第4話 眼鏡のメカニックハンター

 ユイは拠点に帰ってから、市長と室長との間で話した事を皆に話をした。

 街の防衛協力要請とは言え、ずっと街の外に出て見回りをしているだけではなく、遺跡にも行って異常が無いか確認するのも街の防衛になり、街の復興を手伝う事も防衛になる。ハンター稼業なら何でも防衛になると言うことを交渉で決めてきた。


 皆は少し報酬のことで唸ったが、たっぷりとは言えないが預金はあるし、今は現金に困っていない。ハンター稼業に必要な物資を用意してもらえるのだからと快く承諾した。


 現在、エネルギーパック以外では困っていることは無いので、直ちにエネルギーパックを注文した。それから折角、車両も用意すると言う事なので車両も検討することにした。


 今保有している車両はユイ、チサト、コウが戦闘スタイルから高機動の大型浮上バイクに乗っている。ハルカは兵器や車両を改造する素材や部品、ジャンク品を集めることが多いので、6輪中型装甲トラックを好んで乗っている。ヒロミとサトミは共有で小型戦闘車両を持っていた。

 それぞれのメンバーが目的に合った車両しか持っていない。


 協力要請でハンターオフィス、統治機構から飛び込んでくる任務、依頼はどういう形になるかわからない。


 皆が乗れる車両もあると、後々役に立つことからどのような車両が良いのか考えた。しかし、一人一人の好みが違うのでバラバラに欲しい車両の話をして結論が出ない。結論が出ないままワイワイ話している内に、話に飽きたユイ、ヒロミ、サトミが遊び始めて来た。


 遊んでいる三人を見たハルカが手を挙げ、皆で車両ショップに足を運ぶことになった。


 車両ショップに着いても、皆は世間話や談笑などのおしゃべりしてガヤガヤ騒がしい。

 一同は店員に皆が乗れる大型車両の説明をして、店員が説明に該当する車両を案内する。


 大型戦車、大型戦闘車、大型輸送装甲車、大型バス、大型装甲重機など大きな乗り物なら何でも見て周る。

 車両を見るたびに見ているのか、騒いでいるのか、判らないくらいワイワイ騒ぎながら見て選んでいた。


 店員は車両の説明しながら、騒がしい一行に買う気があるのかと疑っていた。そんな中、コウが1台の車両をジッと凝視していた。


「コウ。何か良い物見つけた?」


 まるで女の子が好みの洒落な洋服を選んでいるかのように、軽い口調で話をしている。店員はずっと疑っていた。


「うむ。この車両がカッコイイと思ってな」


「ハルカ! コウがカッコイイ車見つけたって!」


 ユイが大きな声を出して皆を呼んだ。


「「「「おお! カッコイイ! 」」」」


 皆が「カッコイイ」と叫ぶ車両は、大型8輪駆動戦闘装甲車だった。

 店員は今まで疑ってはいたが、ショップ一番のおすすめを「カッコイイ」と褒められ、自慢するように車両の説明に入った。


「さすが、御目がお高い。

 この大型車は8輪駆動でどんな悪路でも走破する頑丈な足回りをしています。

 さらに、さらにですよ!

 8輪駆動なのに省エネルギーで高機動!

 とても足が速く、大型車両クラスなら一番早いはずです!

 これがこの車の特徴の一つなんですね。

 

 この大型車両には、まだまだ特徴があります。


 二つ目の特徴は、屋根の上の装備、砲台ですが… 

 なんと! 140㎜砲1門、40㎜機関砲2門、12㎜機関銃2丁が標準装備なんです!

 これならどんなモンスターでも倒せますよ。

 さらにお代が少し掛かってしまいますが、オプションで主砲が200㎜まで変更可能で、機関砲、機関銃もオプションで増やせられます。

 

 もちろん、破壊力の高い砲弾をしっかり正確に的に当てるには、高性能レーダー、高性能な照準器が必要ですよね… 

 大丈夫! 大丈夫なんですよ! 

 なんと! 標準装備で高性能レーダーと高性能な照準器が付いているのですよ!

 

 どうですかお客さん!


 そして三つ目の特徴。車内をご覧ください。

 どうですか。

 運転席は広く、車内も12人が乗れる充分に広い空間。

 さらに! さらにですよ…

 射撃管制席、通信管制席まで標準装備しているのです! 

 どうですか。良い車でしょう。 


 最後の特徴。

 四つ目の特徴といたしまして、こちらもオプション装備になってしまいますが、通信管制をさらに強化することが可能なんです。高性能なレーダーにオプションのレーダーシステムを付け加えると…

 なんと! 


 総合戦闘指揮車にもなれる優れた車なのです!


 こんなに素晴らしい武装、情報処理システムまでが付いて、使い勝手がとても良い大型車の価格はなんと… なんとですよ! 

 たった一億!

