第22話 車両探索開始


 翌日。


 陽が昇り始めた早朝、見張り装置を情報通信端末とリンクさせ、遺物探索には不要な物資をモンスターの攻撃でも防ぐ防護迷彩シートで隠し、基地から車両探索へ向け、皆が張り切って出発した。

 

 コウ、チサト、ユイの大型浮上バイク三台が先頭で走り警備システムやモンスターの警戒に当たりながら、後続で走る6輪中型装甲トラックの荷台マイ、ヒロミとサトミ、キョウコを乗せ、ハルカの運転で遺跡内部に向かった。


 道先案内人のマイが簡単な旧世界の単語がわかるため、遺跡地図情報と道路の道案内標識を見比べながら目的地までの道を案内する。

 マイが検討した目的地は、高レベルハンターでも侵入することが難しい遺跡中心部から東の商業住宅地区。宿泊基地がある倉庫地区の隣の地区だ。

 

 倉庫が建ち並ぶ風景から、高層建ての建物や低層住宅の風景に変わり、やがて何十何百メートルもある巨大な建造物などが建ち並ぶ空間に入り、ビルの谷壁を走っているような錯覚すら覚えた。

 その景観に見慣れると旧世界の繁栄ぶりが見えて来る。

 ビルや建物の壁から立体映像が映っており、立体映像が外に向かって投射し、頭上には迷路のようなに張り巡らしている空中通路、人々が華やかに暮らしていたと思われる痕跡がある区画に入った。


 時折、警備機体が巡回のためうろついているが、今見えているビルや建造物にも、建造物を守る強力な守衛機体や補修機体の存在があるのだろう。銃弾の痕どころか傷一つも付いていない建物ばかりだ。そればかりか、少しでも警備システムを刺激するとすぐに囲まれ、大型警備機体までやってきそうな雰囲気が漂っている。


 ローズマリー一行は慎重に先を急ぎながら、索敵レーダーに何らかの機体やモンスターが写るたびに、一旦停まり、機体やモンスターをやり過ごしてから動き出す。やり過ごせない場合は気付かれる前に、必要最低限の一撃で倒す。それを繰り返しながら先に進んだ。

 

 マイに案内された目的地は、晴れた空が見える商業住宅地区の外れにあるショッピングセンターのような広大な面積がある施設だった。

 施設の空いている敷地に車両を停め、装備を整え遺跡内部に潜入する準備をする。トラックの荷台からイイタ商店から仕入価格に近い値段で購入した自動追尾式カートを降ろす。

 自動追尾式カートと言うのは、簡単に表すと手押し車の事で、遠隔リモコンで自動に動き、積載量が充分にあり遺物を守る装甲が四面に装着しており、急な階段も自動で昇り降りできる遺物探索をする時に優れた自動荷車だ。


 探索に行く準備が終わり、モンスターや警備機体から車両を守るために防護迷彩シートで車両を隠す。防護迷彩シートが辺りと馴染み、車両が見えなくなった。


「今日一発目の探索だな! 何かワクワクして来たぞ」


「チサトちゃん張り切ってる! る! でもここ広いよ。どうするの?」

「二チームに別れる?」


「建物の構造を立体化できるレーダーを持っているのは私、コウ、ハルカ、キョウコの四人だから二チーム二人ずつ別れましょう」

 

 マイとコウは基地を構えた時に使用したレーダーがあり、ハルカとキョウコも機動殻に遺跡内部まで使える高性能なカメラや特殊なレーダーを搭載している。


「じゃあ。マイ、コウ、チサト、ヒロミのチーム、私ユイ、ハルカ、キョウコちゃん、サトミのチームかな」


「わたしたち、別れるの久しぶりー」

「うん。久しぶりだね。コウちゃんとチサトちゃんは喧嘩してダメだよー」


「サトミよ。あれは喧嘩でない。いつもチサトが構ってほしくて、私にちょっかいをしてくるのだ」


「おい、コウ! 私はかまってちゃんじゃないぞ」


 コウとチサトの扱いに慣れたマイは、早速さに目的地である広大な建物内部に向かって行った。


「コウちゃん、チサトちゃん、マイちゃんが行っちゃったよ。早く追うよ」


 マイチームは建物の裏側バックヤードから入っていった。


 ユイチームは左側の正面入り口から、ユイとハルカを先頭に、キョウコ、自動追尾式カート、サトミの順で内部に潜入することにした。

 ユイたちは無駄な戦闘を避けるため警備機体に見つからないように、通路の壁沿いに身を隠しながら前に進み、ハルカとキョウコが機動殻の特殊なレーダーを使い、建物の構造を立体スキャンして内部の構造を調べ、索敵レーダーの範囲を広げ、ショッピングセンターの入り口までたどり着いた。

 

 ゆっくり慎重に警戒しながら内部へ入り込む。


 驚くことに内部の様子が旧世紀のショッピングセンターの姿そのままの形で残っており、手前から奥の方まで看板がいくつもの並び、看板から立体映像は流れ映り、旧世紀の忙しい華やかさが連想され、店舗の集合施設だとはっきり判った。通路には立体映像の看板だけでなく人形型の看板もあり、その人形が腕を振り誰も居ない空間の中、客引きをしていた。

 

 さらに身を隠しながら内部を観察すると、守衛機体なのだろうか、何かの機体が巡回している。動いている機体を数機確認した。

 このまま観察しているだけは遺物を見つけられないので、守衛機体に気付かれないように、広い通路の右側をユイとキョウコ、左側をハルカとサトミが壁に沿って内部へ入り込んだ。


 ショッピングセンターとは店舗集合体だ。店舗と店舗を仕切る壁はあるが、通路側にはあまり壁が無く身を隠せるところが少ない。既に持ち出された店舗の売り場となる部分には何も残ってはおらずガランとして空白がある。守衛機体に発見されないように店舗から店舗へ素早く移動しなければならない。

 

 ユイ達のチームは素早く移動しながら各店舗の裏側まで探索して見ていた。しかし、遺物になりそうなのは何も残っておらず、安価な商品棚だけが残っている店舗もあった。

 それでもハルカとキョウコが建物の構造を立体化するレーダーを使い、さらに奥へ進んだ。入口から最奥まで探索をしたのだが、一階には何も遺物が発見できなかった。


 気を取り直し、一階中央部にある階段を昇り、二階へ歩を進める。

 二階も一階同様、旧世界の姿そのまま残っていたのだが、一階とは何処か雰囲気が違う何か明るいような雰囲気の店舗が並んでいた。

 ユイ達四人は少し気になったが、一階と同じく壁に沿って身を隠しながら進む。


 身を隠しながら進んで見て、気になっていた事が気付いた。それは一階には透明な壁が無かったが、二階には所々に透明な壁があり、その透明な壁の中に人形が立ち動いている。中には透明な壁に立体映像が飛び写り、綺麗な女性が透明な壁の中で動いている。

 その透明な壁の中で立体映像の女性が何か言っている事に気付いたユイが声に耳を澄ませた。


 通信端末越しにユイが小声で皆に声を掛けた。


「ねぇ、みんな。ここお洋服屋さんだって。入って見ない?」


「お洋服屋? ユイ、目的は車両でしょう。でも旧世界のお洋服は今に無い柔らかい生地、デザインのお洋服が有って、女性に人気があるのよね。ミートで売るのも良いし、私も見てみたいわ」


「うん、入ろう。お洋服屋さんだよ。旧世界のお洒落な服がいっぱいあるよ」


「えっ? ここはお洋服屋さんなんですか?」


「そうだよ」


 全一致で店内に入って見た。通路側の棚には何も残っていなかったが、奥の一部に旧世界の服がぶら下がっており、商品棚には幾つかの服が残っていた。

 半信半疑で店内に入ったキョウコは、ユイが言った通りにお洋服屋さんだった事に驚いた。


「あの~ユイさん。もしかして…旧世界の言葉わかるんです?」


「うん。わかるよ。伝承記はその時代の言葉で書いてあるから」


「じゃあハルカさんも?」


「私の家にも伝承記があるからわかるわね」


「アオバ都市のエリートはちがうなー」


「サトミは変な事いわないの!」


 ユイ達四人は服を広げ身体に合わせて見たりして、自分の取り分とそうでない物に分けて、イイタ商店から買った遺物保護袋に服を詰め、自動追尾式カートに乗せた。

 

 「ユイさん! こっちに下着もありますよ」


 キョウコが下着を見つけ、皆も下着を見る。

 旧世界の下着は、薄い生地で締め付け感が無く頑丈に仕立て上がっており、ユイ達も何着か持っていた。強化服を着用している時は胸をしっかり揺れ動かないように固定されているが、拠点で就寝やリラックスする普段生活では、強化服は着用していないので下着が必要だ。

 旧世界の下着はユイ達も大好きなので飛びついた。


「おぉ、いいね。すごくいいね」


 ユイ達四人は可愛らしいデザインの下着から艶めいた下着まで、喜んで手に取り見せあった。棚に残っていた下着を全部見終わり、下着は後で皆で分けようと遺物保護袋へ丁寧に仕舞った。


 キョウコが旧世界の女性に興味を持ったのか、遺物保護袋を自動追尾式カートに乗せ終わったあとでも、透明な壁内に映し出されている綺麗な女性の立体映像を目をキラキラ輝かせながら眺めていた。


「キョウコちゃん。いくら綺麗な女性だからって見惚れて羨ましく思っちゃダメだよ。立体映像なんだから」

 

 立体映像を見ていたキョウコが我に返り、透明な壁の周辺を何かキョロキョロと探している。


「ハルカさん、このキレイな女性の立体看板も持って帰らないですか?」


「キョウコ、立体映像の看板なんてどうするの?」


「ミートの看板にするんですよ。 旧世紀の看板って魅力的で迫力があるじゃないですか」


「実はキョウコちゃん、立体映像の女性に憧れています」


「サトミちゃん! 違うよ! 街の人達はこんなにキレイな看板を見たことがある人が居ないと思うんです。だから街の人達にも見せて上げれば、ミートに寄って行くんじゃないかと思いまして…」


「キョウコちゃんが興味持ったんだから、街の人達も興味あるよ!」


 キョウコとハルカは透明な壁の立体映像の看板を外せるか手探りで見てみると、立体映像の看板は壁に埋め込まれており、旧世界の何らかの技術を用いられなければ外れそうにはなかった。

 キョウコが肩を落とし諦めそうになった時に、ユイが刀を抜き透明な壁をゆっくり上から下に一振り、右から左へ一振りしたかのように見え、立体映像の看板がずれ、キョウコが驚いて見せた。


「さすが、ユイね」


 ユイは透明な壁をゆっくり刀を振り斬って看板を抜いたのではなく、看板の右枠すれすれを上から下に振り斬り、左枠を下から上に振り上げ、そのまま看板の上枠を右から左、下枠を左から右へと連斬りして看板の外枠を斬り抜いたのだ。それをキョウコはまだ見えていなかった。


「相変わらずだね。ユイちゃん」


 キョウコが驚きながらも看板を外すと、マイから定時連絡が入った。



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