遠鳴堂あやかし事件帖




 食事の時刻、彼はめずらしく人間の姿をして席についていた。そして、明が台所に入っていくと、不機嫌そうに苦情を口にする。

「あれを食べると、変化ができなくなるようだ」

 明は目を丸くした。

「あれ……」

「あの黒い、甘いやつだ」

「チョコレートですよ」

 倫太郎が食卓に皿を並べながらくすっと笑った。「多聞さんは、ふだんは猫の姿でしょう。猫にとってチョコレートは毒なので、食べてから変化すると、苦しいんだそうです」

「……というか、チョコレートを、食べたんですか、多聞さん」

 明はじいっと、多聞を見た。「どこにあったのを?」

「……」

 多聞は澄まし顔でそっぽを向いた。猫と同じしぐさだ。

「香枝ちゃんにもらったチョコが減ってるなとは思ったんですよね……」

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