第15話 ホコリまみれのマナちゃん
アオバ都市から第八北東農園都市まで帰ってくる途中『からくり十兵衛』という賞金首に遭遇、戦闘をしたため第八北東農園都市に戻る時間が深夜になってしまったが、何の被害も無く無事に帰ってくることができた。
ローズマリーカンパニーは、深夜だと言うのに職員達が待っている統治機構ビル前へ向かい、市長を丁寧に車から降ろし、職員達が出迎えた。
「職員の諸君。深夜だというのにご苦労様。
本都市から指示書を送っていたから、もう君達の手元に届いているだろう。
今日はもう遅い。明日詳しい話をするからゆっくり休んでくれたまえ。
ローズマリーカンパニーの皆もご苦労様。護衛依頼の報酬金をすぐにでも送らせてもらうよ。
また何かあったら、その時はまたよろしくお願いする」
ローズマリー一行は市長を統治機構の職員に引き渡し、最後、市長とあいさつしてから拠点に帰った。
「やっと街に帰って来たねぇ」
「二週間ぶりだけど、何か懐かしく思えて来るわー」
「そうだな。街とアオバ都市では景観や街並みを違うから、街に慣れたこっちの方が落ち着くなぁ」
深夜に帰って来たローズマリー一同はすぐに休むことにした。
翌日 。
二週間ぶりに帰って来たユイは、アオバ都市出発前と街の景観が違うことに驚き、散歩がてらに街を見て歩いていた。
出発前には山のように積み置かれていた瓦礫が全て撤去されており、半壊全壊の建物までも解体され、街の風景がさっぱりして殺風景に見えた。
そんな殺風景な街をユイが散歩している。
ローズマリーの拠点を出て商店街を歩いていると街の住民が久しぶりにユイの姿を見て声を掛けた。
「おっ! ユイちゃん、生きていたのかい?
最近、ずっとユイちゃんの顔を見て無かったから、つい死んじまったのかと心配していたけど、また元気な顔を見れて嬉しいよ」
「あはは…。依頼で少し間、街から離れていましたから」
「そうかい、仕事で街から離れていたのかい。んじゃぁ、ユイちゃん知っているかい?
最近、街が大規模な開発を始めてな、あちらこちらに有った瓦礫が全部撤去していただろ。その跡地を何でも農地開発拡大、農業プラントも拡大、最後に食品加工場も開発拡大するってニュース。
それに昨日のニュース速報では、街を観光地にする計画?も発表にあった」
「それなら私も知っていますよ」
「さすがだね。ユイちゃんの顔を見かけなくなってからは、他の都市から開発業者も街に入って来て、ハンターは少なくなったけど、街に少し活気が戻って嬉しい限りだよ」
昨日、市長から聞いたことが街の住民にまで知らされ、ローズマリー一行がアオバ都市に滞在していた時から、街の開発が始まっていたらしい。
市長は街がモンスターに襲われ、家を破壊された者、家を失った者、財産が無くなった者など多くの人達が被害に合い、街の雰囲気や住民の気持ちが沈んでいたから、本都市での会議で街の開発が決まった後、早急に開発を始められるように手続きをしたのだろう。
そのおかげで、街は建物や雰囲気がさっぱりしているけど、住民皆は明るく元気な顔をしていた。
その後もユイは街を隈なく歩き、街の住民と話をしていた。
ユイが散歩に出かけている頃。
ハルカとキョウコは、持ち帰ったからくり十兵衛をどうしようか、ガレージの工房で見つめながら悩んでいた。
「頭のカメラとセンサー、それからソードとガトリングは使えそうね… 四連式ロケットランチャーはどうかしら…」
「ハルカさん。ボディの装甲も使えそうですよ」
「キョウコ、取り敢えず、からくり十兵衛を解体してみる?」
からくり十兵衛の亡骸はそのままハンターオフィスに持って行けば高額で買い取ってくるが、部品を取ってからでは買取価格は小さくなり雀の涙ほどだ。
ハルカとキョウコは悩んだ末、からくり十兵衛を全部解体して使える部品は使う事にし、残りの部品をローズマリーの店で売ることにした。
「御免下さ~い。 すみませ~ん。 御免下さ~い。」
「ハルカさん。誰か来ましたよ」
ハルカとキョウコが解体作業に取り掛かろうとした時、ガレージの外で声を掛ける声が聴こえ、声がする方向に目を向けると、まだ学徒の女の子がローズマリーの拠点を訪れていた。
「あら。マナちゃん、いらっしゃい。
珍しいわね。マナちゃんが拠点を訪れるなんて。お父さんのお手伝いで営業に来たの?」
マナという女の子は、ローズマリーメンバーが良く訪れるハンター用品店の愛娘で、看板娘でもある。
「営業と言うか…ローズマリーの皆さんが店を出すって聞いて…
それで…
私をアルバイトに雇ってもらえないかなって思って来たのです」
ハルカとキョウコは不思議に思い顔を見合わせ、マナから詳しい事情を聴く。
「家がモンスターに襲われて、住めるくらいには大丈夫なのですけど… 店舗の方が全壊してしまい、今は店舗の裏にある倉庫を仮店舗にして、店の営業を続けているのですけど…
店に来てくれるハンターの人が少なくて… 店舗を修理するお金が無いのです。
お店を修理するお金だけじゃなくて、私が通っている学校の学費も払えなくて… このままだと学校に行くことも叶えられなくなってしまい…
だから、私の学費くらい自分で稼ごうと思って…」
ハルカとキョウコがマナの事情を聴いているところに、ユイが散歩から戻って来た。
ユイは、ハルカとキョウコの間で、住民の女の子と何やら話し込んでいるのを見て、女の子を良く見ると、ハンター用品店のマナだと知った。
「マナちゃん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」
ハルカがマナから聴いた事情を説明した。
「そうか。やっぱり街のみんなは大変なんだね。
あっそうだ! マナちゃん失礼だけど、お風呂入っている?」
街の瓦礫は撤去されたとは言え、瓦礫のホコリがまだ残っており、風が吹くとホコリが舞い上がり、身体中ホコリだらけになる。
瓦礫のホコリがマナのサラサラした綺麗な髪に被り、くすんで見えていた。
「え? お風呂ですか?
