことがなかった。
車から降り、山の方に自然と視線を向ける。俺の目線の先には、古びれた建物がある。そして、古い看板には、「恵南病院」の文字が印刷してあった。その文字はかすれ年期が入っていることが窺われる。
「どうしたの? 安達……えっと相馬くん?」
玲子が尋ねて来たのは、俺ではなく安達だった。安達に視線を向けると安達の視線の先には、俺の視線の向けていた建物があった。
「あれは、いつ移転だったかしら、私の生まれる前に、ううんそれよりずっと昔って聞いては……廃病院なんて見てどうしたの」
「いえ、何だか気になってしまいまして……」
「とりあえず、あなたたち、男子は私がまた治療してあげるから、いらっしゃい。なんで、こんなに怪我してるの。けんか?」
「いえ……」
説明しても信じてもらえないだろうと、答えることもできずに俯く。
「どうしたのかしらね。この町、町の中では連絡が取れるのだけれども、外の人とは連絡が取れないし、出られないらしいのよ。夢でもみているのかしら」
ラジオで言ってたわと付け加えて、玲子が、ため息交じりに肩を下している。そう言って、玲子は手招きする。それに応じて、俺たちは恵南病院の中に入っていった。
3
すっかり、辺りが暗くなり、ラジオの音が聞こえてくる。
『本日開催された成人式に参加されたお子さんが行方不明だとの通報が警察に寄せられている模様です。また、通信とトラブルのため町外との連絡が取れない状況になっております。関係者の話によりますと、昼の地震が影響している模様です。地盤が緩んでいる危険があります。森には、近づかないようにお願いします――」
俺は玲子に案内された病室で横になっていた。部屋には四台のベットがあり、内三つに人がいる。見知った顔である。山県と安達である。
「起きてっか? 青葉、相馬」
「起きてるぞ。山県」
俺が、山県にそう返す。
「おい、名前で呼べ」
「分かった。治憲」
「起きてるよ。治憲」
安達がけだるそうに起き上がる。
「それと、青葉くん、僕のこともせっかくだから、名前でよんでよ。何度も助けられっちゃてるみたいだし、ほんと、ありがとうね」
照れているのか、頭を掻きながら気恥ずかしそうに安達が提案する。
「いや、気にしないでくれ。相馬」
俺がそう返すと、治憲が横やりをいれてくる。
「しかし、青葉おまえ、昨日と雰囲気変わってねーか」
「確かに、僕もそんな気がするよ」
「そうか?」
俺には、まったくそんな気はなかった。ただ何かを守りたいそんな風に心が変わった気がする。そう感じて、すうっと自分の胸をなでる。
『ぱぱ……ボク……ここ』
エルの声が頭の中に響く。院内は動物禁止なのだから仕方ない。エルを自分の体に宿したまま、俺はベットでくつろいでいた。
「ああ、ここにいていいんだ」
「はあ、何言ってんだ、青葉」
変態でもみるかのように、僕をみつめて心配そうにする山県。
「聞こえないのか?」
「何が?」
「何って、エルの声だよ」
「ずっと、あの鳥『ぴーぴー』ってしか言ってねーぞ。」
『パパイガイ……ボクノ……コエ……キコエルノ……デンパ……スルトキ』
そうかっと軽く頷くと俺はもう話疲れたので、ゆっくりと目を閉じそのまま、ベットに身を預ける。
「様子見に来てやったわよ」
小町が、不機嫌そうに、またきまりが悪そうに眼を泳がせる。その後ろには、しずくとみやこの姿がある。
「おみあげ買ってきました!」
しずくが元気よく、ビニール袋を片手に持ち上げて手を振って来る。
突然、安達がベットから起きだした。
「どうした。相馬くん」
みやこが心配するように、これはどうしたのかしらと言わんばかりに尋ねる。
「呼んでるんだ……」
またもや、治憲が俺を見た目で相馬を見ている。返答になっていない答えを言い突然、相馬が病室の外に飛び出していった。俺たちは慌てて、その後を追う。
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