第5話 トップのトレーダーハンター

 ローズマリーカンパニーに新しく加入したキョウコは、ハルカと一緒に新調した大型8輪駆動戦闘装甲車を改造していた。キョウコは衝撃吸収式障壁を作れるだけではなく、きちんとしたメカニック技術も持っている。

 

 砲台が標準装備で140㎜砲1門、40㎜機関砲2門、12㎜機関銃2丁付いていたが、それらはローズマリーの戦闘スタイルには合わない理由から、倉庫に眠っているハルカが製造した砲台に換装し40㎜ビーム砲2門、60㎜レールキャノン2門、20㎜光弾連射銃3丁を付けた。


 ローズマリーカンパニーは小規模なので、戦闘になるたびに多量の弾薬を使ってしまうと、弾薬費だけで支出が重なり収支が合わないので、なるべく充電ができるエネルギーパックで済まされる武装にしていた。


 砲台だけではなく、装甲も多量に集めたサイクロプスのこん棒を加工して、軽量硬質な金属の装甲も追加で付け、情報通信機器、高性能レーダーシステムも新しく取り付け、ユニットと言われる各システムの出力を上げるコンピューターも交換して、戦闘だけではなくカンパニーの指揮車にも出来るように改造を施す。

 動力系や駆動系までも、車両の基本ポテンシャルを大幅に上げるための改造も施した。



 改造が終わり、試運転と射撃テスト、システムテストをするために、街から遠くない今では遺物を探しても、お金にならない日用品しか残っていないショウナイ遺跡に向かった。

 ショウナイ遺跡の内部は低層住宅街で、強力なモンスターが出ない。初心者ハンターの訓練や武装兵装類などのテストに向いた遺跡だ。


 遺跡に辿り着いたローズマリー一行は、車の運転を皆で交換しながら試運転を行い、走行性や挙動を試す。武装の照準や試射も試すため、こちらも交換しながら遺跡中を走行する。


 大型8輪駆動戦闘装甲車内は操縦席、射撃管制席、通信管制席があるがそれでも充分に広く、カンパニー全員が乗ってもまだ乗れるくらい広い。戦闘糧食や予備のエネルギーパックなどの物資も充分に搭載することができる。


 ショウナイ遺跡の大通り、裏道、道路が捲り上がった道など様々の道路をテスト走行する。遺跡内部の高層ビルは無く、高い建物でも精々3階建てで低層住宅ばかりだ。


 適当な道を選び走行していると、住宅と住宅の間や道路の裏から情報通信システムのレーダーがモンスターの反応を示した。

 レーダーが示す方向へ各砲の試射のため、建物ごとモンスターの影に撃ちこみ、ビーム光、レール弾が建物の壁を貫通し、過剰な威力でモンスターをなぎ倒していく。

 そのビーム光、レール弾の威力、射撃通信システムの反応、砲撃するたびに揺れる車の挙動を何度も確認しながら、ショウナイ遺跡内部を何周もした。


 一連のテストが終わり、皆も車の操作を覚えた頃には、すっかり日が暮れていた。

 夜間の訓練も良いのだが、夜食分までの戦闘糧食を持って来ていなかったので、街に戻る事にした。



 街の戻る途中、変質した硬質の木々や、荒れた土地の環境を元の姿に戻していると言われている大きなキノコのような胞子が所々生えている平地で、大型8輪駆動戦闘装甲車の下から、何かが突き出すような揺れを感じた。


 何事かとレーダーシステムを全方向に向けると、地面の中から大型モンスターの反応が現れた。 

 射撃管制に座っているハルカが、地面に向けて効くかどうかは分からないが20㎜光弾連射銃を地面に叩きつける。

 

 連射した光弾が次々地面に当たり、土煙が立つ。


 土煙の中から、地下から地上へ向け、鋭い口を大きく広げたモンスターが飛び出して来た。

 歴戦のハンターでも油断すると殺られてしまう、大型モンスター『砂鮫』だ。


 砂鮫が勢い良く地上に跳ね上がり、こちらの車に向けて、鋭い口を大きく開いたまま車ごと飲み込もうと突っ込んでくる。

 運転をしていたコウが咄嗟にハンドルを切り、車体の横に滑らし土煙を上げながら上手く躱す。


 コウは人間科機械族で、機械である身体を制御するために、身体中にバランサーチップが埋め込まれている。そのシステムを車両と繋ぎ合わせると、車両を手足を動かすように動かせる。


 そのコウが車体を滑らしながら砂鮫の突撃を躱し、射撃管制に座っているハルカがカウンターで40㎜ビーム砲を放つ。砂鮫の横腹に青白く光るビームが命中した。しかし、砂鮫の皮は強固に硬く、ビーム砲の一撃を跳ね返し、また地下に潜ってしまう。


 地下に潜られてもこちらには高性能レーダーがある。通信管制に座席していたキョウコがすぐさま砂鮫の影を捕らえ、運転しているコウに捕らえた方向を伝える。コウは車を飛び噛まれないようにクルリと急転進し、ハルカは砂鮫に照準を合わせた。


 地下で体勢を整えた砂鮫が鋭い口を大きく広げ、地面を泳ぐようにこちらに向かって来ている。

 ハルカはビーム砲ではなく、今度はレールキャノン2門の砲撃を叩きつける。砂鮫の顔にレール弾が命中し顔皮の中にめり込み、皮下でレール弾が破裂する。破裂と同時に緑の血が噴き出した。


 砂鮫はその攻撃に堪らず雄叫びを上げ、地下深くに潜る。

 地下から反撃の様子を覗い、また地下から地上へ飛び出す。

 

 地下から砂鮫が飛び出すポイントをしっかりキャッチしているキョウコがコウに伝達、コウが車体の後輪を滑らしながら上手く躱し、ハルカがレールキャノンでカウンター攻撃する。レール弾が砂鮫の横腹に命中し、緑色の血しぶきを飛ばした。

 しかし砂鮫は、怯まずそのまま大きな口を広げて向かってくる。


 コウたち三人が集中して大型車を自在に操り、攻防を繰り返している最中、車内ではシートベルトを締めていなかったユイとヒロミとサトミが、車の急停止、急加速、急転進するたびに前後左右に身体がすっ飛んでいた。


 前に吹っ飛んだと思えば、横に振り回され、そのまま後ろにすっ飛んで行く。ユイ、ヒロミ、サトミは車の挙動で掛る重力を笑いながら受けて遊んでいる。

 チサトは、ケラケラ笑いながら吹っ飛び、遊んでいる大人しくしていられない三人を鬱陶しく感じ、力尽くで座席に座らせ、縄で縛り付け遊んでいた。


 ユイたちが車内で遊んでいる一方、コウたちは砂鮫との攻防を繰り返している。

 

 砂鮫が地下に潜り、車の後方から飛びかかって来た。

 コウは後輪を滑らし土煙を上げながら横に反れ、砂鮫を躱し、ハルカがレールキャノンで反撃する。レール弾が横腹を貫き、砂鮫の硬い皮を貫通しダメージを与え、緑色の血が吹き出す。


 何発もレール弾が命中し貫き、砂鮫の全身は緑色の血に染まり、口を大きく開き天に向かって叫びながら巨体を揺らし大暴れした。

 辺り一帯まで響く叫び声、巨体を揺らし大型8輪駆動戦闘車でも揺れる振動、砂鮫が怒りモードになり鋭い牙を立て突撃した。

 

 全方向に照射されたレーダーに、凄まじい勢いで砂鮫がこちらに向かってくる投影が示され、キョウコが突撃してくる方向を指示する。コウが車を横にグイっと滑らしながら急旋回、砂鮫との間合いを取り、ハルカは照準を口の中に狙い定め、止めのビーム砲を撃った。

