第2話 街の被害報告
街の各箇所から響き聞こえていた爆発音や戦闘音が消え、あちらこちらに黒い煙が立ち昇っている。やっと大群のサイクロプスとミノタウロスをすべて討ち倒し、長い戦いが終わったのだ。
街全体が戦闘後の静まりかえった妙な雰囲気に包まれている。
「室長、やっと他の都市から応援の防衛隊とハンター達が来ましたよ」
大型モンスターに襲撃されたこの街の名は第八北東農園都市と言うのが正式名称だ。都市といっても都市らしい規模は無い。街に近い規模から住民やハンターの皆は第八北東農園都市を街と呼んでいる。
街の規模からもハンターの数は他の都市よりも断然に少なく、ハンターオフィスの規模も小さかった。そのため街のハンターオフィスは、他の都市のハンターオフィスにその都市にいるハンターに緊急依頼をしてもらっていた。
街の統治機構もハンターオフィスと同じ条件なので、他の都市の統治機構に応援を頼んで防衛隊を呼んでいたのだ。
「ああ…今頃やって来られてもな。街がボロボロだ…」
第八北東農園都市から一番近い都市まで移動に要する時間は、通常なら半日はかかる道のりだが、応援に来た防衛隊やハンター達は想定した時間よりも速い時間で到着した。
ハンターオフィスの室長の予想では、応援が来る頃には街が夜闇に包まれ、街全体が半壊滅し、今いる街中央部が主戦場になっているだろうと思っていたのだが、結果は予想よりも少し早い時間で戦闘が終わり、街も西側は無傷な地区が多かった。
「ハンターオフィスの職員は全員無事か?」
「はい。全員無事って言えば、無事ですけど… 高性能な兵器がボロボロですぜ」
「それなら良い。兵器はまた統治機構や企業連に金をせびって揃え直せば良い。しかし、人だ。人は補充することはできない。オフィスの仕事ではないが、住民の安全を確認しろ!
それから無事なハンターを中央ビルに集合させ、生存確認しろ!
怪我をしているハンターがいるならば、運搬して治療に当たれ!
応援に来たハンターに、残存のモンスターがいないか確認させろ!
街の安全を最優先させろ!」
応援に来た防衛隊やハンターたちは各組織の指示に従い、各所持ち場に就き、街の安全確保をした。
モンスターとの闘いを終えたハンターたちは、街中央にあるハンターオフィスビルに集まっていた。集まって見たものの生き残ったハンターは少なく、朝には約3000人いたのが、今ではほんの僅かしか生き残っていなかった。
収穫祭の前夜祭である昨夜から今日の朝まで、酒を飲み交わし騒ぎ立て酔っぱらっていたため、まともに戦闘が出来ずモンスターに倒され命が亡くなったからだ。
ユイとハルカも中央ビルに集まり、ハンターの人数が少なく驚きながら周りの様子を覗っていると、カンパニーの拠点で戦っていたメンバー四人も、ゆっくり周りの様子を見ながらやって来た。
ヒロミとサトミがユイとハルカに気付き、手を振りながらパタパタと走ってくる様子が見えた。
「ユイちゃん~! ハルカちゃん~! 無事で良かったよ」
「私達もがんばったよ~」
「あはは… ヒロミもサトミも頑張ったと言うより、自棄になっていたのではないか。モンスターの一撃の被害より、あの爆炎術式の方がヤバかったぞ」
「うむ。あれは私の大型レザー砲より威力があった。いつの間に出来るようになったんだ」
「すごかったでしょう。二人で密かに合体術式を創り上げていたんだ」
「チサトとコウの話からすると、ヒロミサトミもしっかり大活躍したんだね」
「うん! すご~く、すごーく、頑張った」
ユイは背が低い双子を抱きしめて上げ、褒めて上げた。
「みんな、無事に終わったからって遊んでない!
きちんと戦闘記録をハンターオフィスに提出しないと、報酬貰えないわよ」
ハンターオフィスの職員は戦闘後でも慌ただしく動いていた。平時ならハンターカンパニー及びハンター個人と統治機構や企業連の仲介役に徹し、街の運営に手出しをしないのだが、住民や街の安全確認、被害状況を確認しながら、怪我をしたハンターを運搬、治療もしていた。
オフィスはハンターの身元確認も仕事だ。生き残ったハンターの所属カンパニーの確認しながら、戦闘記録も回収している。
ユイたちもハンターオフィス職員に戦闘記録を提出したが、すぐには報酬金が貰えなかった。
それは、街の被害が大きく、ハンターオフィスビルにも被害があり、個々の討伐数もハンターオフィスの予想より大幅に多かったので確認に時間がかかってしまうためだ。そのため報酬は後日と言う事になった。
報酬金はもらえなかったが、戦闘記録を提出したことで一連の仕事が終わり、ほっと一安心するとユイのお腹が鳴った。
「お腹空いちゃった」
大群のモンスターを前に日替わり糧食弁当を食べている余裕は無く、朝から今まで必死に戦闘をしていたので何も食べていなかったのだ。それは皆も同じで、皆で食べることにした。
カンパニー一同は破損しているハンターオフィスビルで、冷めきった日替わり糧食弁当を美味しく食べながら、戦闘中の話を自慢するようにワイワイと声をはずみながら話をしていた。
それぞれが戦闘中の自慢話をしていると、統治機構からハンターオフィス経由で、生き残ったハンター達にも街の被害状況を報告させる被害報告依頼が跳び込んできた。
ユイたちカンパニーはその依頼を受けた。
この街は第八北東農園都市と都市の名前に農園と入っているのだから、農業中心の街で住民もほとんどが農業に従士をしている。
街の中心には統治機構、ハンターオフィスなど重要なビルが建っており、その周辺には商店、飲食店などの商店街もあるが、街のほとんどは農地、農場プラント、農作物加工工場で占めていて、今回のモンスター襲撃で各地区に大きな被害が出た。
街の収入は農作物や食品加工の輸出で成り立っているから、統治機構は一早くその被害を知るために、ハンターにも被害報告依頼を出したのだ。
ユイたちカンパニーは被害報告依頼をハンター個人ではなくカンパニーの依頼として受け、街中心部からモンスターが襲ってきた東方面へ足を運んだ。
中央通り、ユイとハルカが戦闘していた商店街を通りかかった。
戦闘の激しさがわかるくらいまでに硬い建材で作られた外壁が崩れ崩壊している。そればかりか、朝まで綺麗だった街並みを飾る花壇や街路樹も倒れ、騒がしかった商店街も半壊全壊し瓦礫化している。見るのも全てが様変わりしていて元の原型を留めていなかった。
「ねぇ、街の被害も酷いけど、サイクロプスのこん棒って加工しやすい金属で出来ていて、それなりの値で売れるのだけど…
ハンターオフィスの方では、何も言ってなかったわよね」
そこには多量の斬り刻まれたサイクロプスとミノタウロスも転がっている。
ハルカとユイが戦った戦場なので、瓦礫化して様変わりした商店街はすでに見慣れた風景なのだろう。ハルカは街の被害よりモンスターのジャンク品の方が気になるようだ。
「そう言えば… ジャンク品については、何も言ってなかったな」
カンパニー一同は今さっきまで戦っていたのだから、多量にあるモンスターの屍には動じない。それよりも皆はハルカの言葉が気になった。
「それじゃ… いっぱい転がっているこん棒をいただきましょう。
それを加工して新しい武器を作るのも良いわね」
ハルカは被害報告よりもジャンク品を収集したいみたいだ。
「わーい。やったー! ハルカちゃん私たちの武装も作ってね!
私達トラック持ってくるから、ちょっと待っていてね」
そう言うとヒロミとサトミは嬉しそうに笑みを零しながら、地面に爆炎術式を叩きつけて飛んで行った。突然ヒロミとサトミが飛んで行った事で、暗黙の了解で一旦ジャンク品を収集することになった。
残ったメンバーは被害状況を記録装置で記録撮影しながら、こん棒を集め荷造りし、ヒロミとサトミの帰りを待つ。しばらくすると、二人がハルカのトラックを運転して戻って来た。
早速、皆は記録撮影を止め、こん棒を集め荷造りした物をトラックの荷台に詰め込んで行った。荷台はまだ余裕がある。
こん棒はゴロゴロ転がっているので集めやすく、すぐ集まり貯まる。貯まったこん棒を縄で縛り荷造りしてから、トラックに詰め込んでいく。それを繰り返しているうちに荷台がこん棒でいっぱいになった。
「よーし。報酬も期待できるけど、こん棒を売っても期待ができて、加工して売っても期待できて、とても儲かりそうで嬉しいわ!」
「ハルカ、加工して売るなら、私たちにも新しい武器を頼む。買うより安いだろ」
「まぁそうね~ …今回、みんな武器を過剰に使っちゃったからメンテナンスを含めて、新しくみんなの武器を造ってもジャンク品素材は余るわね」
「じゃ、こん棒拾いはここまで!
被害報告依頼を受けたんだから、こっちもしっかり被害状況を報告しないと報酬貰えなくなるよ」
ジャンク品のこん棒拾いを止め、再び中央通りの被害を記録装置で撮影して行く。
見た感じ商店街の被害は大きいが、被害状況を良く撮影をしていると、被害を免れ建物の壁だけが破損している箇所もあり、補修をすればまた使える建物も多かった。
それよりも被害は道路の方が大きかった。
商店街の記録撮影が終わり、ジャンク品を詰め込んだトラックに皆が乗り、街の外側に向かう。
中央通りから少し走り中間部になると、だんだん被害状況が悪くなっていった。
街全体が緑に囲まれて綺麗な街並みだったのが消え去り、街の綺麗な雰囲気を模っていた建物が半壊倒壊し、瓦礫の山を作り廃墟化している。
瓦礫の山に住民が使っていたと思われる家具が散乱し混じってもいる。べっこり凹んだ車も散乱しており、道路も砲弾の爆圧で捲り上がっている。さらに、まだ回収されていないハンターたちの哀れな姿も転がっていた。それらも記録装置の記録しながら、トラックを進めて行く。
街の外周部付近まで進むと、大きな農場プラントや収穫間近の黄金色に輝いていた畑、農作物加工工場までが完全に崩れ落ち破壊され、ハンターの戦闘車や戦車が大破炎上して黒い煙が発っている。四肢が無いハンターの姿も増え、あちらこちらに転がっている。地獄絵図のような悪夢を見ている感じになっていった。
その惨状は、他の都市から応援にやってきたハンターたちにも酷いありまさに目を背けていた。
余りにも酷い被害状況を記録して、またハンターオフィスに戻り被害を記録したデータを提出した。この依頼報酬金も緊急依頼報酬金と合わせて後日になった。
この日の事象は全都市で報道され、都市統治機構ではモンスター都市襲撃事件として扱われるようになった。また損大な被害、劇的に減ったハンター、街の収入、防衛、遺物支出など様々な要因が絡み、統治機構、ハンターオフィスは各自の事情で街へ移住する住民、職人、ハンターを募集した。
応援に来ていたハンターたちカンパニーたちの、ほんの一部が街に残る事になった。
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