第85話 幸せの在り方

 3/23日付

 当作品、『ブラック企業から女子寮の管理人に転職したら、住居人が全員美人だった。しかも気づいたら俺への好感度が上がっているのだが!?』


 カクヨムコン6中間選考通りました!

 読者の皆様に応援して頂いたおかげです!

 ありがとうございます!

 なんやかんや、こういったコンテストで選考通ったのが初めてだったので、本当にドキドキでした。

 これからも、随時更新していきますので、読者の皆様に楽しい作品を届けていければと思います。

 拙い作品ではありますが、今後も楽しんでいただけると幸いです

                                  さばりん

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下記、本編。




 霜乃さんからアドバイスを貰った芳樹は、その日の夜、かっしーの部屋へと足を運んだ。

 コンコンっとドアをノックすると、少しがあった後に部屋の中からスタスタと足音が聞こえてくる。


「はいはい……! って、なんだよっぴーか」


 扉を開けたかっしーは、芳樹の姿を見ると、いつもと変わらぬ明るい笑顔を向けてきてくれた。


「忙しい時にごめんねかっしー。ちょっと話したいことがあるんだけど、今時間あったりするかな?」

「いいっすよ」


 快く承諾してくれたかっしーを連れて、芳樹が向かったのは管理人室かんりにんしつ

 ガチャリと扉を閉めると、かっしーはあまり立ち入らない管理人室をまじまじと眺める。


「なんか、この管理人室も生活感が溢れてきましたね」

「そうかな? 自分ではあまり気づかないけど……」

「よっぴーの匂いがするっす」


 そう言って、かっしーはクンクンと部屋の匂いを嗅ぎだす。


「こらこら、匂いを嗅がない」

「へへっ」


 ペロっと可愛らしく舌を出して誤魔化すかっしー。

 まあ、好意を寄せている人の部屋だし、そりゃ気になっちゃうのは仕方ないけどさ。


「いいから、こっちにきて」

「うぃーっす」


 かっしーに手招きをして、管理人室にあるデスクトップPCの前へと誘導する。

 芳樹はデスクトップPC前の椅子に座り、画面に映るページを指差ゆびさした。


「これ、とりあえずかっしーが好きそうなジャンルから選んだ新卒求人。もし希望に合わないようだったら、希望条件とか教えてくれ。もっと絞り込むから」

「……」


 かっしーは鳩が豆鉄砲を食ったように、きょとんと口を開けてほうけている。


「ん、どうしたのかっしー?」

「いやっ……その……別にもう。うちのこと振ったんすから、手伝ってもらわなくても……」


 バツが悪そうな顔を浮かべて、頭をガシガシと掻くかっしー。

 やっぱり、霜乃さんの言った通りだ。


「意地悪なことを言うかもしれないけど、俺はただ、かっしーと一緒に同棲することは出来ないだけであって、かっしーが幸せになって欲しくないとは思ってないんだ」

「えっ、どういうことっすか?」


 言葉の意味が理解できないのか。

 かっしーは首を傾げる。

 芳樹は気にすることなく言葉を続けた。


「つまり、かっしーにとっての幸せは、恋愛だけじゃないってことだよ。かっしーには就職して社会人になっても楽しく仕事をして欲しいし、自由に自分の好きなことをやって欲しいんだよ。それにまあ、俺も『今は満足してる』ってだけで、いずれは一人で暮らしたいって思うかもしれないから、まだ本気でかっしーのことを嫌いになったってわけじゃなくて……その、なんというか……」


 結論をまとめるのに困っていると、かっしーがふいにくすくすと笑って肩を震わせる。


「か、かっしー?」

「もう、よっぴー面白すぎ。どんだけお人好しすぎるんすか」

「まあ、管理人として……。いやっ、違う。俺はただ、かっしーには人生を楽しんで欲しいんだよ。俺みたいな二の舞を演じないようにさ」


 幸せは恋愛だけじゃない。

 仕事や自分の生き方。

 人生の色んなものに存在している。

 だから、芳樹がかっしーの幸せに暮らすための手伝いは、他にもできるはずなのだ。


「はぁ……そういうの、なんていうか知ってるっすか?」


 芳樹はわざとらしく手を拡げて、肩をすくめてみせる。


「『』って言うんすよ」

「まあ、俺が小美玉ここの管理人である以上は、過度なおせっかいを焼かれると思ってくれ」

「はぁ……全くよっぴーは本当に仕方ない管理人さんっすね! だから、罪深いんすよ?」


 そう言って、芳樹のひたいにデコピンを一発入れる。


「いってぇ……」


 芳樹はかっしーに食らったひたいを手で押さえる。

 それを見て、くすくすとおかしそうに笑うかっしー。


「ったく、仕方ないなぁー。うちもここの住人として、よっぴーのお世話になることにしますか」

「随分と上から目線だな」

「当たり前じゃないっすか! うちの心を傷つけた代償はでかいんすからね!? だから、きっちりと責任はとってもらうんすよ!」


 頬を赤く染めながら、ビシっと芳樹を指さすかっしー。


「ということで早速。今日はよっぴーに夜通し企業選びを手伝ってもらうっす!」


 そう言って、デスク前のPCに座っていた芳樹の首に腕をまわして、後ろから抱きついてくるかっしー。


「はいよっ……」

「今夜は寝かせないぞ♡」

「それ、意味が違うからね?」

「まあいいじゃないすか。雰囲気だけでも、ね♪」


 まあ、かっしーがそれで満足してくれるのなら、芳樹も付き合ってあげることにしよう。

 かっしーは本当に納得してくれたのかは分からない。

 けれど、芳樹が今できることは、かっしーに芳樹と二人だけで暮らす未来以外の幸せを手にするための手伝いをすることだけだ。

 だから、これからも女子寮の管理人として、かっしーの就職活動を全力でサポートしていくことを決めたのである。

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