第9話 マイとチサトの情報収集

 アオバ都市を久しぶりに訪れたチサトは、記憶にある街並みが大きく変わっていることに驚いていたが、都市の道路は変ることが無いので、頭を捻りながら記憶を頼って確認しながら、都市に不慣れなマイに道案内をしている。


 二人はマイの希望で、他の都市からアオバ都市を訪れたハンターなら必ず寄ると言われる、ハンターたちに大人気なハンター通りに行きたいと向かっていた。


 ハンター通りは、たくさんのハンターショップが並び立ち、専門店が多くライフル銃専門店、強化服専門店、戦車用兵器の専門店、車両カスタム専門店など、初心者向けから熟練のハンター専用店まであり、ハンター用品、備品などの様々なショップもある。

 その中でも人気があるのは、ハンター専用の総合デパートとも言える『タイエーデパート』だ。


 マイの主目的も『タイエーデパート』だった。


 ハンター通りに入り歩いていると、アオバ都市のハンターも歩いていて、ハンターの格好は千差万別だった。


 マイは見慣れないハンターの格好に、ついつい目で追ってしまっている。

 特に、ド派手な装甲を全身に纏っている強化鎧や、部分的に装甲機械が付いている装甲強化服、身体にピッタリ密着して身体のラインがわかるボディスーツ、可愛らしいドレス式戦闘服、その中でもマイは水着のような肌の大部分を露出している強化服を見て驚いていた。


 マイはタイエーデパートを中心に、他のショップも見てみたかったので、いろいろな店をチェックしながらタイエーデパートに入った。


 タイエーデパートを訪れた理由は、マイは第八北東農園都市ではトップクラスのハンターだが、アオバ都市のハンターと比較すると中堅よりやや下に位置するくらいで、装備もそれなりに良い装備を身に纏っていたが、モンスターの襲撃事件で自身の装備を見直し、装備を更新して揃え直すためで、揃え直す資金は十分にあった。


 マイは自身の装備を見ながらハンターの様子も見ていた。

 トレーダーということもあって、最新の情報を仕入れることを常にしているからだ。


 トレーダーの仕事は遺物の目利き、素材の目利き、モンスターから取れる部品の目利きだけでは無く、交渉力も必要としている。


 マイは交渉力には、特に情報が大切だと考えていた。


 情報不足、不十分だと、せっかく手に入れた物を上手く交渉できずに高く売れない。また、流行りの物や高く売れるものを素早く情報を仕入れ察知して、取りに行くのもトレーダーの仕事だ。


 そのため正確な情報は、常に必要だと考えているマイは都市を歩きながらハンターの姿格好を良く見て、ハンターが話している内容にも耳を傾けていた。


 タイエーデパートに入ってからも、マイは耳を傾けていることを常にしていた。


「チサト…今気になることが耳に入ったのだけど、少しハンターオフィスで調べたいことが出来たから、案内してくれない?」

「ここはもう良いのか?」

「装備なら後でも見に来られるから。それよりもハンターオフィスの方へ行って、確かめたいことがあるの」

「そうか、ハンターオフィスか… アオバ都市には各所にハンターオフィスがあるけど… 調べものがあるなら、中央ビルだな。そこに行って見るか?」

「そこに行きましょう」


 マイとチサトはハンターオフィスの中央ビルがある都市中心に向かった。


 アオバ都市は中心部、中間部、外周部の雰囲気が大分違っている。

 外周部はハンター向けの飲食店や店が各種あり多かったが、中心部に向かって行くと外周部から見えていた高い壁が驚くほどに高く大きく見える。中心部に入る壁の中を通り、進むと雰囲気がガラリと変わりお洒落な服屋や各都市のご当地料理を提供する飲食店、都市の住民向けの店が多くなっていた。

 さらに進み中心部付近になると高層ビル群が並んでいて、どのビルも見上げるくらい超高層になっていた。


 その高層ビル群の中に、アオバ都市ハンターオフィス総本店の中央ビルがある。

 さすが、総本店というような立派な高層ビルだ。


 ビルの中に入り案内板を見るとハンターが入れるのは、依頼受付、各種登録届け出の窓口の一階、二階三階はハンター向けの会議室と資料図書室、そして最上階にレストランがあった。


「チサト、何で最上階にレストランがあるの?」

「ああ、職員やハンター同士が円滑に交渉したり、ハンター向けのパーティーを行ったりする社交的な場だ。私は行ったことが無いので良くわからんが…

 びっくりするほど高いらしい」

「へぇ、そうなんだ。やっぱり都会は違うね…」

「調べものなら二階だが」

「そういう調べものじゃないの…

 チサトはロビーでハンターたちの話に耳を傾けていて。私は今どんな依頼があるか調べてくるから」


 良い情報は無料ではない。

 無料の情報は稀に良い情報もあるが、その裏には何かあることが多い。良い情報が欲しければ金で買うか、不確かな情報を自分で精査しながら得ないといけないのだ。


 マイは依頼を受け取る端末を操作しながら、ハンターや職員が話している内容に耳をすまし傾ける。


 チサトもマイの言う通りに不思議に思いながらも、ロビーの椅子に腰を落としハンターたちの話に耳を傾けた。


 マイが耳をすまし、周りにいるハンター達の話を盗み聞きしていると、一組のハンターたちの話が耳に入った。


「おい。聞いたかよ。第二東海岸都市管轄のヒライズ遺跡に賞金首級が現れたってよ」

「ああ聞いた。なんでも地元のハンターたちが一撃でやられるらしい」


 別のハンターからも聞こえてくる。


「第二東都市から大きな仕事が舞い込んでくるって噂だ」


「どうやら、賞金首は巨人型の女の姿をしているらしいぞ」


「戦車を一撃で破壊されたらしい」


「あのモンスター襲撃事件に関係があるみたいな噂を聞いたが…」


 ロビーで座っていたチサトが、マイの元までやってきて話かける。


「マイ。これって…」

「そうね。まだ噂の段階。依頼を調べたけど、まだそれらしい依頼がない」

「と言うことは?」

「現地点では、ハンターオフィスの方でも噂話を精査しているか、もっと詳しい情報を探っているか、だけど、どっちみち、近いうちに何らかの依頼は出ると思う…

 でも、街が関係しているって、聞いたら不安になるよね」

「あぁそうだな。しっかり情報を得てユイたちにも知らせよう」


 マイとチサトはそのあとも情報を入れるために、ハンターオフィスに居座り続けた。


 ◇


 一方、ヒロミとサトミは、ハンターの格好では無く都会の女の子が着ていそうなお洒落な服に着替えて、都市中心から少し離れたテーマパークに出向いていた。

 ローズマリーのメンバーの中でも、ヒロミとサトミはアオバ都市に観光に来たかのように遊んでいる。


 テーマパークに向かう途中、都市の青年達からナンパされたがヒロミとサトミは青年に興味が無いので無視して先を急いでいた。青年の中にはしつこくナンパしてくる人もいて、その度にハンターの力を見せつけ、青年達をビビらせていた。


 ヒロミとサトミはワクワクしながら、都市の内部とは思えないくらい広大な敷地のテーマパークに辿り着いた。


 二人は早速、入場券を買いテーマパーク内に入る。


 入り口からすぐに都市とは思えない旧世界の遺跡より古い、古代建物のレプリカが並んでいた。

 そう、このテーマパークは、古代世界をモチーフに作られたテーマパークなのだ。


 古代世界に入ったヒロミとサトミはテンションが上がり、ワクワクしながらテーマパーク内の先に歩を進める。今は無い古代の建物を見ながら歩いていると、人が列を作り並んでいるのを発見しアトラクションの看板を見てみた。


『パークNO1の大人気!

 命知らずハンターにも大人気!

 大人気の絶叫を超えた絶叫マシーン』


 通常、絶叫マシーンは死闘を繰り返しているハンターたちには、いくらテーマパークと言えども不人気なものだったが、テーマパークの運営企業からアオバ都市のトップクラスのハンターカンパニーに高難度の戦闘の様子を撮影依頼して、そのデータを基に作ったものだったから、ハンターたちから一般住民にまで人気がある絶叫マシーンが創られていた。


 ヒロミとサトミも並んでいる列に加わる。

 しばらく待ち、とうとうヒロミとサトミの順番がやって来た。

 箱型の乗り物に乗り、自動でシートベルトが閉まる。


 箱型の乗り物はゆっくり前に進み、アトラクションの中に入る。中は真っ暗で少し進むと立体映像が飛び出してきた。

 立体映像も古代世界をモチーフにした映像で、古代街の景観から次第に、街の中で縦横無尽に飛ぶ戦闘シーンに入る。


 縦横無尽に飛び交う戦闘シーンを見ながら、乗り物が斜め上方向に傾き、身体が下に引っ張られる。縦横無尽に飛び交う戦闘シーンは、さらに激しさを増していき、乗り物を上に傾きながらも大きく左右に揺られ、跳ねる感覚までもやって来る。


 立体映像のクライマックスが近くになった。


『危険。危険。危険』


 立体映像が危険表示して、映像が赤く染まる。ヒロミとサトミのテンションも最高潮に達している。


 危険表示しながら乗り物が止まった。


 次の瞬間…


 立体映像が消え外の古代世界の風景が見た。


 と思った瞬間…


 乗り物が真っ逆さまに落ちた。


 この絶叫マシーンのアトラクションの高さは地上200mまであり、その高さから落ちるのだ。


「「 きゃあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー 」」


 乗り物が自由落下して、身体が無重力になり、フワッと浮いた感覚になる。


「「 きゃあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー 」」


 ヒロミとサトミはハンターとは思えない程に、大きな叫び声を上げながら落下して行った。

 無重力を数秒感じて、乗り物がブレーキを掛けて穏やかに下に下る。ヒロミとサトミの顔には目から涙が零れていた。


「おもしろかったね」

「うん。おもしろかった。もう一回乗ってみよう!」

「うん!乗ろう! ユイちゃんに教えたら喜びそうだよね」

「だね」


 ヒロミとサトミは乗り物から降りて、すぐにまた列に加わった。それから何度か繰り返し乗った後、別のアトラクションに向かって遊んでいた。


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