第21話 ミザワ軍事都市遺跡

 

「ハルカ。お金も入って来たし、新しい車両を買おうよ」


 ローズマリーの店『ミート』とイイタ商店のセレモニーが最終的には祭になってしまったが、大成功に納めたローズマリー一同は、遺物やジャンク品を多く積める車両を話し合っていた。


 街の防衛協力要請がまだ続いており、協力金も生きている。そのためローズマリーは資金を出資しなくても車両を買う事ができたのだが、カーショップに出向き車両を探して見ると、皆が納得する車両が見つからなかった。

 店員が取り寄せも出来ると言っていたのだれど、まだ具体的にどのような車両が良いか、判断がつかないでいたので断った。



「私から一つ提案。ミザワ軍事都市遺跡にまだ車両が残っているって噂があったのね。それで、まだ具体的にどんな車両が欲しいか悩んでいるなら、車両を探索するって手もあるし、車両を探索しながらどんな車両が良いか考えるのも良いと思うの…」


「マイ、噂があったなの?」


「うん。噂があった。なの。

 それは、モンスター襲撃事件前の噂で私が調べて探索に行こうかなと思っていたら、街がモンスターに襲われて、そのまま行かずじまいだったのだけど…まだ当時に検証したメモが残っていたはず… 」


「しかしマイ。ミザワ軍事都市遺跡って第三北都市の管轄で、この第八北東農園都市からだと第三北都市との境界線にある大きい都市遺跡だろ。

 行くのに時間も掛るが、短時間での探索では難しいのではないか?」


「ミザワ軍事都市遺跡に長期探索? コウちゃん、あそこ難易度が高いから楽しそうだね」

「うん。ドッカンドッカンできるね」


「ヒロミちゃんとサトミちゃんは探索ではなくて、ただ単に暴れたいんです?」


「キョウコ暴れると言うか、あれだ。ミザワ軍事都市遺跡はまだ警備システムが生きているだろ。その警備システムの警備機体がそこそこ強くて楽しませてくれるんだよな。強化服の調整も終わったし」


「うむ。私も身体の調整が終わり、チサトが言う通り楽しみたいが皆はどうだ?」


「はい! 私も新しい機動殻のシステムに慣れて動かせます」


「私も調整が終わっているかな」


「私たちは届いたばかりだからまだ…」

「うん。まだ…」


「みんな、いいなー。私の強化服はまだ来ないのかなー」


「ユイは最後で良いって言ったからでしょう。私も機動殻の調整を終えているわ」


 市長の護衛依頼でアオバ都市に滞在している時、ハルカの実家『アヤノ刀工房』に生命維持装置付き強化インナーを全員分製作してもらい、そのインナー上にドレスコードする戦闘ウェアもそれぞれがオーダーメイドし製作してもらっていた。しかし、滞在期間に全員分を作ることが間に合わず、ヒロミとサトミ、ユイの強化服は出来次第、輸送することになり、最近ヒロミとサトミの強化服セットが届いたばかりだ。


 アヤノ刀工房が製作したウェアは次の通りになっている。

 チサトは超人の怪力能力が発揮できるように、動きやすく装甲少なめで、サイドに深いスリットが開いたワンピース型。

 マイはトレーダーで遺跡探索を得意としているから、情報通信端末と同期し、動きやすく防御にも優れた機械装甲型のボディスーツ。

 ハルカはユイの支援することが多いので、ユイの動きに合わせられるように機動力とパワーを兼ね備えた機動殻。

 キョウコは高速戦闘を主体とするローズマリーの戦闘にまだ慣れていないので、パワーと防御力が優れ、多重照準ができる機動殻。


 以上がアオバ都市に滞在していた時に製作され、その後、各自が調整をし調整を終えていた。


 ヒロミとサトミは、女の子らしいフリルをいっぱい装飾した見た目重視のドレス型をオーダーしたのだが、当代の助言で術式が強力になるように特殊義腕と、オーダーメイドのドレス型を特殊加工したため、最近、アオバ都市から届けられたばかりなので、まだ調整をしている際中だった。

 特殊義腕と言うのは、腕に嵌める籠手のような装備で、術式が強化できる。その技術は、現世界の技術では術式のメカニズムを解明できないので、古代から旧世界そして現世界まで続くハルカの実家と言うより当代の技術で製作したものだ。


