第17話 賞金首「スカベンジャー」

 ハルカとキョウコは、マナの作業を見守りながら、ガレージ工房で自分達の作業を続けている。


 ハルカはからくり十兵衛の解体が終わり、取り外した部品で何か作ってみようと、何かを製作していて、キョウコも大型8輪駆動戦闘装甲車の改造がまだ終わっていない。


 ハルカがふと、工房の外に目をやると、陽が傾き、そろそろ夕暮れ時になっており時計を見ると、遺物収集チームと鉄くず収集チームが、拠点を出発してから大分時間が過ぎていた事に気付き、自分達も長い時間、作業をしていることに気付いた。


 もう少し時間が経てば、日が暮れ夜になる。


 ハルカの予想では、鉄くずチームは夜には帰って来るだろうが、遺物チームは遺物探索を順調に進めても時間が掛り、帰りは深夜になるか明日だろうと思っていたのだが、嫌な予感が脳裏に浮かぶ。


 鉄くずチームは戦闘狂のコウとチサトがいるけど、真面目なマイがいるので少し安心できる。しかし、問題はユイ達三人だ。ユイ達はところ選ばず、すぐ遊ぶ。

 

 急に不安になったハルカは二つのチームの進捗具合が気になり、二チームそれぞれに映像付きの通信を接続して見た。


 マイとコウは鉄くずを集めているようだが、チサトが石を投げている様子が写り、ユイ達も見てみると、ユイ達はユイでキャッチボールして遊んでいた。


「あんた達! お仕事は!

 遊んでいるんじゃないかと、不安になって通信を繋げて見れば、案の定遊んでいるんじゃない! 

 ユイ達三人は防御障壁で遊ばない! 防御障壁を取り上げるわよ!」


 ユイ達は爆炎術式でユイをボール代わりにし、キャッチボールをして遊んでいたところに、ハルカから映像付きの通信が入った。

 

「チサトも石投げて遊ばない!」


 マイ達も鉄くずを集めているところに通信が入り、チサトは石を投げながらスカベンジャー相手に戦っているところに通信が入った。


『おっハルカか。 私はユイ達と違って遊んではいないぞ。

 今強化服を調整しながら、賞金首のスカベンジャーと戦っているんだ!』


 ユイ達の通信にもチサトが写って見え、マイ達もユイ達が通信映像で見える。


『あ! チサト。こっちに天然のイノシシ出たんだけど、お肉を持って帰るね』


『本当か! 持って帰って来てくれ! 天然のイノシシなら鍋だな! イノシシ肉は旨いぞ!』


『おい! チサト! 流れ弾がこっちまで来るぞ! もっとそっちでやれ!』


『あれ? コウちゃん真面目に鉄くず拾いやっているの?』


『ん? サトミか。 こっちはマイと一緒に真面目にやっているぞ。チサトに石投げながら』


『さっきから邪魔していていたのは、コウか!』

 

 ハルカがローズマリー全員に通信を接続したので、全員が今何をやっているかがわかる。


「はい、はい、はい、はい、は~い! 通信でおしゃべりしない! 

 こっちではマナちゃんがしっかり働いているのよ! 

 あんた達、少しは真面目に仕事をやりなさい!」 


『私はしっかり真面目に鉄くずを集めているんだけど…』


『ハルカ。そんなに怒っていたらシワ増えるよー』


「ユイ! もうわかったわ!

 みんな積み荷いっぱいになるまで戻って来てはダメだから!

