第3話 統治機構の職員とハンターの報酬金
モンスター襲撃後、ユイたちのカンパニーは商店街から復興の手伝い依頼を受け、復興の手伝いをしていた。
手伝いをしながら数日経過した頃。
ハンターオフィスから『報酬について』のお知らせが通信端末を通して送られてきた。
やっと来た連絡にユイ達は報酬金がどのくらいになるか、ワクワク心を踊らさながらハンターオフィスに向かった。
ユイ達カンパニー一同はハンターオフィスビル1階受付窓口で受付すると、3階大会議場に案内され、会議場の中には襲撃事件で生き残ったハンター達もいた。
皆、報奨金が貰えると期待していたのにどういう事なのかと、ざわついている。
ハンター達のざわつきをかき消すように、オフィスの職員と統治機構の職員が会議場に入場し、まだ支払われてない報酬の説明に入った。
始めに、ハンターオフィスの出資者である統治機構からの説明をする。
統治機構の職員は瓦礫となった街並みや、壁が破壊され室内の機械までボロボロになった農場プラント、砲弾で抉られた農地などの被害映像を見せながら街の被害状況を説明し、その被害金額が一千億ゼニーを超えることを伝え、また街を再生復興する金額も同額以上だと伝えた。
それから今現在、街の収支がどのくらいあるかも説明した。
ここで一旦、職員が言葉を止め、ハンターたち一人一人の顔を見る。ハンターたちも沈黙しながら職員の話を待ち見ている。
職員がため息のような深い深呼吸をして、次の説明に入った途端、ハンターたちから罵声を浴びせられた。
「てめえら! ふざけんな!」
「金が払えねってどういう事だ!」
「俺達は命かけて戦ったんだぞ!」
現在、街は収穫時期に入っている。
モンスター襲撃被害で街に入って来るはずの多大な収入の目途が無くなり、復興に必要な支出金額が莫大で街の予算がまったく合わない。復興の着工を優先的に進めるためには、足りない予算をどうかして抽出する必要がある。そのため、統治機構の委員会は、優先させたい街の復興と命がけでモンスターを撃退したハンターの報酬金をどうするか、激論を繰り返し、繰り返した結果、ハンターオフィスに送る報酬金の元金である出資を見合わせすることになった。
職員はハンターから怒涛の罵声を浴びせられても毅然と直立し、ハンターたちが静まることを待っている。
微動だに動かない職員の様子を見たハンターたちは、次第に次の話があることを察して静まり返った。
次の説明に入る。
今回のモンスター襲撃事件の被害が莫大で、街の復興に多額の予算が必要になったと重ねて説明する。
モンスター襲撃の戦いの中で多くのハンター達が倒れ、ハンターカンパニーが所有している土地建物の所有者が死亡して居なくなり、所有権不明の土地建物が多く出た。その所有権不明になった土地建物はハンターカンパニーと同数に出たことを話す。
統治機構は所有権不明の土地建物をそのまま放置していると街の安全、治安悪化する恐れがあることから、それらを摂取することにした。摂取する理由は、元々統治機構が土地を管理する立場にあるからだ。
ハンター達は沈黙したまま職員の話を聞く。
職員は統治機構委員会の結論を言う。
摂取した所有権不明の土地建物を正式に空き物件として取り扱い、その空き物件を統治機構が責任を持って清算売却する。その売却金からハンターオフィスに送る報酬金予算を捻出し、確保することになった。
統治機構の職員に続いて、ハンターオフィスの職員からも話をする。
ハンターオフィスの方も、所有者不明になった車両や武器弾薬をそのまま放置することは危険であり、盗まれる事もあるために、所有者不明になった車両、武器弾薬を摂取して売却する。その売却した金を報酬金に充てることになったと説明が入った。
ハンターオフィスも、それらを売ってから報酬に充てることになったので、今すぐには報酬金が払えないという事だった。
生き残ったハンターたちは、あの襲撃事件で多量の弾薬やエネルギーパックを使用しており、在庫まで無くしている者もいる。また武器、強化服、車両まで使えなくなったハンターまでいる。今すぐにでも報酬金が貰えないと、ハンター稼業が続けられないばかりか死活問題でもある。
ハンター達の不満が一気に爆発し、怒涛の罵声を職員達に浴びせた。
「ふざけんな!」
「俺達を殺す気か!」
「おい! 俺は玉付いているが、弾無しでどうやって生活が成り立つってんだ! 玉無の俺、女の子になれって言うのか! どうなんだ!」
「素手でモンスターと戦えって言うのか!」
「おめらの金と弾よこせ!」
統治機構の職員、オフィスの職員が不満を爆発させたハンターが静かになる事を待っている。
ハンター達は、まだ何かあると大声を出し罵声を浴びさせていた声を沈め、職員達を睨め付けた。
ハンター達の睨め付けを臆せず説明に入る。
時間はかかるが報酬金は必ず払うこと。その報酬金を貰うためには二通りの案があると言う事。
一つ目は、今言った通り、少し待ち報酬金を貰うこと。
二つ目、ハンターオフィスでは所有者不明になった武器弾薬、車両を売り出すが、その売り物を報酬金の変わりに報酬額と同額ならどんなものでも譲渡するという事。
この二つ目の案は、現金は無いが物はあるという事だ。
二つ目の案は一見、ハンターが損したような気になるが、ハンター達はハンターレベルで購入できる車両や武器弾薬が決まっている。
例えば、ハンターレベル40の人は、ハンターレベル60以上用の武装は購入できない。また、低レベルのハンターが高レベルのハンター用弾薬を買う時は、割高に設定されているなど、制約があるのだ。
その制約は、未熟なハンターが自分に見合わない高火力の武装を持って、モンスターと戦うのも良いが、モンスターに敗れた場合、その屍と武装をモンスターが吸収してしまい、より強力なモンスターになってしまうからだ。
職員はどんなものでも譲渡すると言った。それはどういうことか。ハンターそれぞれが今現在ハンターレベルの制限で購入できない武器弾薬、車両が手に入ると言う事だ。
武器弾薬、車両は自分が使っているものよりも、高レベルの武器が手に入り、それらは大規模カンパニー、高レベルのハンターが使っていたものだから、実用性は保証できるものばかりだ。もちろん、オフィスの方で責任を持ってメンテナンスをしてからだ。
集まったハンターたちは高レベルから低レベルまでいる。すぐに返事ができなかった。ユイたちもそれは一緒だった。現金か、物か、どちらもハンター稼業には必要な物だ。今の報酬はそのどちらかしかない。すぐには返事が出来なかった。
さらに、統治機構の職員がハンターたちに追加の説明をする。
生き残ったハンターはこのままこの街に所在を置くならば、特別に空き物件になった不動産を格安で譲渡するという待遇処置だった。
なぜこんなことを言ってきたのかというと、生き残ったハンターそれぞれのカンパニーが壊滅していたからだ。
生き残ったハンター同士でカンパニーを併合し新しいカンパニーを結成するのも良いだろうが、それぞれ所属していたカンパニーランクが違い、カンパニー資産も違う。資産関係とハンターレベルでも問題が発生する。今のカンパニー資産を清算し一から新しいカンパニーを作るもの良い。ハンターの中にはハンター同士の相性が悪く、新しいカンパニーを求めて街から出る人もいるだろうと、統治機構は予測判断していた。
統治機構とハンターオフィスとしては、街で活動していたハンターは治安を乱すことなく良心を持っていると判断していた。だが他の都市から移住してきたハンターは良心を持っているかわからない。
その良心を持ち合わせ、モンスター襲撃を凌いだのだから、生き残ったハンターは優良優秀なハンターだと判断しており、そのハンターたちはこれからも生き残り、街の治安、モンスターの討伐、遺跡からの遺物をより良い物を持ち帰り、街の利益も上がるだろうと判断している。少しでも優遇措置を行い街の利益に貢献して欲しかったのだ。
その話を聞いてハンター達はさらに沈黙し職員の最後の説明が終わった。ハンターたちは沈黙したまま返答が出来ず肩を落とし会議室を後にした。
ユイたちも会議室から出ようとしたところに職員から呼び止められ、カンパニーのリーダーであるユイが別室に案内された。
そこは街の重鎮たちが利用する客間で、その客間にいたのは統治機構執行部最高責任者の市長とハンターオフィス長の室長がいた。
「まぁ、座りたまえ…」
市長がユイに着席を促した。
「戦闘記録を見せてもらったよ… 噂通りというか…
ハンターの間では曰くつき… と言われているが…
ランキングでは目立たない。しかし、実績では目立つ…
小規模で特殊な人間の集まり…」
「何が言いたいのです?」
「室長いいかね…」
「はい… この戦闘記録を見たら、こちらでは何も言えません」
「では、単刀直入に言おう…
貴女達カンパニーには、この第八北東農園都市専属のカンパニーになってもらいたい」
「どうしてですか?」
「君が知っている通り、今やこの街のハンターは少ない。他の都市からハンターの移住を募集しているが、移住してきたハンターたちは、この街の事を良く知らない。
街は各都市の中でも、農業収益はトップだが、その他の収益が最下位だ。大きな利益になる遺跡は少なく、また遺物も少額な物が多いため、ここのハンターたちはあまりカンパニー間競争が激しくなく、初心者ハンターの育成も良くしている。そして街のために働き、治安を悪くしないで良くしてくれた。
今、街にはハンターはいるが、カンパニーは君たちのカンパニーしか存在しない。他のハンター達のカンパニーは無いのだ。
優秀な君たちがハンター達を先導し、トップに立ってもらいたいのだ。どうかな…」
「都市専属のカンパニーにはならないです。
私達のカンパニーメンバーは、それぞれがこの街を好きだったり、気に入って今こうしているのです。
だから… そんな縛られるようなことはしたくありません」
「専属になると都市の統治機構から優遇され、街の企業連からも良い条件の依頼も受けられることになるのだが…」
「それでもです。
ハンターは自身の命と引き換えに自由に活動しています。
何かに縛られるようなことはしたくありません」
「そうか…室長」
「はい。報酬の話なのだが良いかね」
「はい。どうぞ」
「君たちカンパニーの討伐数は全体のほとんど占め、その数ざっと二千五百。討伐報酬額は二億五千万になる。さらにその実績から緊急依頼報酬が多額だ。
会議室で聞いてわかっていると思うが、我々には今支払う元資がない。必ず報酬金を支払うが、その前にこれから提示する依頼を受ければ、希望する武器弾薬、車両などハンター稼業に必要な物資を今回の報酬と別にこちらで用意しよう。
それから不動産だ。希望する土地建物も譲渡しよう。どうだね」
「その依頼とは」
「簡単なことだよ。街が復興して再建できるまで、街の治安防衛に協力してもらいたい。もちろん今回のようなことになったら、最前線に出てもらうことになるが…」
「緊急依頼報酬金とその協力金が同額以上になるということですか」
「そうだ」
「わかりました。その依頼、その報酬で受けましょう」
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