 たった一億ゼニーなんです!」


「「「「「「 へぇーそうなんだ 」」」」」」


 お金は統治機構で払う事になっているので、カンパニー一行は価格を言われても平然としていた。

 興味深そうに車両が詳しいハルカはいろいろ見て触っているが、他のメンバーは車を見ながらあーだこーだとガヤガヤおしゃべりをしている。


 店員はその様子を見て『嫌がらせに来たのかよ』と心でガッカリしていると…


「これは良いわね! みんな! 私はこれが良いと思うわ!」


 ハルカが絶賛した。


「ハルカ。すぐに使えそうなのか?」


「すぐに使えるけど… このままじゃ、みんなは物足りないと思うわ。もっとドッパーっと改造しないと。何だかワクワクしてきたわ」


 テンションが上がっているハルカを見て、ユイは皆に声をかけた。


「みんな。このカッコイイ車で良いと思う人、手上げて!」


「「「「「 はぁい 」」」」」


 全員賛成で、この大型8輪駆動戦闘装甲車に決まった。


 店員は驚いた。

 こんなに軽く決めて良いのかと。

 

 一億ゼニークラスの車両を買うハンターは、価格が価格だけに慎重に決めるのが恒例で、価格交渉もしてくるのが習わしだったのが、このカンパニーは意図も簡単に何も考え無しで、選んだことに驚きが隠せなかった。


 また、いとも簡単に女子が洋服を買うようにカンパニーカードを躊躇も無く提示されて、何かの詐欺ではないかと怪しく思いながら、カンパニーカードをレコーダーに通すと、その支払先は統治機構なのでさらに驚いた。


 ユイたちカンパニーを上客と判断した店員は、ユイたちを常連客にさせたくて、丁寧な接客をして、早急に車両引き渡しの手続きを行った。

 手続きの間もショップが自慢できるおすすめ商品を紹介した。


 おすすめの中に高性能な大型けん引トレーラーがあり、ハルカの提案で今買った大型8輪駆動戦闘装甲車に連結できて、荷物を運搬できるその高性能なけん引トレーラーもついでに買った。


 店員は、ついでにこんなトレーラーまで買ってしまうとは、と三度驚いた。どれだけ統治機構と関係が継がっているのか、この街にこんなハンターカンパニーがいたのか、と驚いた。



 ◇


 車両引き渡し手続きが終わり、真新しい車両に乗ってユイたちはカンパニーの拠点に戻った。


 戻ってから気付いたことがある。


 ユイたちのカンパニー拠点としている敷地では、大型8輪駆動戦闘装甲車とトレーラーが入れられないことを今、知ったのだ。

 本当に何も考えていなかった…。

 しかし、統治機構から土地を譲渡しても良いと言われていたので、もっと大きな土地を探すことにした。


 空き物件は多数ある。

 空き物件は、モンスター襲撃事件でカンパニーが壊滅していたので、選り取り見取りだ。一件一件見て周るもの良いが、面倒なのでユイが通信端末を使い市長に連絡を入れた。


 事前に連絡を入れず市長に連絡を入れたので、復興で忙しい市長に怒られたが、おすすめの物件を紹介してくれた。


 紹介された物件は、ハンターオフィスと統治機構ビルが近くにある街中央部で、元は大規模カンパニーが所有していた土地建物だった。


 ユイたち小規模カンパニーでは持て余すくらい大きな3階建てビル、大型トラックが15台は止められるガレージ、大きな倉庫があるとても贅沢な物件だ。さすがは元大規模カンパニーが所有していた土地。


 市長がおすすめした物件なのだから、ユイたちカンパニーはそこを新しい拠点にすることにした。

 

 持て余すくらい広いビルは、大規模カンパニーらしい事務所になっていたので、自分たちで改装し3階を住宅用にした。2階の多目的用と大きなお風呂、開けたロビーの1階を少し手を加え、ガレージの一部をハルカ用に工房を作った。ちなみにお風呂は温泉かけ流しだ。



 改装が終わり、拠点の引っ越しをしていると、一人の女性ハンターが訪れてきた。


 そのハンターは、やせ型で線が細く背が低い。眼鏡で三つ編み、ブカブカな戦闘服を着ていた。

 女性ハンターは、生き残ったハンターだった。


 まず始めに、接客対応したのはヒロミとサトミで、訪れたハンターと話がはずんでいる。


 訪れたハンターは人間科長寿族の女の子で、外見がヒロミとサトミと同じ年頃に見え、眼鏡をして身体が薄かったから、ヒロミサトミが興味を持ち、話がはずんでいたのだ。


 この訪れたハンターの薄い身体つきは、ユイたちカンパニーにはいない。

 コウは身体を機械化しているので除くと、みんな女性らしい丸みがある良いスタイルをしており、ヒロミとサトミは身長が低いのにスタイルは良いから、身体が薄い女の子ハンターに興味を持ち、ずっと話をしていた。