 さっき、護衛依頼の報酬金が振り込まれたところなんだけど、積み荷いっぱいにして帰って来なかったら、このお金を私一人でもらうことにするわ』


『『『『『『『 ハルカ! 』』』』ちゃん!』ちゃん!』


「しらないもんね~」


 ハルカは通信をプツンと切り、キョウコは通信の様子を見ながらハルカが作業して作っている物を見た。


「ハルカさん。遊んでいるみんなに怒るもの良いのですけど、何作って遊んでいるんです?」


 ハルカはからくり十兵衛を解体していたら何かが閃き、何かを作っていた。


「そんな大きなガトリング砲と腕付きのソードを合体させて、誰もそんなもの欲しがらないですよ」


「・・・・・・・・・・・・・」


 ハルカは自分が作った、からくり十兵衛の芸術作品を見つめ直し、一度頷いてからマナの手伝いをすることにした。



 通信を切られたユイ達はハルカにすごく怒られ、しょんぼりしていた。


「ハルカちゃん。すごく怒っていたね…」

「どうしたんだろうね…」

「うん。いっぱい集めないとまた怒られそうだから、頑張って集めよう…」


 

 通信をプツンと切られたコウは、チサトを見ながらチサトに小石を投げつけ、チサトはスカベンジャーと戦いながらコウが投げた小石を躱した。

 

「おい! チサト! ハルカが怒ってしまったではないか!

 いつまでもスカベンジャー相手に遊んでいないで、さっさと倒せ!」


「だからって私に石を投げる事はないだろう!

 40㎜収束ビーム砲を使うと簡単に倒せてしまうだろ、だから石を投げて強化服を調整しているのだから、邪魔するなよ」


 チサトもコウに仕返しをするため石を拾い、腕を振りかぶり、腕を振り抜くと、手元が狂い真面目に鉄くずを集めているマイの方向へ石を投げてしまった。


「ちょっと! チサト! 何で私にまで石を投げるのよ!」


 いつまでも遊んでいるチサトに、イラっとしたマイはコウに見習って石を拾い、チサトに石を投げ返した。同時にスカベンジャーがチサトに銃を向け、銃を撃って来る。


 二方向から飛んでくる物体に対し、チサトは横にクルクルと側転して躱し、手をついた時に石を掴んだ石をスカベンジャーに投げる。投げた石がスカベンジャーの胴体に当たり、ゴンと鈍い金属音が鳴り、石が胴体に練り込んだ。


「マイもこっちに石投げるなよ。危ないだろ」


「さっきは意気揚々と短時間で倒す気満々だったでしょう。私の方にも流れ弾が来るのよ。

 こういう風にね!」


 マイはまた石を投げ、投げた石が風きり音を鳴らしチサトに向かって行く。チサトはその石を躱したが、コウの方からも石が投げられ、それも躱した。


「おいおい二人とも、危ないじゃないか!」

「流れ弾の仕返しだ。こっち見ていると、スカベンジャーにやられるぞ」

「そうよ。早く倒して!」


 二人同時に、チサトに向かって石を投げた。


『これは面白い。

 コウの投げた石が轟音を鳴らしながら砲弾のように飛んできて、マイも強化服の調整をしているのだろう。マイの投げた石も空を斬り、初速なら銃弾並みに速い石がこっちに飛んでくる。

 これなら、早く強化服の調整を終わられることができるぞ』


 石を二方向から音速の速さで投げられたチサトは弾道を読み、石を躱しながらスカベンジャーに石を投げた。


「早く、スカベンジャーを倒して貰いたいなら二人とも、私に向かって石を投げ続けてくれ」


 ニヤリとしたチサトが何を考え継いだのか、察知したコウとマイは、遠慮なく思いっきり石を投げ始めた。強化された身体の投石が二方向から、砲弾のように空気を斬る轟音が鳴らしながら飛んでゆく。

 

 強化服の調整、そして訓練にもなるチサトは、飛んでくる投石をクルクルと側転をしながら躱し、躱しざまにスカベンジャーに石を投げる。

 チサトから銃弾の初速より速い石を投げられたスカベンジャーの動体に、ゴンと鈍い金属音がして、石がガラクタの身体に練りこみ、反対側へ石が貫通した。


 スカベンジャーはその攻撃に堪らず、ボディに生えている12mm機関銃をチサトに向け連射するが、目標であるチサトが弾道を読み、クルクルと側転を続け弾丸が当たらない。

 当たらないチサトに機関銃を当てるために、銃を撃ち続けながら、歪なタイヤをゴロンゴロンと廻し、チサトに近づく。

  

