第13話 賞金首「からくり十兵衛」

 皆は運ばれて来たハンバーガーや焼きパンを食べながら、キョウコにこの先、賞金首に遭遇するかも知れない事を説明した。


「き、緊張して来ました」

「大丈夫よ。この前、砂鮫を殺った時みたいにすればいいから」


 食事を食べ終え、出発する準備をする。


「ごちそうさまでした」

「もう行くのかい? ここから第八北東農園都市方面は、あまりハンターがいないから気をつけてな」

「ありがとうございます」


 キャラバンから出発する前に、お互い自己紹介をしたミチバカンパニーのロクロウにあいさつした。


 これから賞金首戦を想定して、大型8輪駆動戦闘装甲車に積んでいた対賞金首の装備を持ち、キャラバンから出発する。


 車に戻った市長はキャラバンのハンター、そこに客で居たハンターにもローズマリーが有名になっていたことに驚いていた。さらに、統治機構までも知っていたことを思い出し、話した方が良いのか、話さない方が良いのか悩んでいたのだが、今朝、予定が遅くなった理由をローズマリーカンパニーの皆に語った。


「ローズマリーカンパニーは、あの事件で随分と有名になったようで成りよりだ……」


 今朝、市長が遅れた理由は、今朝になって中間管理職の市長から評議員付きの市長に出世したことにある。

 評議員は取締委員の下に位置する、かなり上役の職で、中間管理職からは大分上の上役だ。市長の権限も拡大して街の開発、新しい事業ができるようになるまでになった。


 この市長の出世には第八北東農園都市のハンターが大きく関わっていた。


 本都市は、第八北東農園都市にはモンスター襲撃事件を凌ぐカンパニーはいないと見込んでおり、防衛隊だけは第八北東農園都市が壊滅すると予想していた。

 しかし、その予想を覆し、第八北東農園都市の被害が半分程度で収まり、第八北東農園都市の中枢部も無事に健在していた。


 その訳を調査すると、本都市のハンターカンパニーの中でもトップクラスの成績を納めるカンパニーが予想外なことに在籍していたことにあった。


 被害予測を覆したカンパニーを調べると、カンパニー名が『ローズマリー』で、ローズマリーカンパニーをさらに調査すると、ローズマリーがどの依頼も受けないで、荒野に出たり遺跡に行ったりして、遺跡の遺物までもハンターオフィスに売却していなかった。


 ローズマリーはハンターオフィスより高く売れるフリーマーケットや遺物買取専門店で売っていたのだ。

 そのせいでランキングは低く、カンパニーランクも低いので、本都市の職員たちは見逃していた。


 一般的にハンターレベルとカンパニーランクを上げるためには、依頼報酬金とオフィスに遺物売却が最重要な項目になっている。さらに特別な依頼を受け依頼を達成すると評価が上がり、レベルとランクも上がる。


 しかし、ローズマリーはそれらを無視して自由気ままにハンター活動をしていた。


 ローズマリーカンパニーの個人を調べると、各自が良く都市の見回り依頼や汎用討伐依頼を良く受けているのがわかり、ユイたち個人には問題なかったが、カンパニーとしては問題があった。


 そんな癖のあるカンパニーを良く第八北東農園都市に在留させている評価で出世したのだ。


「私からも、君達ローズマリーは、どの依頼も受けないで遺跡に行くことは辞め、遺跡に行く時は、しっかり遺跡の調査依頼、遺跡のモンスター討伐依頼、又は汎用討伐依頼を受けるように頼む。

 ハンターオフィスに出向かなくても、情報通信端末でも受けられるからね。

 ローズマリーが襲撃事件で優秀な成績を納めているのに、カンパニーランクが大分低いと言う事は、ランク詐欺になってしまうのだよ」


「でも、何で本都市統治機構はハンターオフィスでもないのに、カンパニーランクの事言ってくるのです?」


「そう言われればそうだな… なぜだ…」


 これには続きがあり、敢えてアオバ都市統治機構の取締委員は市長に言わなかった。


 ローズマリーカンパニーには、本都市統治機構も良く知っている武神のコウ。超人族の中でも優秀な戦闘能力があるチサト。宇宙民の子孫と言われる稀少種で特殊族のヒロミとサトミ。小規模ながらも古代から続く企業の令嬢であるハルカ。そして、統治機構軍で基本格闘術を教えていた元師範人の父親を持ち、古代から続く伝統剣術家のユイの存在にあった。


 特に本都市統治機構は、肩書だけも癖のある人物を良く率いているユイを高く買っていた。

 統治機構はユイたちが第八北東農園都市に在留している訳も、調べているうちに理解したので、市長の役をそのままにして都市での権限を持たせたのだった。



 市長とローズマリー一行が話を続けていると、陽が傾き夕暮れ時になっていた。


 【 ピー、 ピー、 ピー、 ピー… 】

  

 警戒音が鳴り、キョウコが情報通信レーダーを覗く。


「西南西の方角に大型モンスターの投影あり! 

