第108話 新しい住人

 季節はあっという間に過ぎて、四月を迎えた。

 新学期は出会いと別れの季節。

 女子寮小美玉にも、新しい仲間が加わった。


「今日からよろしくお願いします、芳樹さん!」

「うん、こちらこそよろしくね、つくしちゃん」


 既に引っ越し業者による荷物の搬入を終えて、部屋のレイアウトも芳樹が手伝ったおかげでほとんど片付いたところだった。

 そんな中、じろじろと廊下から怪しい人影が……。


「あの……そこで覗いているなら手伝って欲しいんですけど」


 芳樹が入り口で覗き込んでいる相手に声を掛けると、彼女はピクっと身体を震わせて姿を現した。


「い、いやぁーまだ日が浅い人に手伝ってもらうのはつくしちゃんも気が引けるかなと」


 かっしーは頭をガシガシと掻きながら、苦い表情を浮かべる。


「加志子さん、これから色々とお世話になると思いますけれど、どうかよろしくお願いします」

「い、いいってそんなにかしこまらなくて。分からないことがあったら何でも聞いてもらって構わないから」

「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」

「あははっ……そ、それじゃあうちは部屋に戻るよ」

「はい」


 うーん、何だろう、このぎこちない感じは……。

 かっしーなら、初対面の人でももっとこうズカズカとプライベートスペースに入り込んでいくイメージがあったんだけどな。

 梢恵が引っ越してきた時もそうだったし。

 芳樹が首を捻っていると、入口へ別の顔が現れる。


「あらー随分と早く片付いたのね」


 霜野さんは部屋の中を覗くなり、驚いた様子で声を上げる。


「まあ、元々の荷物が少なかったこともありますけどね。梢恵の時が異常だっただけです」

「なら、芳樹さんと一緒に歓迎会の買い出しに行けそうね」

「はい」


 すると、つくしちゃんは謙遜した様子で手を振る。


「わ、私の歓迎会なんていいですって」


 それに対して、霜乃さんがつくしちゃんへ向き直る。


「何言ってるの。これから一緒に暮らす仲間として、歓迎するのは当然のことよ」

「あ、ありがとうございます……」


 恥ずかしそうに頬を染めながら、ぺこりとお辞儀をするつくしちゃん。


「まあでも……」


 すると、霜乃さんは部屋の中に入ってきたかと思うと、唐突にぎゅっと芳樹の腕に巻き付いた。


「ここに来たからには、あなただけには負けないとも言っておくわ」


 そう言って、早々の宣戦布告をする霜乃さん。

 対してつくしちゃんも、何故か霜乃さんが掴んでいる反対側の腕を掴んだ。


「望むところです」


 互いににらみ合い、バチバチと繰り広げられる火花。

 そんな両手に華の状態になりつつ、女子寮小美玉の管理人生活は、また一段と賑やかになった。

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