 コウとマイは、チサトの動きが一瞬止まるタイミングを計り、二人同時に投石をした。


 砲弾のように轟音を鳴らしながら迫ってくる二つの石を、チサトは前へジャンプし片腕で前転をして、轟音を鳴らす投石を躱し、続けざまに機関銃を撃ちながら迫ってくるスカベンジャーの銃弾を、大ジャンプして放物線を描きながら反らし、スカベンジャーの頭部と見られるガラクタのモニターを怪力の手で掴み、全身の頸力を使って両膝で頭部を打撃した。

 

 打撃された頭部がガーンと金属が折れる鈍い音が響き、ガラクタの頭部がもぎ取られた。


 頭部をもぎ取られたスカベンジャーがガチャガチャと大暴れするが、頭部をもぎ取りそのまま着地したチサトが拳を掲げ、正拳で打撃し蹴りを入れ、右から左からと手足で連打する。


 鈍い金属音が連続で響き、ガラクタの胴体が面白いようにグニャグニャと凹む。


 チサトの耳に鈍い金属音の打撃音と合わせて、空を斬り轟音を鳴らす投石の音も聞こえ、迫る轟音の石を上にジャンプして躱し、そのまま身体を勢いよくグルンと回転させ、鋭い廻し蹴りを入れた。


 戦車を素手で倒せる超人の重い一撃だ。

 その重く鋭い廻し蹴りにスカベンジャーの腕ごと胴体が真っ二つに裂け、裂けた上の胴体と下の胴体が地面に崩れ落ちた。


 スカベンジャーは倒れ、二度と動く事はなかった。


「どうだ。コウ、マイ見たか? 私の華麗なる廻し蹴りを!」


「はいはい。見たよ。見たけど…もう陽が暮れて、周りは薄暗くなったけどね」


「うむ。まだ鉄くずが荷台の半分くらいしか集まっておらん! チサトがクズクズしておるからだ。

 今日はこのまま野営だな」


「そうね。…チサトはスカベンジャーと遊んでいたのだから、野営の準備ね。私とコウは少し休むから…」


「私一人でか。それはないだろう…」


 チサトは渋々野営の準備を始め、マイは深く溜め息を吐いた。予定ではもう鉄くずを集めを終えていたからだ。


  ◇

 

 ハルカに怒られたユイ達三人は気を引き締め、ハルカに喜んでもらえるように大物の遺物を求めて探索をしていた。しかし、検討違いな家を探しており、全く成果が出ていなかった。


 ローズマリーの店で売るのは、家具や食器などの日用品であり、現在、ユイ達三人は家具や食器などの日用品を探し求めている。


 その日用品は、周囲にある一般住宅を探せば集められるのだが、ユイ達三人は高額になりそうな大物の日用品を求め探しているために、一般住宅とは違うデザインがお洒落な三階建ての住民サービス用の建物や、四階建ての施設を探し回って、完全に目標がズレていた。


 通常、ハンターは高額になる大物の遺物を求めて探索する。ユイ達三人もそれは同じ。


今回の探索は大物の遺物ではなく、モンスター襲撃で家具や食器など日用品を失った街の住民達のための、住民向けの家具や食器などの日用品の探索だ。

 安価な日用品では金にならないと、全く逆の事をしていたのだ。


 それに気づくまで随分と時間が経ち、気付く頃には陽が暮れ、周りが暗くなっていた。


「暗くなっちゃったね…」

「うん。わたしたち、おっちょこちょいだったね…」

「うん。ハルカに良い所見せようって、張り切ったのにね…」

「うん。すごくガッカリ… 今日は此処で一泊だね…」

「うん。御飯余分に多く持って来て正解だったね…」

「うん。明日もがんばろう…」


 ユイ達三人は自分達の行いを深く反省した。

 その後、遺跡で野営をするため、モンスターに襲われそうにない建物に入り、モンスターが侵入して来ないように見張り装置を設置し基地を築き上げ、安全を確保した。

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