第19話 ローズマリーの店


 第八北東農園都市には賞金首マッスル・レディー討伐に向かうハンター以外にも、多くの開発業者がやって来ており、街の活気が戻りつつあった。

 サーフランカンパニーと別れてから、暫くBARで街に来たハンターの様子を見てから拠点に戻り、メンバー全員も拠点に戻っていたので、ユイがマナの両親の話をした。


 ユイがマナの両親の事情を説明し、皆も考え始め、自然と会議の時間になった。


「マナちゃんが頑張っていますから、もう少しで店が開業できる所まで来ています。

 ご両親も働くことで開店準備が加速して、いつでも店を営業開始にできますね」


「両親も働くのは良いが、三人分の雇い賃は大丈夫なのか?」


「それなら問題ないわ。今のところローズマリーの預金は充分にあるし、マナ一家に店番を任せることで、皆もそれぞれ好きに仕事できるから、八人で三人分のお給料を作れば良いわけよ」


「ハルカさん、お給料ってどのくらいなんです? 」


「そうね~ 私の実家なら分かるけど…」


「ハルカ、アオバ都市と、この街第八北東農園都市とでは、賃金相場が違くないか?」


「チサトの言う通り、そうなのよね…

 マイは良くハンターオフィスに行っているでしょう。何かわからない?」


「私に聞かれても困るよ。皆が分からなければ、ハンター同様に両親と交渉すれば良いと思うけど…」


「うむ。街の住民もハンター同様に交渉し、賃金を決めろって訳だな」


「じゃあ。お給料はご両親と相談って事で! 

 マナちゃんのお給料も決めていなかったから、マナちゃんも相談って言う事で!

 で良いかな?」


「でもユイ、両親が只働くだけでは、何だかもったいないような気もするなぁ… 倉庫には、まだ空きがあるし…」


「私もマイさんと同じこと思っていました。

 さっき、ご両親が来た時から考えていたのですけど…ハルカさんの実家みたいに店を二つに分ける?感じにすれば良いのじゃないかなって思いまして…」


「うふふ…キョウコは私の実家を良く見ていたのね。いいわ! 私の実家は鍛冶場と製作工場があるのよね。すごくいいわよ、キョウコ!

 マナ一家には、ローズマリーの店を間借りしてもらいながら、店の店番をしてもらいましょう。

 利点は、マナ一家のお給料から家賃を差し引くことができること。

 もう一点。こっちの方が重要だわ。

 私たちはモンスターから剥ぎ取ったジャンク品や、スクラップ場でかき集めた鉄くずや電子部品、遺物などを売る事になるけど、マナ一家が加わると言う事は、ハンター用品も売ることができるってことよ。ジャンク素材からハンター用品まで扱うことになるわ。

 それはどういうことかって言うと、客層が厚くなるって事なの。皆わかるかしら?」


 ―――――――――――――。


「簡単に言うと、八百屋が肉屋までやるってこと? 

 野菜を買うついでに肉まで買う。お客にしてみれば都合が良くなり便利になる」


「マイの言う通りよ。武器専門店は武器を目当てにくるお客だけど、武器専門店でも強化服や装備品も扱うと、武器を買いに来たのに、他の商品までついでに買う事があるわ。

 それに店主や従業員が気に入ったり、店の雰囲気が客と相性が良ければ、武器専門店なのに武器を買わず、装備品や強化服だけを求めて買いに来るお客もいるのよ。

 もっと簡単に言うと、マナ一家の店のお客までうちの店に来るってことなの」


「でもさぁ、ハルカ… マナちゃんのご両親は客が来なくて再建が難しくなったって言ってたよ」


「ユイの意見に合わせて言うと、ハンター用品店は他にも有って、今街には新しくこの街に拠点を置くカンパニーも増えている。客がこちらに流れてくるのは難しいじゃないか?」


「チサト。店のブランドの話か? 店のブランドの話なら今街にいるトップカンパニーであるサーフランカンパニーを使えば良かろう。『おとり作戦』だ!」


「コウ。それは『おとり』じゃなくて通称『さくら』って言うのよ。良く無名のブラントがやるわ。

 うちの店には、こんなに素晴らしいお客さんが常連で来ていますってね」


「ハルカ。何か良い案があるの?」


「ユイとコウはさっきBARで、そのトップカンパニーと話していたのよね。ユイと連絡先を交換してまで」


「うん」


「なら、そのトップのカンパニーを呼べば良いわ。目立つようにして」


「まだ開店していないのに?」


「開店してもしなくても、街の人達に私が鉄くずを製鉄した物や部品をちょくちょく分けて売っているでしょう。ハンターが来ないっていうのもあるけど…

 街の人たちは、郊外に停めてあるあの大きな陸上巡洋艦に興味が湧いているわ。それはハンターも一緒でしょう。

 あの陸上巡洋艦の持ち主ってトップカンパニーなのよ。そんな立派なハンターが家に来たら、みんな驚くでしょう」 


「派手な装甲付き強化服を着た人達がトップカンパニーの人達でしょ。わたしたちも見たよ」

「うん。見た。一目見ただけで高レベルのハンターってわかったよ」


「では、どうやって呼ぶかだな?」


「うむ。それは簡単だ。他の都市の連中は、天然食材が高額過ぎて食べる機会が少ない。ユイとヒロミサトミが天然のイノシシを狩って帰って来ただろう。それを餌に呼べば良い」


「交流会ってことね」


「あぁそうだ。良かったなチサト。脳筋ではないと言うことが証明できるぞ!」


「おい! コウ、喧嘩売っているのか!」


「あれ? チサトちゃん天然の肉だよ」

「そうだよ。天然のお肉だよ。料理したくないの?」


「なんだ?ヒロミサトミ、私の料理が食べたいのか?」


「やっぱりチサトちゃん脳筋?」

「うん。脳筋。話の流れについていけてない」


「チサトさん。交流会に出す食事を作って欲しいってことですよ!」


「そう言うことか! アハハ…」


 会議しているところにハンターオフィスから通信が入った。緊急依頼の報酬金を振り込んだ確認の通信だ。

 振り込まれた金額は五億ゼニーに達しており、キョウコとマイが所属していたカンパニーが清算していたために、キョウコとマイの前カンパニーの分もローズマリーに振り込まれた。


「マイ、キョウコちゃん、お金どうしようか?」


「私はもう、前のカンパニーを清算しているので、ローズマリーのお金で問題ないです」

「私もキョウコと同じ」


「何だか気が引けるな。皆はどうかな? 何か良い案がある人?」


「ユイの気が引ける気持ちすごくわかるわ。キョウコとマイがいた前カンパニーも街の人達と仲良くしていたわね。

 前カンパニーの分では足りないかも知れないけど、街の人達に還元するってことはどう? 

 拠点の余っている部分を商売に困っている人達に貸したり、街の人達が利用できたりするってのはどうかしら? 

 ビル一階を店舗用に改装するもの良いと思うわ。どうせ広すぎて余っているのだから。

 店が集まれば拠点がちょっとした複合商業施設になって、相乗効果でお客もバンバンくるわね」


「ハルカの案。いいね! 敷地も余っているから温泉を利用して露天風呂も作ろう!」


「「 わーい。露天温泉だ! やったね! 」」


 会議が終わり、内容をマナの両親に伝え、両親も快く受諾し、ローズマリーの店とイイタ商店の合併店にすることに決めた。



 後日、マナと両親はイイタ商店の大掛かりな移転を一日で終わらせ、まだ決めていなかったローズマリーカンパニーの店名を『ミート』と決めた。それからマナの両親からの提案で、交流会ではなくミートとイイタ商店の開店セレモニーを行いながら、『ミート』のお客さまの中にはサーフランカンパニーもいると言うことを街の皆に知らせることにした。


 セレモニーはローズマリーカンパニー一同、マナ一家の他にも商店街の店主などを呼び、会議で呼ぶ事を決めていたサーフランカンパニーも呼んだ。


 開店セレモニー当日

 ローズマリーは屋台を借り、チサトが天然イノシシ肉を前に、張り切りながら料理を作っている。


「いらっしゃい! いらっしゃい! 天然のイノシシ肉だ。旨い鍋、極厚のステーキ、何でも旨いよ」


 屋台の前に主婦達がごそって並び立ち、チサトが調理している様子を眺めていたり、料理を食べている。


「チサトさん、美味しいわ」


「チサトさんが調理している姿は、いつ見ても惚れ惚れするわね」


「やっぱりチサトさんの料理は素敵だわ」


 チサトは主婦層から人気がある。荒野で作る料理を商店街の婦人や街の婦人にも教えており、チサト料理教室と言われ、屋台に出しているイノシシ料理は大変に評判が良かった。

 初めてチサトの料理を食べる人達も、チサトの外見から想像がつかないほど旨い料理を出され、驚きながらも料理を美味しく食べている。


 主婦に大人気なチサトがローズマリーのセレモニーで料理を大盤振る舞いしているため、チサトファンの主婦達が街のあちらこちらに口コミを広げて行き、話を聞きつけた商店街の店主、街の住民までローズマリーの拠点を訪れ、多くの人々がセレモニーに参加した。街に元からいたハンター達も訪れて、反響が大きくなっていった。

 

 サーフランカンパニーも代表のライズ、副代表のクリミ、幹部やメンバー数名もローズマリーのセレモニーを訪れ楽しんでいた。

 ライズがユイを見かけ、セレモニーの挨拶をする。


「ユイさん、開店おめでとうございます」


「ありがとうございます。そちらの方はカンパニーの人達ですか?」


「一人はこの前BARで話した時にカウンターにいたんだけど…

 右から諜報部のバータ、兵站補給部のビラフ 強襲偵察隊のスープラだ。これでも皆うちの幹部だから、よろしくな」


「こちらこそ、よろしく。ローズマリーのマイです」


 幹部まで訪れているサーフランカンパニーは、ローズマリーの目論見通り、周りから目立ち、いろいろな人達に声を掛けられ、挨拶をしていた。


 セレモニーが進むにつれて、何処からかお酒の提供がされ始め、人々がどんどん増え、唄や踊りも始まり、ローズマリーのセレモニーが一種の祭状態になってしまっていた。


 ローズマリーの拠点が祭になっていると、噂を聴いた市長までローズマリーの様子を見に来ていた。


「ユイ君。今日はなんの祭かね? 私は何も聞いていなかったから驚いたよ。

 しかし、此処に来て見て、街の住民たちが賑やかにしているのを見ると、何だか復興祭みたいだ。私も騒ぎたくなる」


「市長、お騒がせしてすみません。今日はローズマリーカンパニーの店『ミート』とイイタ商店の開店セレモニーだったのですけど…いつの間にか祭みたくなっちゃって…」


「あはは… ローズマリーらしいな」


 

 市長も加わり、サーフランカンパニーを『さくら』にするつもりが、大々的な祭に変わってしまい、ローズマリー一同は慌ただしく対応に迫られた。しかし、計画よりも大きな宣伝になり、結果は大成功だ。


 騒がしい祭の一角でサーフランカンパニーは、酒を飲みローズマリーの感想を話し合っていた。


「地域密着型のハンターカンパニーか。初めて見たぜ」

「そうだろ。どの都市にも、こんなカンパニーをいないだろ。俺の見立ては大当たりだ」

「そこまで予想してなかったでしょう」

「でも何か楽しいよな」

「あぁ、コウがこのカンパニーに所属している理由がわかった気がする」


 サーフランカンパニー一同も酒が入り、住民たちとの輪に解け込み、酒を飲み交わし踊り充分楽しんでから、ローズマリーに帰りの挨拶をした。


「今日は楽しかったぜ。ありがとうよ。俺達は明日からヒライズ遺跡へ向けて出発する。

 ローズマリーも気が向いたら、いつでも声を掛けてくれ。待ってるぜ」


「ユイさん。今日のお礼とまでとは言えないけど、今度はこっちが陸上巡洋艦に招待するね。

 また連絡するわ」


 

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