…家は住めるくらいには大丈夫なのですけど… お風呂は……
今は家が無事な友達の家で入っています」
「なるほど、じゃあ、うちのお風呂に入りなよ。
うちのお風呂、温泉なんだー。気持ち良いんだよー。
ハルカ、マナちゃんの面接大会をお風呂でするから皆を呼んで。 皆はどこに行ったのかな…」
「ユイ! 皆を呼ぶくらい自分でしなさい! 私はユイと違って忙しいのだから」
「じゃぁ。キョウコちゃんお願いね。
私は一度マナちゃんと一緒にマナちゃんの家に行ってから、またマナちゃんと戻って来るから。
マナちゃん行こう」
マナはユイが突然お風呂で面接と言われ、急激に緊張感が奔り挙動不審に周りをキョロキョロして見回していたが、ユイはマナの手を引っ張りバイクに乗せて、マナの家へ向かって行った。
キョウコがローズマリーの皆を呼び、皆が戻ってくる。
始めに帰って来たのはチサトで、チサトは食料を買い込んで戻って来た。
次に戻って来たのは、ハンスーオフィスで依頼の発行を確認していたマイだ。
それからヒロミとサトミが、最後に戻って来たのはコウだった。コウは新しく換装した身体の調整のために荒野に出ていた。
「ハルカ。なぜ風呂で面接なんだ? ユイのことだからマナを雇うのだろう?」
「そんなこと聞かれても、私にだって分からないわよ。ユイは突拍子もなく変な事言ってくるから… 多分、マナがホコリまみれだったからでしょう」
「うん。ホコリすごいよね」
「うん。ホコリすごい。わたしたちも畑の作業を手伝って来たけど、ホコリまみれだもんね」
「私もハンターオフィスから戻って来るまで、街の様子を見て来たけど、皆ホコリまみれだったのを見た」
「うむ。私みたいに身体を機械に変えると、ホコリなどつかんのだが…」
「コウちゃん。女の子がみんなホコリまみれになっているのに、気持ちを知らないなんて。コウちゃんの身体中を静電気まみれにしてあげようか?」
ヒロミとコウが不敵な笑みを浮かべ睨み会った。
「はいはい。二人とも遊ばない! ホコリは置いといて。
マナちゃんが店を手伝うことになるから人件費が発生するわ。でもその反面、店をマナちゃんに任せて、私達は自分のやりたい事に専念できるわね。
マナを雇うとなると、まだまだ店で売る品が足りないから、皆でたくさん集めないとね!」
皆が集まり、話し合っているところにユイとマナが戻って来た。
「マナちゃん。みんなの事は知っているよね?」
「はい。いつもお世話になっております」
「じゃあ、自己紹介は抜きにして、早速、お風呂入ろう!」
ローズマリー一同はお風呂に向かい、皆がホコリまみれの身体を洗い流してから、温泉に浸かり、面接大会を行う。
「身体がキレイさっぱりしたところで、皆注目~。
明日からローズマリーの店を手伝う事になったマナちゃんです。イイタ商店のご両親からもお店の勉強になるから是非にって、許可をもらって来ました。
みんな拍手!」
パチパチパチパチ……
「マナちゃん。マナちゃんの事はみんな知っているから、軽く挨拶をお願いします」
マナは初めて見るハンター達と言うか…スタイルが良い大人な肉体のユイ達ローズマリー皆の身体を見て、引き締まっていない自分の身体を少し恥ずかしく思ったが、勇気を持って肩まで温泉に浸かっている身体を立ち上げ、皆に挨拶をする。
「はい! 明日からお世話になるマナです。私はまだ学徒なのでいろいろ勉強不足のところがあり、何かとお不便をお掛けすると思いますが、宜しくお願いします」
「マナちゃんはイイタ商店ではどんなことしていたの?」
「はい。商品の補充陳列や接客、それから会計までしていました」
「うむ。ではイイタ商店はハンター用品を扱っているが、我々が売る品物はわかるか?」
「はい。ユイさんから聞いています。ジャンク品や遺物ですよね。
ハンター用品にはモンスターから取れるジャンク品や部品を入れる様々な袋やシートなどありますから、ジャンク品に合わせるように商品を売っていたり、遺物を入れるリュックや防弾袋、シート、小型コンテナなどもありますから、ある程度は知っています」
「いいわね。今度はこれから売れ筋になりそうなのはわかる?」
「これからですか… えっと… ローズマリーはハンターカンパニーで… 遺跡に行って遺物を持って帰って来り… モンスターからジャンク品を取って来り… あっ!