 ビーム光の一撃が砂鮫の鋭い口の中に入り込み命中、エネルギー爆発する。

 口の中を爆発された砂鮫は辺り一帯まで響く悲鳴を上げ、そのまま大きな音を立て倒れた。


「やっと終わったわね。コウ、車の方は大丈夫?」


「うむ。大丈夫だ。かなり荒っぽい挙動したなのに、しっかりした足回りだな」


「はい。ハルカさんがこのくらいにしないとすぐ壊すからって、頑丈に造りました。それと倒した砂鮫のジャンク品って高く売れるのですよね…」


「そうね。砂鮫の皮と牙は良い値段で売れるわね~。 トレーラーも持ってくれば良かったわ~」


「こらユイ! 歯で縄を解くな。大人しくしていろ! ハルカ、牙くらいは持って帰られるのではないか?」


「そうですね。持って帰りましょう。あの~ユイさんたち三人、戦闘中飛んで遊んでいたようですけど…」


「うむ。気にするな。いつもの事だ。あまりにも五月蠅いとチサトがしたようになる」


「チサト…ほどいてよ~」

「「 チサトちゃん~ 」」


 五月蠅かったユイ、ヒロミ、サトミを縛ったまま、皆で砂鮫の牙を取り外し車に詰め込んだ。



 ショウナイ遺跡で試運転、試射のテストを行い、砂鮫を倒したことで大型8輪駆動戦闘車のテストが終わり、街の戻る頃には日が暮れていた。


 ローズマリーの拠点に帰ると、薄暗い中、拠点の入口で一人の女性ハンターが佇んでいた。

 車をガレージに止め、女性ハンターに声をかけてみる。


「はじめまして。マイと申します。

 お忙しいところ、突然の訪問で誠に申し訳ございません。

 私は、以前タメーリックカンパニーに所属しており、遺物の目利きから、モンスターから取れるジャンク品まで、それからジャンク場のジャンク部品、素材の目利きをしておりましたトレーダーハンターです。」


「タメーリックカンパニーのマイって聞いたことがあるな…

 どこで聞いたか~」


「はい。私どもはランキングに掲載させてもらっていたので、それで聞いたことがあるのだと思います」


「うむ。ランキングか… 私の記憶では、遺物ランキングを常時トップにいたと記憶しているが…」


「はい。その通りです」


「それで、ランキングトップさんがここに何用で?」


「はい。ローズマリーカンパニーの皆さまも御存知だと思いますが、私が所属していたタメーリックカンパニーは、先日のモンスター襲撃事件で所属ハンター全員が殉職してしまい、カンパニーが壊滅状態になってしまいました。

 私独りが取り残されて、私一人では何かとカンパニーの経営が不便で、力量不足から経営不能に陥ってしまったのです。そこでタメーリックカンパニーの残り全資産を持って、誰もが憧れ、素晴らしい実力があるローズマリーカンパニーに併合させて貰いたく、来た訳でございます」


「うん~ 簡単に言うと仲間になりたいってこと?」


「はい。その通りでございます。どうでしょうか。ランキングトップだった私を加入させることで、さらにローズマリーカンパニーのランクが上がり、収入を大幅に上げる事を約束します」


「うん~ みんな… どう思う?」


「そうだな。まず話し方が堅すぎるな」


「そうね。硬すぎるわね」


「私はローズマリーに入ったはかりだから… あの… その…

 皆さんと負けず劣らず、胸が大きくてスタイルが良いと思います」


「話し方は堅いかもだけど… おっぱいは大きいし柔らかそうだよ!」


「サトミ! わたしもそう思うけど、今はそういう事じゃないよ」


「ヒロミもそう思うなら、大きいおっぱいをさわって見よう」


「きゃあ~」


「こら! ヒロミ! サトミ! 

 急に胸を触ったらビックリするでしょう」


 ヒロミとサトミはユイに怒られて反省する様子を見せ、マイは顔を紅色に染めていた。


「うむ。話し方は堅いが、胸は柔らかいか…」


「みんな良いみたいだね。私も名前がユイ、マイで何かコンビみたいで良いなって思っていたんだ」


 一同が頷いた。


「それじゃ改めて自己紹介するね。私はユイ。一様ローズマリーのリーダーだよ」


 それぞれ自己紹介をして、仕事終わりのお風呂をみんなで入った。もちろんマイも一緒だ。

 今さっき加入したばかりの新人マイは、ヒロミとサトミに身体を物珍しそうにペタペタといろいろ触られて、どう接したら良いのか判らず、何時しか普段の話方になっていた。


「それで、資産の話だけど…」


「ん? 資産…」


「タメーリックカンパニーの資産はどのくらいなんだ」


「ううん…いいよ。話さなくて。タメ―リックカンパニーの資産は、現在残っているメンバーが決めれば良いし、もし残っているメンバーがうちに来たって、それはそれ。

 タメーリックカンパニーのみんなが必死にハンター活動して資産があるのだから、わたしたちには何も言えないし言う立場もない。

 資産はマイが決めることだよ。生き残ったマイが決めなきゃ誰が決めるの?」


「そっそれは…」


「マイさん…私もマイさんと同じ境遇なのですけど…元いたカンパニーの資産を全て現金化して預金してあります。これから生き残るため、必要な時に必要な物を揃えるためにです」


 マイは噂通り、他所のカンパニーには関与しない、ローズマリーカンパニーらしくマイペースで楽しく過ごしながらも、しっかりハンター稼業をしていることを実感していた。

 また、同じ境遇のキョウコの話を聞いて、資産を持っていると税金が掛るため現金化して、タメーリック名義で全ての金額を生き残った証として取っておく事にした。


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