第6話戦闘そして…
僕とヒイラギは先に降り、彼らを見送った。もしかしたら、帰りの軍用車に乗れない人がいるかもしれない。もちろん僕だって例外ではない。
僕たちは歩いて指示された狙撃ポイントへと向かった。
作戦が展開されるのは山に囲まれた小さな町である。今回の僕の任務は前回同様、突撃部隊の後方支援および敵スナイパーの排除だ。前回と違うのは敵のスナイパーに死神がいるということ。彼を止めなければこちらの被害はかなりのものとなってしまう。最悪、全滅も考えられる。エンジェルと死神の一騎打ちの結果で全てが決まると言っても過言ではない。じゃがいも男はそんなことは決して言わなかったが顔にはそう書いてあった。
狙撃ポイントへと着き、辺りを見渡した。
「この辺りだと、どの辺がいいと思う?」
僕はここが適しているという場所を見つけたがヒイラギを試す意味でも僕は聞いた。
「そうですね。あの辺りが最適かと思われます」
右腕を上げてある場所を指した。
そこは比較的斜面が緩やかに下っている細い木の下だった。僕が考えたところと同じ位置だった。近くに三本ほどこれより大きい木が立った場所があった。いつもならその辺りにするのだが今回は凄腕スナイパーが敵なので裏をかく意味でもそちらにはしなかった。しかし、最大の理由は細い木の下が一番、積雪が少なかったためだ。スナイパーの基本的な姿勢はうつ伏せである。うつ伏せになると胸部から下腹部にかけてどうしても熱がこもってしまう、全身を人工筋肉で覆った強化外骨格を装着しているのであればなおさらだ。つまり積雪が多ければ多いほど時間が経つにつれその辺りの雪は溶けてしまう。多少のズレでも対象との距離と比例してスナイピングがズレてしまう。その為、僕は積雪が少ない場所を選んだ。
僕はそこに寝そべり、強化外骨格をスナイピングモードにした。そうすることで同じ体勢でいることの疲労度は格段に下がる。僕の左後ろにヒイラギも寝そべった。ヒイラギは工学迷彩を使い、周りに溶け込んいる。
「あと三十秒で任務開始時刻です」
ヒイラギは指向性ボイスで言った。
僕は軽く頷いて、近くの雪を掴み口の中に入れた。こうすることで吐息をカモフラージュした。
銃声が鳴り始めた。ヒイラギとの事前の打ち合わせ通り、僕はスナイパー探しをヒイラギはサイガらの動向の監視をした。今回ばかりはヒイラギの力が必要だ。そして、ヒイラギの存在が僕のアドバンテージになるだろう。
どこだ?どこにいる?
距離計で雪景色をひたすら眺める。砂漠の中で一粒のダイヤを探している感覚だ。死神までの距離も死神の格好もわからない。
だとしたら、推理するしかない。
死神はこの作戦に僕が参加していることを知っているのだろうか…。
おそらく知っているはずだ。
だからこそ、彼もやってきたのだ。
死神と僕は同等の実力。
つまり相手は僕なんだ。
僕と僕の一騎打ち。
僕が僕を殺すならギリギリまで息を潜め、一発で仕留める。
「作戦展開地域で我々の部隊がスナイパーによる被害を受けている模様」
ヒイラギが伝えた。
僕は体勢を変えずに左手でサインを出す。
「角度から算出した距離ですとおそらく500メートル。ここからですと1500メートルです」
僕はスコープの射角を合わせ、ヒイラギが伝えた辺りをスコープ越しに見る。
確かにそこにスナイパーはいたが、そいつは死神ではない。僕の直感がそう囁いた。
僕はスコープから敵を覗くとき、そいつのある程度のレベルがわかるのだが、あいつからは大した実力があるようには感じられなかった。
どうする?
こいつを撃ち殺してしまうか?
しかし、撃ってしまえば死神にこちらの居場所のヒントを与えることになってしまう。
どうする?
どうすればいい…。
「タカナシの脚に被弾。動けない模様。さきほどのスナイパーによるものです。サイガが助けにいきました」
仕方がない。
見殺しにはできない。
スコープで敵スナイパーを捉える。
息を止め、引き金に手をかける。
大きな銃声が轟いた。
そして2秒後に敵スナイパーに着弾した。
スコープで敵スナイパーが絶命したのを確認できたのち、細い木に身を隠した。
数十秒、身を隠す。
再び死神を探す。
どこだ?どこにいる?
その瞬間、背筋に悪寒が走る。
それと同時に強めの風が吹き、微かに銃声が聞こえた。
銃弾が僕の鼻をかすめ、先ほどまで身を隠していた隣の細い木を貫通した。
「ヒイラギ!死神の距離はおよそここから2000メートル先だ。今からスコープで捉える。スコープの映像と同期しろ!」
僕は立ち上がり、叫んだ。
僕のスコープは死神を捉えた。
右上に赤い点が浮かび上がる。
僕はそこを中心にした。
「コリオリ、温度、そして、その他もろもろ織り込み済みです!」
「了解」
死神…。
きっとお前の方が引き金を引くのは早いだろう。
だけど、ここまでは2000メートル以上ある。
僕の諦めで得たこの4秒。
それだけあれば十分さ。
一緒に神様の顔を拝もうじゃないか。
「ヒイラギ。いろいろありがとう」
僕は死神の元へ使徒を遣わした。
そして、大きな衝撃が僕を襲った。
僕に付着していた雪は赤く染まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます