第20話 ヒライズ都市遺跡


 昨夜、ローズマリーが主催する祭を楽しく過ごしたサーフランカンパニーは、翌日早朝に補給部のビラフと数人のメンバーを残し、ヒライズ都市遺跡に向けて出発した。

 

 全長五十m超、幅三十m、超大型の陸上巡洋艦を微速前進で、モンスターに出会わないように遺跡に向かう。

 陸上巡洋艦ほど大きなものを動かし走らせると、地表に響く地鳴りや金属が動く大きな機械音で、小型モンスターばかりか大型モンスターまで襲ってくる。そのため、陸上巡洋艦をゆっくり走らせ無駄な戦闘を避ける必要があった。

 

 サーフランカンパニーは無駄な戦闘を避けながら、丸々一日を掛けてヒライズ遺跡に到着した。

 ヒライズ都市遺跡は直径三十kmあり、遺跡内部の中間地域から中心地域まで警備システムが作動しており、警備機体の他にもモンスターが動いている。

 

 遺跡に到着した当日は、ヒライズ都市遺跡の地形や現状を確認するため、小型飛行無人偵察機を使い警備機体の確認、上空から得た地形を元にアオバ都市で得た地図と照らし合わせ、ヒライズ都市遺跡の全体像を確認した。

 

 翌日早朝、地図情報を確認したサーフランカンパニーは、直ちにマッスル・レディー討伐に向かうのではなく、まず始めにハンターオフィスから極秘で受けた依頼、遺跡調査から始めるため動き出し、艦橋の作戦指揮所でライズが指揮を執り、上空に無人偵察機を飛ばし、スープラが率いる強襲偵察隊の人型兵器五機が先行し、その後に援護支援の戦車隊三機をクリミが率いて、ヒライズ都市遺跡内部に侵入して行く。


 サーフランカンパニーよりも早い時間に、遺跡内部に入った数多の高ランクカンパニーが戦闘していたため、外周部は昨日得た情報より瓦礫化が進み、倒壊したビルが道路を不規則に塞ぎ、大型モンスターも通路に倒れ、道路を塞いでいた。

 ハンター対モンスター、ハンター対警備機体、戦況によって地図情報の地形が大きく変わり、地図が役に立ないばかりか、外周部は迷路のように変わり果て、ヒライズ都市遺跡の地形が日々変わり、ヒライズ都市遺跡攻略の難易度が解る。


 強襲偵察隊が外周部から内部へ進み、瓦礫を避けながら中間地域に入った。

 そこには倒壊したビル、数発の砲弾痕を修繕したような跡を残しているビル、傷一つもない綺麗な形をしたビルが点在している。警備機体の他にも、ビルの補修システム、ビルを守る守衛機体も生きている事を窺わせ、緊張感が増す。

 一際激しく戦ったであろうと思われる地区も数か所あり、強力な警備機体が存在していることも知り、油断できない。

 

 緊張しながらも強襲偵察隊が周囲の警戒を続け、先を進む。

 中間部の一角から、先行しているスープラの人型兵器からマッスル・レディーが滞在していると言われるストロベリービルの屋上が見えて来た。


「あれがストロベリービルか? 先が長いな…」

 

 屋上だけ見えるストロベリービルを見上げ、スープラが緊張交じりの溜め息を吐く。すると、ハンター識別レーダーに一人の反応が示された。

 レーダーに写ったハンターもこちらを確認しているだろうが、こちらに通信を繋げずに、ジワジワと向かって来ている様子が見え、不審な動きをしている。

 スープラがレーダーに写ったハンターに何用かと通信を接続し、所属カンパニーと主目的を問う。


「こちらサーフランカンパニーのスープラだ。貴殿の所属カンパニー及ぶ主目的を問いたい」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「こちらサーフランカンパニーのスープラだ。貴殿はこちらに向かっているようだが、何か不規則な事態でも有ったのか?」


「・・・・・・・・・・・・・」


 返信が無いことを不思議に思い、スープラは通信の電波状態が悪いのかと、自分の情報通信端末の電波状態を確認したが、電波状態は良好だ。

 なのに返答がない。


「こちらサーフランカンパニーのスープラだ。返答を願いたい!」


「・・・・・・・・・・・・・・」


 三度の通信でも返答がない。向かって来ているハンターが何らかと戦闘し通信端末が壊れている可能性も考えられる。

 壊れていてはどうにもならないが、高ランクカンパニーは多チャンネルの情報通信端末を持っていることが多い。念のためスープラは多チャンネルで通信を試みる。


「こちらサーフランカンパニーだ。返答を願う」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 多チャンネルでも返答がない。不審な動きをしながら、こちらに向かってジワジワ近づいて来る。

 スープラ達はこの場所までに至るまでレーダーの反応に大きな戦闘を確認していなかった。怪我をして一夜、瓦礫の中で過ごした事も予想され、引き続きスープラは繰り返し通信を続けた。


 識別レーダーに、返事が無いハンターが直ぐ傍まで近づいて来ているのが示された。

 通信から人型兵器の外部スピーカーに変え、返事が無いハンターに声を掛ける。しかし、スピーカーからの音は周辺にまで聞こえているはずなのに返事が無い。


 強襲偵察隊に奇妙な空気が流れ、返事が無いハンターの方向へ人型兵器の武器を構え向けた。


『まさか、だと思うが…俺達の装備を奪い、奪った装備でマッスル・レディー討伐に向かう気か? いや違うな。こっちは人型兵器だ。いくら高レベルのハンターだからって人型兵器に敵う訳がない。

 だとしたら…資金がパンクして自棄になり、俺達を襲い装備を分捕り売り払う?…これも違うな。

 そもそもマッスル・レディー討伐を狙い、ヒライズ都市遺跡に来たハンターが資金をパンクさせる訳がないか…

 では、なんだ?…』


 ハンター稼業には資金力が必要だ。弾薬一つにしても金が必要なため、資金が尽きたハンターの中には遺跡内部でハンターを襲い装備を奪う。それを金に換金して資金に充てるハンターもいる。


 スープラ達はその類だと予想し、返事が無いハンターに銃を構えた。


 外部スピーカーから声を掛け続けているが、ビルの影から返事が無いハンターの影が見えた。

 既にスープラ率いる人型兵器に銃を向けられ、一向に返答をしないばかりか、人型兵器に向かって発砲してきた。

 

 返事が無いハンターと同じく臨戦態勢に入っていた強襲偵察隊、人型兵器五機は返事が無いハンターの不意打ち攻撃をスラリと躱し、反撃に打って出る。

 返事が無いハンターも高レベルハンターの動きを見せ、身体を大きく動かし人型兵器の弾丸を躱し、ビルの影に隠れ、攻撃してくる。

 

 こちらは高性能で強力な人型兵器五機。返事が無いハンターも高性能な装備を付けてはいるが、人型兵器には及ばない。すぐさまに人型兵器で取り囲み、四方八方を塞がれたハンターは射殺された。


 倒れたハンターがどこのカンパニーなのか確認するために、スープラが人型兵器から飛び降り、倒れているハンターを確認する…

 うつ伏せで倒れているハンターを脚で蹴り、仰向けにする。すると、ハンターの顔色が人の肌をしていなかった。人の肌が緑色の肌に変色し、傷口からも緑の血を流している。

 

 これはモンスター化している証だ。


「ライズ。通信で見ていたな。こりゃあヤバイぞ…」

『あぁ、見ていた。倒したハンターのハンター証を確認できるか?』


 スープラがモンスター化したハンターのハンター証を取り出し、身元データをライズに送る。

 その作業を見守っていた強襲偵察隊の一人から外部スピーカーで声を掛けてきた。


「おい、スープラ。早く機体に戻れ! 他にも出て来たぞ」


 ハンター識別レーダーに倒したハンターと違うハンターの反応が示され、こちらに向かってくる様子が写し出されていたのだ。

 スープラが機体に乗り込むまでに、ハンターの反応が一つ二つと増え続け、強襲偵察は周りを警戒しながら、向かってくるハンターに多チャンネルで通信を入れた。

 

 しかし、どのハンターも返答をしない。


『スープラ、撤退よ! ライズ構わないわね?』

『許可する』


 後方支援の戦車隊もその様子を見ており、危険を感じたクリミが強襲偵察隊に撤退命令を下した。


 強襲偵察隊の人型兵器は機動力を優先させているために装甲が薄い。逆に後方支援の戦車隊は追加装甲を装備しており、対戦車ロケット弾でも装甲を破ることは出来ない頑丈な装甲戦車に仕上がっている。

 装甲が薄い人型兵器を守るため戦車隊が前に出た。

 

 クリミは向かってくるハンター達がモンスター化していると判断し、戦車三機がビルの壁ごと強力な戦車砲を放ち、モンスター化したハンターを撃つ。しかし、モンスター化した無言のハンターも元は高レベルハンターだ。砲弾の爆風を避け逃れ、強力な実弾ライフル、ビームライフルで反撃してくる。

 戦車隊は崩れ落ちた瓦礫を盾代わりに上手く使い、モンスター化したハンターの攻撃を躱し応戦する。

 

 人型兵器五機が戦車隊の後方に周り、人型兵器も応戦しながら両隊と共に後退した。


 その様子を映し出している無人偵察機が真っ白に光り撃ち堕とされ、艦橋のモニターが真っ黒になる。


「くそ! 機関砲でも跳ね返す無人偵察機の電子障壁を破壊しただと…」


 さすが高レベルハンターだったハンターだ。


「クルミ、無人偵察機がやられた。レーダーだけで詳しい状況がわからん。撤退指揮を任せる」


 モンスター化したハンターは既に十人を超え、後退している戦車隊に発砲しながら追って来ており、戦車隊は戦車砲と副砲を撒き散らし、人型兵器も小型誘導ミサイルで迎撃応戦する。崩れかけたビルが倒壊し、傷一つも無いビルからも破片を飛び散り、道路が瓦礫で塞がる。

 瓦礫に瓦礫が重なり、追って来るモンスター化したハンターの行進速度が遅くなり、戦車隊と少し距離が開く。距離を離されたモンスター化したハンターがロケットランチャーを放ってくる。だが戦車隊の四方八方に撒き散らす副砲にロケット弾が迎撃され、空中で爆発する。


 陸上巡洋艦の艦橋からは、遺跡内部で瓦礫の粉塵が巻き上がり、爆発の赤い光も映り込み、侵入した部隊の戦闘が激しいことが一目でわかる。あと少し後退したら、戦車隊と強襲偵察隊は高層ビルが無くなる外周部に戻って来る。

 ライズは陸上巡洋艦から戦車隊、強襲偵察隊の撤退支援を行うため、艦内に砲撃の準備を知らせ、中間部から外周部に戻ったクリミの戦車からレーダー情報と共に映像情報が届き、データリンクさせた。

 

「これより撤退の援護を行う。艦砲射撃用意」


 クリミから送られてくるデータをリンクさせた陸上巡洋艦の各砲台が座標照準を合わせる。


「撃て!

 各隊を収艦後、遺跡から離れる。機関部、後進準備。」


 巨大な陸上巡洋艦から轟音が鳴り、空を切る砲音を鳴らしながら、200㎜艦砲が炸裂し、建物が爆発した。


 戦車隊の目前で200㎜砲弾が降り注ぎ炸裂する。高威力の砲弾でビルがあっという間に崩れが、クリミ達戦車隊には被害が及ばない。陸上巡洋艦の砲手も高レベルのハンターで結成しているからだ。

 クリミは瓦礫や破片を飛び交う爆風の中、戦車隊と人型兵器は後進を加速させ、外周部から離れ、クリミ達を追うモンスター化したハンターは、外周部から外には出なかった。


 人型兵器隊、戦車隊が陸上巡洋艦に戻り、安全確保のため陸上巡洋艦を遺跡から十kmほど離した。


「おい!バータ! 事前情報と全然違うぞ。しかし、どうなっているんだ?」


 サーフランカンパニーは今の戦闘記録をアオバ都市に送り、作戦変更を過ぎりなくされた。


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