第6話 2チームの仕事

 ローズマリーカンパニーの拠点となった敷地は広い。

 3階を住宅用に改装してキョウコとマイの部屋も新しく作ったが、それでも住居面積が有り余るビル、ハルカの工房を作ってもまだまだ車を止められるガレージ、そして大型トラック5台は止められる倉庫がある。


 ユイはハンターの仕事をせず、プラプラと広い敷地を考え事をしながら歩いていた。


 倉庫に行くと、マイが倉庫に仕舞ってある品物やジャンク品の在庫を確認して見ていた。

 それからガレージに足を運ぶと、ハルカとキョウコは何かを製作している。


 三人が何かしていることを見たユイは、敷地に沿って立っている壁の外周を歩き周る。

 敷地の出入口は二つあり、正面口はビル正面、裏口はガレージと倉庫があり、どちらの出入口も道路に面している。ビル正面からは街中央のビルが見え、裏口からは商店街が見えた。


 何か閃き『うんうん』と何度も頷いてみた後、ローズマリー全員をビル1階のロビーに集めた。


 皆を集めた理由は、有り余る広い敷地を少しでも有効活用し、街の復興のために何かできる事はないかと考えながら、拠点の周りを歩いていると、ローズマリーの店を作ることを思いつき、まだはっきりどのような店を作って良いのかわからなかったので、皆で会議して決めようと思って皆を集めたのだ。



「じゃあ、店って言われても色々あるから、どんな店が作りたいの?」


「ん~ どんなって言われてもな~

 …さっき敷地を歩いて気付いたのだけど、正面からはビルが見えて、裏口は商店街が見える。街はまだ復興中だし、私たちも何かできれば良いかなって思って…」


「なるほどね。ユイ。わたしたちは大きな敷地を手に入れたわね。大きな敷地を維持するには、それなりのお金も必要になるわ。でもローズマリーは少人数、ハンター稼業の収入にも限界があるわ。

 それで敷地を利用して、収入を増やすために、私たちが出来る店ってことでいいかしら?」


「うん! そんな感じ」


 皆はユイから説明を聴き、ワイワイと冗談と言いながらも、真剣に中身がある様々な意見を言い合った。その中でも、マイの提案に意見が絞りつつある。


 マイの提案は、まだフリーマーケットに売りに出していない倉庫に眠っているジャンク品を、ローズマリーカンパニー直に販売をしてはどうだろうかと言う意見で、皆はその意見を膨らませて、もっとしっかりとした案にまとめていた。


「では、ジャンク品を売ってはどうだろう?

 もしローズマリーが直にジャンク品を売る事になれば、わざわざフリーマーケットに手数料を払わなくても良くなるし、その分ローズマリーの収入になる。

 それに目利きの専門家の私もいるし、効率よく捌いて上げられる」


「マイさん。ジャンク品だけしゃなく、ジャンク品を改造修理した物や、ジャンク品で作った武器なども売れますよ」


「そうね。トレーダーのマイ、メカニックの私とキョウコがいるから売り物には困らないわね。おバカ5人は頑張ってモンスター倒してジャンク品を集めて。 うふふ…」


「ハルカ、最後のひと言はいらないよ~」


「「 そうだよ。ハルカちゃん 」」


「そっそうだ、よ。はっハルカ、ちゃん」


「チサトよ。無理してヒロミたちの真似するな。

 ユイ。私達は今まで無差別にモンスターを倒し、モンスターから取れるジャンク品は何でも取っていたが、マイが加入したことで良い金になるモンスターを効率的に狩れるのではないか。

 良いジャンク品をハルカとキョウコがさらに手を加えれば、さらに良い金になると思うのだが…」


「さすがコウね。伊達に長生きしていないわ。コウが話をまとめた感じだけど…

 高値のジャンク品をさらに手を加えるには、もっと部品や材料が必要になるわ。頑張って材料集めてね。他に何かある?」


「店の場所なのだけど… いいかな?」


「うん。マイいいよ」


「店の場所は裏口が良いと思う。

 敷地正面は、統治機構ビルを中心に街の運営を要する建物ばかりだから、その建物に出入りする人は、何かを手続きに来るハンターや住民、そして働くための公務員でしょう。ハンターオフィスに遺物を持って行くハンターもいるけど、買い物目的の人たちでは無いよね。

 その逆の裏口は、商店街に面していて商店街に来る人は、何か欲しい物があって買い物に来る訳だから裏口の方が向いているの」


 マイは一息ついてから続きを話す。


「私たちローズマリーカンパニーが売るのは、主にジャンク品や手を加えたハンター用の武装類になると思うけど、ジャンク品は民間用なんて物もあるの。

 皆も知っていると思うけど、遺跡から持って帰られる日用品の遺物、これなんかはハンターオフィスに持って行かず、直に売った方が高く売れて利益率も高いの。

 遺物のほかにもジャンク品、スクラップ場にある鉄くずや電子部品なんて物も、ハンターだけじゃなく住民にも需要があるのよ。

 だから、裏口に看板を付けてローズマリーカンパニーのショップです。って宣伝すれば、街の皆が利用して品物の回転が速くなり売り上げも上がると思うの。その分、忙しくなるけど…」


「裏口なら倉庫を一部改装して店にするってのはどう? 倉庫自体が店のバックヤードになるわ。

 いいかしら。

 ジャンク品集めるにしたって、ローズマリーカンパニーは少人数なんだから、売り物になる多量のジャンク品をいっぺんに運び入れるのは無理があるわよね。

 いっぺんに集められないと言うことは、あの大型トラック5台は入る倉庫の中はいつもスカスカ状態になるわ。ローズマリーカンパニーがスクラップ場発掘専門のカンパニーなら、大きな倉庫をいっぱいにさせる事は出来るけど、ローズマリーはそうではない。

 どうせ、いっぱいにならない倉庫なら一部を改装して店にしたって良いと思うわ」


「―――――――――――――。」


 マイとハルカが最終案をまとめてしまったために、皆それ以上良い案が考えつかず黙ってしまった。


「はい! 決まり!」


「ユイ!」


「だってこれ以上意見が出ないのでしょう。私は皆の意見に賛成。

 マイが商品を吟味して、ハルカとキョウコが売り物を作る。私とチサト、コウ、ヒロミ、サトミで売り物を探し取ってくる。適材適所ってヤツだよね。

 キョウコとマイが入って来たことで、ローズマリーがさらにパワーアップして私はうれしいよ。

 じゃ! 店の名前は引き続き皆で考えることにして、今から始めよう!」



 他の都市の大中規模カンパニーなら、カンパニーが不要になった装備類や兵器類、ジャンク品を売る店を所有していることが多いのだが、この街にはそういう店はなかった。

 この街のカンパニーは、フリーマーケット社に売りたい物を預け、売値10%の手数料を払っていた。今まではローズマリーもそうだったのが、店を作ることで10%の手数料が掛らなくなり、その分利益に繋がる。


 ローズマリーカンパニーはまだ緊急依頼の報酬金が貰えずにいて、倉庫を業者に頼んで改装できるほどの充分な資金はなかった。しかし、サイクロプスとミノタウロスのこん棒が多量にあるために、ハルカとキョウコがこん棒を加工して、改装に使う壁や仕切りなどの建材を作り、商品棚も作ることができる。


 ハルカとキョウコが作った建材や骨組みを、他のメンバーが組み立て店の形を作り、内装まで作って行く。


 それらしい店の形が出来上がり、店の雰囲気を作るために飾り付けをしていたら、電子部品が足りなくなり、足らなくなった電子部品を荒野のスクラップ場に取りに行くことになった。


 電子部品を取りに行く人、店を作る人でチームを分ける。


 スクラップ場に行くメンバーは、トレーダーのマイをリーダーにして、改装に飽きてきたユイ、チサト、コウが行くことになり、残りのハルカ、キョウコ、ヒロミ、サトミはそのまま店作りをすることになった。