 …かなり速度でこちらに向かっています… 詳しく解析します…」


 ローズマリー一同はキョウコの解析を待つ。


「こちら進行方向とモンスターの進行方向、速度を対比すると、およそ15分で接敵する恐れありです!

 さらに解析します…」


「からくり十兵衛です!」


 大型8輪駆動戦闘装甲車の情報通信システムは、各車両にデータリンクしている。キョウコは解析したデータを各車両に送った。


 賞金首狩り開始だ。


 久しぶりの賞金首狩りにローズマリー一同は気を引き締め、かなりの速度でこちらに向かっているからくり十兵衛に大型8輪駆動戦闘装甲車の左翼を走っていたチサトが向かい、続けて先頭を走っているコウと後続を走っているヒロミとサトミが向かう。少し遅れて大型8輪駆動戦闘装甲車の右翼を走っていたユイが向かった。



「…からくり十兵衛から砲弾? いや飛翔体を確認! 

 みんな気を付けてください!」


 市長を乗せているのにも構わず、マイも大型8輪駆動戦闘装甲車を転進し、からくり十兵衛がこちらに向かっている方向に向かう。


 からくり十兵衛はまだ地平線の向こう。目視で姿は見えないが高性能なレーダーで、からくり十兵衛をキャッチしている。


 飛翔体より弾速ならこちら上だ。


 ハルカはこちらに向かって飛んで来る飛翔体を照準システムに合わせ、20㎜光弾連射銃で飛翔体を迎撃しながら、60㎜レールキャノンで反撃する。


「はずした? 予測よりからくり十兵衛が速い?」


 ハルカはすぐに照準システムを補正しながら、からくり十兵衛から続けて放れた飛翔体を20㎜光弾連射銃で迎撃する。

 キョウコもレーダーシステムを補正し、飛んでくる飛翔体の詳細を確認している。


「飛翔体の正体を確認しました。対戦車ロケット弾です」

「対戦車ロケット弾… 追尾型ではないようだけど、キョウコ念のため対モンスター妨害波を!」

「はい! やってます!」


 キョウコは飛翔体の正体を調べながら、からくり十兵衛が発する目とも言えるレーダーセンサーを妨害していた。


 からくり十兵衛が次々と放つ対戦車ロケット弾が、対モンスター妨害波によって大型8輪駆動戦闘装甲車からだいぶ離れた位置に着弾する。

 ハルカも対戦車ロケット弾を迎撃しながら60㎜レールキャノンで応戦する。


 しかし、ギリギリの所でレール弾を躱されている。


 からくり十兵衛はレーダーだけはなく高性能カメラ、或いはセンサーなどでレール弾の弾道を読み取り躱していると、予測したハルカは、からくり十兵衛の動きを照準システムで補正しながら撃ち続けた。


 チサト達が全速力で、からくり十兵衛に向かって走っている。


 大型8輪駆動戦闘車よりチサト達の方が、からくり十兵衛に近づいているため、チサトたちが攻撃されないように、からくり十兵衛の攻撃目標を大型8輪駆動戦闘装甲車に向けさせ、攻撃目標を変更させないために支援砲撃を続ける。

 

 チサト達がからくり十兵衛へ近づくまで長距離合戦が続く。


 からくり十兵衛が対戦車ロケット弾を次々と撃ち込み、対モンスター妨害波で目標をずらし直撃させない。ハルカもからくり十兵衛の攻撃に怯まず、レール砲を連射する。からくり十兵衛は着弾するすれすれでレール弾を躱す。


 その様子も変わって来る。

 チサト達がからくり十兵衛に近づき、姿が見えて来たからだ。


 からくり十兵衛は近づいて来るチサトのバイクに狙いを変更して、対モンスター妨害波が届かない低高度で狙いを定め、対戦車ロケット弾を放った。


 キョウコとハルカは、レーダーでからくり十兵衛がチサト達に狙いを変更したことを確認し、射線高度が低くなってしまうが、チサト達に構わず20㎜光弾連射銃の光弾を撃ち、対戦車ロケット弾を迎撃する。


 光弾の高さは、チサトたちのギリギリ上だが、チサトたちも構わず直進していた。


 先頭を走っているチサトから無線が届く。


「からくり十兵衛の姿が見えた。映像を送るぞ」


 マイが言っていた通り、映像には大型の人型機械人形のからくり十兵衛が見え、腕が四本あり、右腕の上に四連式ロケットランチャー、左腕の上に大型のソード、下腕二本が大型のガトリング砲、顔となる頭部分には三連カメラが確認できた。

 

 ハルカと長距離合戦で対峙していた対戦車ロケット弾は、右腕上から放っていたのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る