第113話

 芳樹&加志子エンド



「ただいまー」

「おかえりっす!」


 家に帰ると、最愛の彼女がぎゅっと勢いよくきついてきた。

 芳樹も加志子の華奢な身体を力強く抱きしめ返す。

 しばらく玄関でお互いの愛情を確かめ合い、背中に回していた手を離して、至近距離で見つめ合う。


「えへへっ」


 ちゅ。


 恥じらいつつも、軽く芳樹の唇へキスをして、幸せそうに加志子が笑顔を浮かべる。

 この幸せな日常が今の芳樹には最大の癒しとなっていた。



 常駐ではないけれど、芳樹は今も女子寮の管理人の仕事を続けていた。

 毎朝早朝に今住んでいる家を出て、住人達の朝食を用意して、寮内の掃除を行い、夕食を作り終えたら加志子の待つに帰宅。

 そんな幸せな日々を、芳樹は過ごしていた。


 一方のかっしーこと加志子は、無事に大学を卒業してエンジニアの会社へと就職。

 その後独立して、現在は在宅のフリーデザイナーとして働いている。

 加志子と付き合うことになり、彼女が以前から要望していた通り、加志子が大学を卒業した後、二人で同棲するという道を選んだ。

 しかし、芳樹が管理人を天職だと思っていることを、加志子は理解してくれていた。

 おかげで、芳樹は女子寮小美玉の管理人として、今も仕事を続けることが出来ている。


「今日もお疲れ様っす。ご飯にするっすか? それとも風呂っすか?」

「お腹がいてるから、ご飯にしようかな」

「おっけいっす! すぐに用意するから、座って待っててください」


 そう言って、加志子はキッチンへと向かっていく。

 加志子は在宅での仕事なので、毎日芳樹のために丹精たんせい込めた手料理を振る舞ってくれる。

 付き合い始めてから大学を卒業するまでの一年間、加志子は家事や洗濯など、芳樹が女子寮で行っている仕事を手伝うことで、家事スキルを磨き上げてきた。

 結果、家事も出来る完璧な彼女として、仕事から帰ってきた芳樹を家では甘やかしてくれる。


 今日の献立は焼き餃子に麻婆豆腐。

 中華の定番メニューが食卓に並べられる。


「うわぁ、上手そう」

「どうぞ、召し上がれ」

「いただきます」


 手を合わせてから、芳樹は箸を持ち、メインの餃子を掴む。

 タレを軽くつけてから、大きな口を開けて、一口で頬張る。

 餃子のタネの肉汁が溢れ出し、口の中に香ばしい香りが充満していく。

 噛めば噛むほど味が染みこんでいき、焼き面はサクサクカリカリでとても食べごたえがある。


「うん……美味い」

「ふぅ……上手く作れてよかったっす」


 安堵あんどの息を吐く加志子。


「まあ、加志子の作る料理なら、どんなものでも美味しいけどね」

「そんなことないっすよ。この前だって、魚焦がしちゃって大変だったんすから」

「あははっ……でも、俺のために一生懸命作ってくれたんだから、嬉しい気持ちにもなるし、たとえどんな料理が出てきたとしても、俺はおいしく食べるよ」

「も、もう……バカ」


 そう言いつつも、嬉しそうに口元を緩ませる加志子。


「それにまあ、最近はみんな忙しいから、女子寮で作ってても作り甲斐がないからね」

「あぁ……やっぱり皆さん仕事が忙しい感じっすか?」

「まあそんな感じ。霜乃さんは相変わらず居座ってるけどね」

「流石っすね」


 そんな他愛のない会話をしつつ、食事を進めていく。

 女子寮の住人達も、環境が大きく変化した。

 一葉さんは管理職になってしまい、毎日帰りが遅く、夜はほとんど見かけない。

 梢恵も部長へと昇進したようで、最近は忙しそうに働いている。

 私生活ではあのていたらくっぷりなのに、仕事となると意外としっかり者らしい。

 霜乃さんはコスプレのブログが話題となり、今はコスプレイヤー兼配信者として生計を立てている。

 つくしちゃんも大学で専攻している学科とアルバイトの両立で、毎日帰りが遅い。

 以前と変わってしまった女子寮のにぎやかさを少し寂しく思っていると、それが顔に出ていたのか、加志子が眉間にしわを寄せて、ジトっとした視線を向けてくる。


「今、ちょっと寂しいなとか考えてたっすね?」

「……なんでわかったの?」

「顔に出てたっす」


 不満げに唇を尖らせる加志子。

 けれど、すぐさまふっと破顔はがんして、優しく微笑んだ。


「まっ、その寂しさも、全部うちが受け止めてあげるっすよ。だからよっぴーは、安心して家に帰ってきてくださいね」

「ありがとう」


 芳樹は自然と手が伸びて、加志子の頭をでる。


「へへっ……よっぴー、大好きっす」


 頭を撫でられて、じゃれる猫のように身をかがめて、満足そうな微笑みを浮かべる加志子。


「よっぴー、今幸せっすか?」

「もちろんだよ」

「うちのこと。好きっすか?」

「当たり前だろ」

「なら……」


 モジモジと身体を揺らしつつ、加志子は上目遣うわめづかいで芳樹を見上げてくる。


「ご飯食べ終わったら、一緒にお風呂入るっすよ」


 そんなことを可愛らしくおねだりしてくる加志子がいとおしすぎて、芳樹はさらに頭を強くガシガシと撫でてしまう。


「はいはい、ったく加志子は心配性なんだから」

「べっ、別に心配はしてないっすよ? ただ、うちのことで頭いっぱいになって欲しいから……」


 加志子は未だに、女子寮の住人の誰かに、芳樹が取られないか不安なのだ。

 芳樹は加志子を安心させるため、優しく微笑みかける。


「大丈夫だよ。加志子のことしか考えられないし、なんなら女子寮で仕事中も、四六時中しろくじちゅう加志子のことばかり考えてるから」

「ほ、ほんとっすか?」

「もちろん。その証拠に、毎日どこにも寄り道しないですぐに帰ってきてるでしょ?」

「うん……えへへっ」


 安心したのか、頬を緩ませて幸せそうに微笑む加志子。

 全く、どうしてこんなに可愛い彼女を見捨てようというのか。


「これからも、ずっと一緒だよ」


 芳樹と加志子はこうして、毎日幸せオーラ全開のラブラブ甘々カップルの会話を繰り返しながら、毎日幸せな時を築き上げていくのであった。

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