第16話 それぞれの仕事

 ローズマリーの温泉浴場で面接を終えた翌日。

 学業が終わったマナは、早速にローズマリーの店へ向かった。

 マナは自分の家である商店では手伝いとして働いていたが、今日から産まれて初めて家の仕事とは違う仕事をする。

 

 ローズマリーのメンバーは常連と言ってもおかしくないほど良くマナの両親が経営するハンター用品店に来ており、ローズマリーの皆と良く話をしていたので、皆がどんな人柄か良く知っていた。さらに、昨夜のお風呂でより一層ローズマリー親密さが増し、ローズマリーの雰囲気にも解け込んでいる。

 しかし、ローズマリーの店で働くとなると少し事情が違ってくる。皆は優しいけど、どんな仕事をするのだろう、自分は役に立つのだろうかと緊張しながら先を急いだ。


 ローズマリーの拠点に着き、ガレージにいたキョウコに声をかける。


 キョウコが誰もいない倉庫の一部を店舗に改築した店内を案内し、店内の改装は終わっていたが、店内には商品棚が並べ置かれているだけで、商品を何も乗せられていない殺風景な店内を説明した。


 店が殺風景なのは、ローズマリーが市長の護衛依頼を受けていたからであり、店の準備の他にも細々した仕事があったからだ。

 

 これから陳列する商品コーナーは、モンスターから剥ぎ取ったままのジャンク品や加工に必要な素材、ジャンク品を加工しすぐに使える武器などコーナーに分かれて置かれている。


 キョウコが商品棚の説明し、倉庫の説明もしてくれた。


 説明が終わり、緊張しながらもキョウコの説明を理解したマナは、張り切って倉庫から品物を持ち出し商品棚に並べ、また倉庫に戻って商品を並べる作業を繰り返し行い、一人で頑張って働く。


 マナの作業を見守りながら、ハルカはからくり十兵衛を解体して部品にする作業をしている。キョウコも自分の作業に戻り、大型8輪駆動戦闘装甲車の改造を続け始め、ローズマリー拠点ではそれぞれが仕事していた。



 マナが店の作業に就いた頃。

 ハルカの中型トラックを借り、鉄くず場に辿り着いたマイは掘削ユニットを使いながら作業し、チサト、コウは鉄くずを手作業でトラックに詰め込みながら新調した強化服、身体を調整していた。


 度々、ガラクタに車輪を付けた機械式モンスターや、三角すいに似た鉄塊のモンスターが襲って来てはいるが、そのモンスターたちは飛び道具を持っておらず、マイ達を見つけるたびに突撃してくるだけだったので、容易に倒すことができた。


 コウとチサトは、ハルカの実家で製作した的を面で攻撃できる拡散ビーム、拡散ビームを収束し一点に集中できる高出力の40㎜収束ビーム砲を持っており、マイは、ビーム光の長さが調整できる高出力のビームライフルを持っている。


 それぞれの強力な火力の前では現れるモンスターは一撃で倒せるので、それぞれが一人で対応し、コウは新しく換装した身体の調整、マイ、チサトもハルカの実家で製作した強化服の調整も同時にしていた。

 

 現れるモンスターたちを倒しながら、順調に鉄くずをテキパキ集めていると、情報通信端末のレーダーに大きなモンスターの反応が出た。


 コウがレーダーに示された方向へ身体を方向け、目でありレーダーでもある高性能なカメラの目でモンスターを見ると、ガラクタをガチガチと組み込んだ大きな図体に、鉄柱のような歪な腕、歪んでいて歪なタイヤを駆動させ、ガッチャンガッチャンと機械が何か叩く音を出しながら、こちらに向かってくる大型モンスターが確認できた。


 コウは通信でチサトとマイにモンスターの映像を共有し、皆がガラクタのモンスターを確認する。


「遭遇型の賞金首『スカベンジャー』だよ。

 賞金額は、三百万ゼニー。

 スカベンジャー自体、ジャンク品としては価値が無しになっているから、倒しても賞金だけね」


 マイが情報通信端末でスカベンジャーの詳細を調べ、コウとチサトに知らせた。


「賞金額三百万クラスか。並のハンターなら一人では倒せないけど、私たちなら一人で倒せるな」


「私はそこまで強くないから、一人で討伐するならチサトかコウがして。私は無理だから…」


「マイよ。一人で倒す努力も必要だが、今はそんなこと言ってもいられないか。なんせ、鉄くずを集めなければならないのだからな。

 マイはそのまま作業を続けてくれ。

 私かチサトが倒す!」


「お! 武神様は、やる気になっているな」


 チサトとコウ、どちらがスカベンジャーを倒すか睨み合った。


「フッ! チサトよ。どう決めようか!」


「何がフッだ! コウもアップデートした身体の調整をしたいのだろうが、こっちだって新調した強化服の調整をしたいからな」


 チサトの新しい強化服は、ローズマリーが市長の護衛でアオバ都市に滞在していた時に、調度ハルカの実家がアオバ都市に在籍しているハンターの超人から、オーダーメイドで強化服の注文を受注しており、ローズマリーのスポンサーに就いたアヤノ刀工房が、ついでにチサト専用の強化服も製作したものだった。


 ハルカの実家『アヤノ刀工房』は武器や車両だけではなく、強化服の大手メーカーとも業務提携をしており、オーダーメイドの強化服もオリジナルで製作している。

 ローズマリーはアヤノ刀工房から様々な装備を提供されており、チサトとマイの強化服以外にもメンバー全員分の強化服も製作していた。


 賞金額三百万ゼニーのスカベンジャー相手に、強化服の調整をしたいチサト、新しく身体を換装し身体の調整をしたいコウが、お互い険しい顔しながら睨み合う。


 お互いに間合いを取り、隙を見せた瞬間


 二人同時に、ニヤリとした。


「「 じゃんけん、ぽん! 」」


 チサトはパー、コウはグー。


「よっしゃー! 私の勝ちだな!」


「フッ。チサトよ。歴戦のハンターならば、始めにグーを出すのが常識だ!」


「アハハ。その常識とやらが負けてしまっては、仕方があるまい」


「では、チサト一人寂しくスカベンジャーと戯れると良かろう。私はマイと仲良く鉄くずを集めるから」


「アハハ! では行ってまいる!」


 コウは負け惜しむ言葉を残し、鉄くず集めに戻り、チサトは嬉しそうにスカベンジャーに向かっていった。



 小型戦闘車に荷車をけん引し、山に囲まれたヤマアイズ都市遺跡に辿り着たユイ、ヒロミ、サトミは遺跡内部に入り、家具や食器などの日用品がある住宅街を探していた。


 ヤマアイズ都市遺跡は商店街、工場、住宅街の地区に別れており、それぞれの地区面積は同じくらいに広い。


 ヤマアイズ都市遺跡を訪れた大抵のハンターは、高額になる遺物を求めて商店街か工場を探索しており、ユイ達が探し求める日用品の遺物がある住宅地区には殆んど足を踏む入れる事はなかった。そのため所々、倒壊した建物があるが、綺麗な景観のまま低層住宅や高層マンションなどが建っていた。


 マイの情報に寄ると、住宅街の日用遺物は、現在の技術でも生産可能な物ばかりなので、多くの遺物が手付かずに残っているはずだ。


 ユイ達三人は、低層住宅から高層マンションまである住宅地区に入り、周りをキョロキョロ見渡しながら、たくさんの家具や食器などの日用遺物が残っているだろうと思われる住宅を目標に、ゆっくり車を走らせ、探し回っていた。また、ゆっくり車を走らせている走行音に気付いたモンスターが度々現れ、その都度ユイ達はモンスターを倒していった。


 かつてのヤマアイズ都市遺跡は、都市を警備するシステムがあり、システムの一部である武装警備機体が侵入したハンター達を阻んでいたのだが、長い間、歴代のハンター達がヤマアイズ都市遺跡に侵入し、警備システムを破壊していた。


 今では警備システムの殆んどが作動しておらず、容易にヤマアイズ都市遺跡の中心まで入れるのだが、警備システムの機体から変わって、背に銃を生やしている犬型モンスター、動体が丸く二足の脚で飛び跳ねる生体系モンスター、鋭いナイフのような爪を持った熊型のモンスターなど生体モンスターが変わりに出回っている。

 稀にではあるが、天然の動物イノシシも現れ、ユイ達の姿を見ると逃げ出していた。


 三人はモンスターを警戒しながら、細い道路が迷路のようなに張り巡らされている住宅街の道を回り、周りの住宅と雰囲気が違う異質な三階建ての立派な家を見つけた。期待感が膨れ上がる。


 立派な家の敷地内に車を停め、恐る恐る立派な家に入り込む。

 

 周囲を警戒しながら、家の玄関らしき大きな観音扉に辿り着き、扉内を警戒しながら扉を開ける。


「おお… すごい…」


 家内の様子は、広い一部屋で紅く染めた絨毯が奥深くまで続き、その奥に、間取りいっぱいに何か大きな物を飾られていたと思わす痕跡が残っていた。その痕跡を見るような形で長椅子がずらりと隅々まで並べられ、上を見上げれば、天上までの吹き抜けがあり、飾り天上窓からは陽射しが差し、飾り天上窓を綺麗に輝かせ、神秘的な雰囲気を感じさせていた。

 

「ねぇ… この家って何か違うよね…」

「うん。家じゃないような気がする…」

「うん。これは旧世界の人達がお祈りする場所かも…」

 

「「「・・・・・・・・・」」」


 三人は黙ったまま見つめ合い、『うん』と頷いた。

 ヒロミが言う通り、此処は教会だった。


「すごく期待したのに、ハズレちゃったね」

「うん。大ハズレ!」

「でも、折角、すごくキレイなところに入ったんだから、少し眺めて見ようよ」

「「 うん! 」」

 

 三人は神秘的に輝く色彩な室内を眺めながら、何か遺物は無いかと周囲を探索し、奥にある何かを飾られていたと思われる痕跡まで歩いた。


「何で、この部分だけ外されているんだろうね? 」

 

 この痕跡はお祈りを尊重する彫刻が置かれていた場所で、旧世界の彫刻は古美術収集家によって多額の金額で取引されているため、以前に入ったハンター達が持ち出していた。

 

 三人はしばらく綺麗な色彩が照り出す空間を眺めた後、何も無かったこの場から出るため鈍重な扉を開け、外に出た。

 すると、どこからか突然、天然の生物イノシシがユイに向かって突進して来た。


 ユイは反射的にハルカが造った反衝撃式障壁とキョウコが造った衝撃吸収式障壁を重ね、出力に合わせて交互に何重も展開する最新の防御障壁を展開し、イノシシの突進を防ぐ。


 瞬間的に防御障壁を展開して、イノシシの突進を防いだユイは、そのまま銃剣の光刃を一刺して倒した。


 倒した天然イノシシは、天然の肉で貴重な食糧だ。

 通常、肉と言ったら人工的に造られた人工肉のことを言う。  

 天然肉は貴重品で市場に出回れば、高級肉として高額で取引されている。


「天然のお肉!」

「チサトだったら絶対に喜ぶのに、なんでこっちにしなかったんだろう…」

「チサトちゃん、天然のお肉を見たら、すごく喜んで料理を始めるのにね」

「チサトちゃんが作った料理美味しいんだよね」


 ユイ達三人はイノシシのお肉も拠点に持って帰ろうと、倒したイノシシを保存シートにくるみ包んだ。


「それにしても、ハルカとキョウコちゃんが造った防御障壁はすごいね。大きいイノシシの突撃だったのに、全然衝撃がなかったよ」

「どのくらい耐えられるのだろうね」

「気になるね」

「じゃあ。試してみよう! 

 私が防御障壁を展開するから、ヒロミとサトミは術式で防御障壁をドッカンしてみて」


「「 うん。 わかった! 」」


 ヒロミとサトミの間にユイを挟み距離を取り、ヒロミがユイの防御障壁に向かって爆炎術式を叩き込んだ。

 爆炎術式を叩きこまれたユイが爆発の衝撃でサトミがいる方向へ吹っ飛び、吹っ飛んだユイは身体をグルンと回転させ、サトミに向かって防御障壁を向ける。

 防御障壁を向けられたサトミは、ユイの防御障壁に向かって爆発術式を叩きこんだ。

 ユイはサトミに爆炎術式を叩きこまれ、今度はヒロミがいる方向へユイの身体が吹っ飛び、グルンと身体を回転させて着地する。


「ユイちゃん。おもしろい!」

「ユイちゃんでキャッチボールしているみたいで、おもしろいよ」

「うんうん。私も衝撃がないのに、吹っ飛んでおもしろいよ! もっとやってみよう!」

「「 うん! もっとやろう! 」」


 遠慮なくヒロミがユイの防御障壁に爆炎術式を叩きこむ。

 爆炎術式を叩きこまれたユイが爆発の衝撃で、サトミがいる反対方向に円弧を描きながら吹っ飛び、膝を抱え身体を回転させながら、反対側にいるサトミに向かって防御障壁を構える。

 サトミは防御障壁を構えたユイに向かって、爆発術式を叩きこみ、サトミに爆炎術式を叩きこまれたユイは、またヒロミがいる反対方向に、円弧を描き、膝を抱え込み宙返りしながら吹っ飛んでいく。


「「「 おもしろいね! 」」」


 ヒロミとサトミは、クルクル回るユイが楽しくキャッチボールを続けていると、爆炎術式の爆発音に驚いたモンスターが周囲から続々と現れ、ユイ達に襲い掛かった。

  

 ユイに向けて爆炎術式で叩きこみ、ユイが吹っ飛びながら身体をクルクル回転させているのが面白いヒロミとサトミは、周囲から襲い掛かってくるモンスターを気にもせず、今よりも強力な爆発術式に変え、ユイを吹っ飛ばす。

 威力が増した爆炎術式で、吹っ飛ばされたユイの高さが増す。


 吹っ飛ぶ高さが高くなったユイは、吹っ飛んだ身体を器用に回転させ、伸身宙返り、伸身宙返りひねり、伸身ムーンサルトなど曲芸をヒロミとサトミに見せながら、周囲から襲い掛かってくるモンスターに銃剣を連射して倒し始めた。


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