 担当が決まったマイたちは、テスト走行を終わらせたばかりの大型8輪駆動戦闘装甲車に高性能なトレーラーを連結させ、スクラップ場に向かい、何事もなく無事にスクラップ場にたどり着いた。


「マイ。私達はどれも一緒に見えるけど、マイにとっては違く見えるの?」


「うん。ここのスクラップ場は、旧世界の部品と現世界の電子部品が一緒に捨てられていたりして、使えるもの、使えないものが一緒にあるから、今しっかり見ないと帰ってから苦労することになるの。

 あっ! コウ! それはゴミだよ」


 マイは良い品を厳選しながら、皆に指示を出し電子部品を集めていた。


「いつもハルカ頼りだったが、マイはしっかり良い物を選んで、使える使えないを言ってくれるから助かるな」


「チサトよ。そんなんでは、私みたいに身体を機械に換装すると苦労するぞ」


「コウみたいに身体を機械になんて変える訳ないだろ。これでも私の身体は頑丈な超人なんだから」


「あっはっは… その油断が、身体を機械にする!」


「なるほど… 武神様は、油断から身体を機械にしたって訳かい!」


「貴様!」


「二人とも遊んでないでしっかり集めてよ! 

 私はちょっと休憩するから…」


「「 ユイ! 」」


「えっ? な~に~」


「さぼるな! そもそもユイが言い始めたことなんだぞ」


「うむ。そうだ。ユイが言い始めなかったら、こんなところに来ることはなかった」


「・・・・・・・・・・・・。」


「ほら! マイが困っているじゃない! マイ大丈夫だよ。二人はいつもこんなんだから」


「「 こら! 」」


「あっあの… みんなでおやつ食べながら休憩しましょうか…」


「それがいい! そうしよう~」


「そうだな」


「それもよかろう」



一方その頃、ハルカたちはせっせと店つくりをしていた。


「ねぇ…ハルカちゃん。あっちはしっかり集めてるかな?」


「戦闘狂が揃っているから、今頃飽きて来て遊んでいるかも…私たちもあっちに行けばよかったかな」


「ヒロミ、サトミ、あっちが良かったの? …あのスクラップ場近辺はモンスターに遭遇しやすい場所だから、こっちの方が楽で良いと思ったけど…」


「ちなみに私は力不足で、独りで行けなかったので、カンパニーの人達と行ってました」


「「え~! あそこってそんなに出るの? 」」


「まぁ、遭遇しやすいと言っても軍隊オオアリだから…面倒なだけだわね…」


「そうですね~。腕に銃を付けたオオアリや、刃を持っているオオアリまでいるので、面倒なんですよね」


「あっちを選ばなくて良かった…」


 店に残ったメンバーは、商品棚を組み立てながら飾り付けをして話をしている。


「サトミちゃん、それ可愛らしいですね!」


「でしょ。…キョウコちゃんのセンスも可愛いよ」


「ヒロミもサトミもそれにキョウコまで、ここは部品売り場なんだから可愛らしく飾り付けしない!

 …でも …なんかいいわね… 予定を変更して、みんなで可愛らしくしよう!」


「「「 おお~ 」」」


 ハルカたちもワイワイガヤガヤ楽しく店作りをしていた。


 それぞれチームに別れて作業をしていると、カンパニーの通信端末にハンターオフィスから連絡が来た。

 報酬金の話かなと、ワクワクしながら通信端末に出ると、依頼の話だった。

 ローズマリーカンパニーのリーダーが不在のために、折り返し連絡すると一度切り、ユイに連絡を入れると変わりにハルカに行って欲しいと言われ、ハルカがハンターオフィスに出向くことになった。


 その依頼とは、街の統治機構最高責任者市長を、本都市アオバ都市まで護衛輸送することだった。

 本来なら統治機構の防衛隊が護衛輸送する仕事なのだが、まだ街にはハンターが少なく、防衛隊を割いてまで護衛に回されると、街の防衛が不安になることから、ローズマリーに依頼をしたのだ。


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