 ヒロミとサトミが楽しそうに話をしていると、そこにハルカも混ざり、ハルカも話がはずんでいる。


 訪れたハンターはハルカと同じメカニックで、防御障壁を作れることだった。防御障壁を作れるメカニックはほとんどいない。


 ハルカのは弾丸などを跳ね返す衝撃反射式障壁、彼女のは弾丸の威力を吸収する衝撃吸収式障壁が作れる。この二つの障壁を幾重にも重ね合わせると、かなり使い勝手が良い障壁が作れると話が盛り上がっていた。


 ハルカも話が盛り上がっているとユイも来た。

 改めて訪れて来たハンターが自己紹介する。


「はじめまして。元パーセリカンパニーに所属してメカニックしてました。キョウコと言います。」


「はじめまして。ここのカンパニーのリーダーしているユイです。

 へぇ…メカニックなんだ…ハルカと一緒だね。それでここには何しに来たの?」


「はい… その… 今日訪れたのは……」


「訪れたのは?」


「キョウコちゃん! ユイちゃんはおっちょこちょいだから、そんなに緊張しなくてもいいよ」


「サトミ!」


「は、はい… わたしをこのカンパニー『ローズマリー』に入れてください!」


 ユイはキョトンとしてハルカ、ヒロミ、サトミを順に見た。それからキョウコが此処に来た理由を話す。


「わたしが所属していたパーセリカンパニーはあの襲撃事件で全滅しました。

 パーセリのみんなは街の郊外に出て…わたしはカンパニーのメカニックだし…ハンターレベルも低いし…身体が小さいので、私一人拠点に残されたのです。

 …そして、わたし一人拠点で…必死に戦って…気が付いたら終わってました…」


「あの中を一人で凌ぐなんてすごいじゃない! しっかりした実力があるよ! で、何でここなの?

 私達のカンパニーは小規模だよ。それも目立たない弱小だよ…」


「いいえ! そんなはずはないです! 

 ローズマリーカンパニーは、他のカンパニーから噂になるほどに…曰くつきって言われてますけど…何と言いますか…

 その… あの… あっ!

 わたしが生き残れたのは… この防御障壁のおかげです。

 まだ試作段階なのですけど、あの襲撃ではすごく活躍しました!」


 キョウコは、衝撃吸収式障壁を展開して見せた。


「その障壁は?」


「ユイ。私が説明してあげるわ」


「ハルカ、知っているの?」


「まぁね。その防御障壁はその辺に売っている品物じゃないわ! とても珍しいものよ。

 私の反衝撃式障壁と正反対の性能で衝撃吸収式障壁と言って、とても高性能な品物なの。弾や砲弾の衝撃を吸収分散して威力を無効化するわ。ユイの斬り込みだって効かないわよ。

 この衝撃吸収式障壁は、私も前に作ったことがあるのだけど、完成しなくて失敗したわ。かなりレベルが高い技術なのよ」


「い、いいえ…わたしはそんな技術なんてないです。私は反衝撃式は作れないですし…」


「で? ハルカはどう思うの?」


「私は良いと思うわ」


「ヒロミとサトミは?」


「「私たちもOK! 」」


 ユイはキョウコを凝視した。


「もしかして、ヒロミとサトミがOKしたのは、眼鏡で薄いからでしょう!」


「「 どうしてわかったの? 」」


「何となく…私もキョウコちゃんは眼鏡が似合っていて、薄くて可愛らしいから…いいよ! 

 うちに来なよ!

 じゃぁ、チサトとコウにも紹介してあげないと…」


 ユイは喜んでパタパタと走り、二人を呼びに行った。


「ね! ユイちゃん、おっちょこちょいでしょ。何でこのカンパニーを選んだのか言ってないのにOKしちゃったし」


「アハハ…そうですね…少し安心しました。

 みんなここは曰くつきで、何考えているのか判らず距離を置いていましたが、私はずっと気になっていて、ランキングとかずっと見ていたのですけど…

 思い切って来て良かったです」


「私とユイはアオバ都市にいた時からずっと一緒だったけど…

 此処にいるみんなは、気が付いたら一緒だったわね。キョウコもそうなのよ。いつの間にか仲間になっているわ」


「私たちもいつの間にか、ユイちゃんとハルカちゃんと遊んでたんだよね~」

「ね~」


 ユイは二人を連れてパタパタと走って戻って来た。


「改めて紹介するね。今日から一緒に過ごすことになったキョウコちゃんです~。

 みんな拍手」


 パチパチパチパチ…


「じゃあ、詳しい自己紹介は御飯食べながら…

 と、その前に、みんなでお風呂入ろう!

 キョウコちゃん。うちのお風呂すごいんだよ…」


 その後、ローズマリー一同と一緒に風呂に入ったキョウコは、ヒロミとサトミに薄い体をペタペタ触られて、恥ずかしそうにしているところを、皆も薄い身体に興味を持たられてペタペタと触られ、カンパニーの雰囲気に解け込んでいった。


「何で、皆さん同じ女子なのに、私の体をそんなに触るのです?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る