 ユイの強化服は、ユイが最後で良いって言っていたので、まだ届いていない。

 コウは強化服を必要としない身体なので、コウがサイボーグセンターに発注している機動殻が出来上がってから、機動殻のデータを基に足りない武装を作ることになっている。まだ届いていない。


「みんなノリノリになっちゃった… まだ確証がない話だけど、車両探しに行くのね?」

「マイ、大体の目星は付いているの?」

「大体検討はついているけど、見つからなかったら、買うってことで良いかな?」


 全員一致でローズマリーは、ミザワ軍事都市遺跡に行くことに決まった。


 マイが検討したポイントは数箇所あり、遺跡の面積が広く強力な警備機体も出ることから、余裕を持って遺跡探索期間は二週間と決め、高性能で高火力な武装を点検整備を行い、車両の点検し、充分な食糧物資も準備する。


 拠点を二週間留守にするので、その旨をマナ一家に伝えローズマリーの店『ミート』をマナ一家に任せた。


 今回の探索では小型戦闘車を残し、大型8輪駆動戦闘装甲車にトレーラーを連結させ、トレーラー上に大型浮上バイク三台を乗せ、ハルカの6輪中型装甲トラックにも遺跡滞在に必要な物資を積み込み、ミザワ軍事都市遺跡に向かった。


 ミザワ都市軍事遺跡は、首都アオバ都市から四大遺跡と言う重要遺跡に指定されており、その四大遺跡の中の一つがミザワ軍事都市遺跡になっている。旧世界の地上軍は宇宙軍と戦うためにミザワ軍事都市を創られたと言われ、遺跡の北部には遺跡の端から端まである軍事基地施設があり、宇宙から地上に向けられる攻撃を守るため遺跡中心部に地上高ハ百メートルのバリア塔が建っている。


 歴代ハンターから伝わる言伝えだと、ミザワ軍事都市の軍事基地施設内部は旧世界の遺物は残っておらず、旧世界の民が外宇宙に旅発った時に、軍事設備全て丸ごと撤去したとも言われ、基地施設に侵入することすら困難だと言伝えが残っていた。

 現在でも命知らずのハンターが言伝えは迷信だと思い上がり、軍事基地施設に侵入して行くのだが、そのまま帰らぬ人になるハンターが多くいる。


 そんな高難度の遺跡に向かってローズマリー一行は山を越え、谷を超え、川を超え、汚染された険しい道を進み、半日掛かりでミザワ軍事都市が見渡せる山まで辿り着いた。


 山の上から見えるミザワ軍事都市遺跡は、半径二十kmもありヒライズ都市遺跡よりも大きく、北部の軍事基地施設を除き、倉庫地区、工場地区、住宅街に商業施設が混在している地区、そしてバリア塔がそびえ立つ中心地区には高層ビル群、繁華街が立ち竦んでいる地区が見えた。

 遺跡周辺には、途中で寸断されているが遺跡内部に繋がる幹線道路も見えた。


 ローズマリー一行は幹線道路に向かって真直ぐに進み、遺跡に向かって伸びている幹線道路の間近まで進んだ。


「近くまで来てみたらすごい大きな道路! 片側5車線もあるよ!」

「両方合わせると10車線。アオバ都市にもこんなに大きな道路はほんの一部しかないのにすごいね」


 マイが現在位置と地図情報を照らし合わせ、進む道を案内する。


「この大きな道路は倉庫地区まで伸びているから、このまま大きな道路に乗って進み、遺跡内部の倉庫地区に入ろう。 そして、そのまま今日は倉庫地区で一旦基地造りかな…」


 時刻は午後中時を過ぎており、早く遺跡内部で宿泊する基地を作らなければ、夜になり危険度が増す。まだ日が出ているうち基地を作り、身の安全を確保しなければならない。

 一同はマイの言に頷き、遺跡内部に侵入する隊形を作るため、トレーラーからバイク三台を降ろし車列組み、遺跡内部に向け進行する。


 大きな幹線道路に乗り進み、遺跡の外周部が近づいてくるたびに、天を貫くほど高いバリア塔の存在感が増し、天を貫く塔の周辺には壁のように見える高層ビルが建ち並び、大きな都市遺跡ならではの風格が緊張感を高ぶらせる。


 遺跡の外から見える外周部は、半壊した建物や崩れ落ちた建造物が見渡す限り見え、瓦礫の中に鉄柱が突き刺さり廃墟化しているように見える。しかし、幹線道路は綺麗に舗装されている。


 今走行している道路も補修システムが生きており、補修機体が存在するのだろう。

 各車両のレーダーシステムを各車両にリンクして索敵範囲を広げ、外周部に入る。


 ミザワ軍事都市遺跡が高難度の遺跡のため、この遺跡に来るのは高ランクカンパニーが多い。しかし、高ランクカンパニーはヒライズ都市遺跡へ行っているのか、ローズマリーの他に存在するハンターカンパニーが見られず、外周部は鎮まり切って不気味なくらい静音になっていた。


 外周部から進むに連れ、半分崩れ落ちたビルやハチの巣のように穴だらけのビルから、一部砲弾痕は残っているが綺麗に建っているビル、傷一つもないビルに変わり、やがて原形が綺麗なビルだけが並び、ドームのような倉庫が並び建つ地区まで進行してきた。


「もう少し進むと大きな道路から降りるところがあるから、そこで降りて。

 倉庫地区の真っ只中だけど、他の地区まで行くと野営基地を築く頃には夜になってしまうから、降りた場所で安全な所を探し出して、野営基地を造りましょう」


「マイ。倉庫地区の真っ只中って… 大丈夫なのか?

 周りの風景を見ると、警備機体の他にもハンターが暴れた痕を修復する補修機体だっているだろう。それに建物の内部だって守衛機体もいるだろうし…」


「あらチサト。怖がっているの?  今、この遺跡は静寂に包まれているわ。 

 だって、ここに辿り着くまでハンター識別レーダーは全然反応を示さなかったわ。それはどういう事か、遺跡を刺激する刺激物がいないってことなの」


「うむ。大抵のハンターは警備機体やモンスターを見つけると、すぐに攻撃して倒してしまい遺跡の警備システムを刺激してしまうが、私達は警備機体やモンスターを見つけてもやり過ごし、何事もなかったように進行して遺跡の警備システムを刺激していない。

 つまりは遺跡を刺激しなければ、どうって事ないのだ」


「でもコウちゃん。やむを得ないことだってあるでしょ?」


「そういう時は一撃離脱よ。警備システムの一部である警備機体はネットワークで今何が起きているか情報データをリンクさせていて、リンクが切れた警備機体の周りに警備機体が集まるって言われているわ。そのため警備機体を倒しても、グズグズせず直ぐにそこから遠く離れると追って来ないのよ。だから一撃離脱なの。

 それに、他にハンターカンパニーがいないから警備機体の姿が少ないわ」


「じゃあ、私達は高性能な装備で来ましたが、なるべく戦闘をしないようにするってことなんです?」


「うむ。キョウコ、そういう事だ」


「トレーダーの私が遺跡中心部に潜入して探索する時は、隠密行動が鉄板なの。

 遺跡中心部で警備システムを下手に刺激してしまうと、強力な警備機体や強いモンスターにあっという間に囲まれてしまうのよ。遺跡中心部にいるモンスターは警備機体とは違う行動しているけど、モンスターも遺跡を守っているのは共通しているの。

 だから、今回は遺跡内部の奥深くまで潜入することになるから、なるべく戦闘は避けた方が身の安全かな」


「では、暴れられないってことか… 私はてっきり暴れられると思っていたのに…」


「チサトちゃん。脳筋?」

「うん。話を理解していない脳筋」


「まとめると、今いる場所は遺跡中心部に近い地区に居て、もしここで戦闘をしたら、続々湧いて来るすごく強い警備機体やモンスターに取り囲まれて、戦闘をしても切りが無いので遺跡外に脱出。

 今日一日が無駄になって、明日からは戦闘をしながら探索しなくちゃいけなくなるってわけね」


「うむ。ユイの通りだ。わかったかチサト」


「それでもな… ハンターなら誰だって夢見るアヤノ刀工房製の強化服を提供してもらって、それを発揮できないとは…」


「チサト。私の実家で造った強化服は身体能力だけを強化するために造られた強化服ではないわ。

 戦闘だけじゃなく遺物探索にも向いている品物なのよ。

 皆が調整を終えたばかりの、皆共通の強化インナーは肉体や神経に通じていて制御装置で出力を調整して身体能力が上がり、高出力にするほど繊細な動作が必要になるわ。そして微細な動作にも補正が入り、銃の照準器を覗き込んだ時に手のブレを無くし固定もしてくれるわね。

 身一つだと意思から身体が動くけど、強化インナーを着用すれば、インナーが意思を読み取り身体よりもインナーが早く動くから、身体と強化インナーの調整が必要になり充分に訓練が必要になるのよ。

 そればかりの機能性ではなく体温調整、疲労回復、怪我をした時には回復薬を注入して痛みも無くあっという間に怪我が治るわ。でも腕を失ってしまったら生えてこないけど…

 戦闘ウェアはそれぞれで違うけど、モンスターから発見されにくいステレス性は共通しているのよ」


「わかっているけど…」


「いいな~… 私も早く欲しいよー。ハルカー体温調節ほしいよー」


「ユイは泣かないの!」


「ユイさんもチサトさんも悲しまないでください。

 あそこ、基地造りに良さそうな場がありますよ」 


 一行は話をしながら大規模な倉庫が並んでいる倉庫地区に辿り着き、宿泊基地にできそうな場を探して、規模が小さい倉庫や事務所などがある区画を走行していたところ、大型トラックが五台は停められる二階建ての建物を見つけた。


 基地に向いているかいないかを確認するため、一行は車両から降り、その建物周辺を見て周る。警備機体やモンスターが見えないばかりか、風の音もしない沈静な場で見通しが良い場所だった。

 次に建物内部を確認するため警戒しながら扉を開ける。そこは何も無いガランとした建屋内だった。建屋の内部は、隅の方に二階に上がる階段があり、外からでは判らなかったがガレージの扉のような倉庫の扉ような大型8輪駆動戦闘装甲車を入れる事ができる大きな扉があった。それから警戒しながら二階に上がり、潜入すると空き部屋のように何も無く、床まで陽ざしが入り込む大きな一部屋だった。


「建物の構造をスキャンして見たが、頑丈な作りをしている。周辺も見渡せるから宿泊基地に向いてそうだな」


「そうね。一階をガレージに出来て二階は空き部屋。身を隠すには調度良いし車両も隠せるから最適な場所ね」


 コウは特殊な目で、マイも特殊な装置で建物を見て周り、宿泊する基地をこの建物に決めた。


 基地にする事を決めたら、今度は全車両をガレージに入庫し、その後、慌ただしく基地造りを始める。

 全員が情報通信端末の索敵レーダーを持っているが、モンスターが建物に近づいたり侵入時に知らせる電波を張り巡らせた電波網の警備装置、機械式の細いワイヤーを張り巡らせる警備装置を数箇所に設置し、警備装置が作動すると連動で動く簡易設置型のビーム兵器も同じく数箇所に設置して、基地造りを終えた。

 

 全ての作業が終わる頃には陽が暮れ周辺が薄暗くなっていた。


「マイさん。結構念入りに見張り装置を設置しましたけど、しばらく此処を基地にして車探しするんです?」


「うん、そう。私が検討したポイントに今いる倉庫地区は入っていないから、戦闘を避けられる此処が良いの。

 明日からは探索に出るから多少の戦闘もするでしょう。戦闘をしたら警備システムが活性化するから探索をしない場所が基地に向いているのよ」


「では、この周辺は探索しないってことか」


「うん、昔はこの地区でも見つかったってデータが残っているけど、今は全然見つかった報告がないから」


「マイちゃん。明日はどこに行くの?」

「うん、気になる」


「明日は商業地区の大きな商業施設よ」


「大きな商業施設かぁ… 遺物いっぱいあるといいね! 

 じゃあ、今日はここまで。

 各自車両の点検、手が空いている人はご飯の準備をして、しっかり明日の準備をしよう」


 当面の間、この建物を宿泊する基地と決めたローズマリー一行は火を焚き食事の用意をしながら、ミザワ都市遺跡に来る途中、モンスターとの戦闘があったので車両の点検をした。その後、交代で見張りをしながら車両探索初日の一夜を過ごすことにした。



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