皆さんはスクラップ場に行ったりはしませんか?」
「必要になった時には、スクラップ場に行くわ」
「では、鉄くずと遺物の家具や食器など、街の人達が足りない物です。
家具や食器は商店街でも売っていますが、遺物の物って旧世界の物ですから、今とは違う作りしていて頑丈でデザインが違し、工芸品に見えるのですよね。ですから、今の大量生産された物より好んで使っている人がいます。
あまり知られてはいませんが、街の人達は農作業が主な仕事で自然に触れている事から、何て言えばいいのかな…、自然を感じさせる風情がある旧世界の物を好んで使う人が多いのです。
例えば、現世界ではとっても貴重な天然の木調家具とか、天然石で作られている物などです。
鉄くずは、加工すれば建材として使えますから、家や店の再建に必要なので需要があります」
「なるほど…キョウコからマナが此処で働くことになった事情を聴いたが、街のハンターが少ないってことは私達が集めた品物だって売れないってことだろ。
店の収益を上げるには、マナの言うハンター向けではない住民向けの物を持って帰ってくれば良いわけか」
「あら。珍しいわね。チサトがまともな事言うなんて」
「ハルカ…超人の私だってそのくらい解るぞ」
「そう。じゃぁチサトは頑張って収集をお願いするわね。
私は倉庫にある鉄くずを加工して製鉄にする必要があるし、まだ武器の製作も残っているから、お願いするわね」
「チサトちゃんが鉄くず集めだね」
「わたし達は、遺跡に行って家具や食器集めてくるから」
「ん? ヒロミとサトミが遺跡に行くのか? どこの遺跡に?」
「家具や食器ならヤマアイズ都市遺跡が良いかしら…
ヤマアイズ遺跡は工場施設、商業施設、住宅施設がまだバランス良く残っていて、特に住宅施設の方は高値の遺物が少なくて、あまりハンターが行っていなかったから、まだそっくりそのまま残っていたはず…」
「おお。さすがマイ。マイも遺跡組だね」
「今回は遺跡じゃなくて、鉄くず場の方へ行きたいかな。
ハルカに作ってもらった装備の調整もしたいし、遺物収集も家具や食器などだから、すぐ見つかると思う」
「私も鉄くず場に行こう。私も身体の調整がしたいからな」
「キョウコちゃんも拠点に残るのだよね」
「はい。からくり十兵衛との戦闘で大型8輪駆動戦闘装甲車の改善点が幾つかありましたので、そっちを優先にやりたいと思います」
「じゃぁ、残る私は遺跡組かな?」
「そうね。鉄くず場にはチサト、マイ、コウ。 遺跡にはヒロミ、サトミ、ユイってことね。
何だかすごく不安になるわ」
「ハルカちゃんどういうこと?」
「うん。そうだよ。わたし達だって家具くらい集められるもんね!」
「あはは。遺跡三人組はすぐ遊ぶからだろ」
「うむ。こちらはしっかり身体の調整をしながら、真面目に鉄くずを集められるからな」
「ふ~ん。そっちだってすぐ飽きて、コウちゃんとチサトちゃんはすぐ遊ぶでしょ!」
「うん。だって二人とも脳筋だもんね」
ヒロミとサトミ、コウとチサトが不敵な笑みを浮かべ、睨み会った。
「やっぱり、不安だわ」
「「「「 ハルカ!」」ちゃん」ちゃん」
睨み合っていた四人がハルカを睨み、それを見ていたユイ、マイ、キョウコはニコニコ笑って、マナ一人はおろおろと挙動てしまっていた。
「マナちゃん、大丈夫だよ。いつも皆、脳筋だから」
「「「「「 ユイ! 」」」ちゃん」ちゃん」
ユイがそっぽ向き、皆を無視しながら、何だかんだ言ってワイワイ遊んでいる。
「マナちゃん、驚きました?
これがローズマリーの面接大会なんです。私もローズマリーに入った時に同じ経験しました。
一つ、マナちゃんと違うことがあるんですよね。
それは、皆さん私の身体を不思議そうにペタペタ触って来たのですけど、マナちゃんは触られていないですね」
キョウコがニコニコ笑みを作り、皆を見ながらマナに声を掛けた。
マナは声を掛けたキョウコの方へ身体を向け、メンバー唯一薄い身体のキョウコを見ながら、クスクスと笑いローズマリーに溶け込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます