第3話ヒイラギとは…?

 ヒイラギが僕の強化外骨格のデータを軍に送信した後、部隊との合流地点を目指して再び歩き出した。衛星からの情報で周囲に敵はいないとのことだったので足跡の偽装はしなかった。

 僕たち兵士は従来の軍服の上に全身を人工筋肉で覆われた強化外骨格と呼ばれるものを装備している。銃弾からのプロテクト、歩行による疲労の軽減を主な目的としている。五年ほど前までは服をたくさん着込んだような外見になっていたが現在ではかなりスタイリッシュになっている。

 ヒイラギの身長は僕より少し低い。ヒイラギは僕たちと似ている装備をしているが僕たちとは明らかに違う。根本的にヒイラギは人間ではないと思う。動きが少しぎこちなく、ライダーのようにフルフェイスで顔が見えない、その割には声は鮮明に聞こえる。

 僕はスタンドアローンの新兵器のロボットだと考えているのだがどうなのだろう?

 それからしばらく歩くと僕たちの軍用車が見えてきた。ドライバーは僕と目が合うと嬉しそうに手を振った。

 軍用車には僕たち二人以外にドライバーを含め三人いた。しかし、僕たちの部隊は六人で編成されていたはず。つまりはそういうことなのだろう。僕はそのことについて彼らに何も言わなかったし、何も言えなかった。

 ベースキャンプに到着すると五人全員で戦果報告を行った。

 部隊長が上官に今回の戦果を告げると上官は一瞬だけ顔を歪ませた後、すぐに口角を取り繕い、見込みより被害が少なくて良かったと口にした。その後、上官はいつものようにこの戦線の重要性を長々と語った。


「何回説明する気なんだろうな、あのじゃがいも男は」

 ベンチに座っている僕の隣で立っている男が言った。ウチの部隊長だ。上はグレーのタンクトップを着て下は迷彩のズボンを履いた男はそう言いながら両手に持っていた缶ビールを一つ僕に手渡した。ここでは皆、大抵彼のようなファッションをしている。もちろん僕も例外ではない。

「ん?何の?」

 僕は缶ビールを受け取りながら言った。

「そりゃあ、ここの戦線が押したり押されたりしているっていう話だよ」

「あぁ、そのことね」僕はビールを喉へと流し込んだ。「別に今始まったことではないだろ」

「まぁ、そうだけどな…。しっかしなぁ…、この戦線は一年間も今の状況が続いているんだぞ。まったく嫌になっちゃうよな」

「このお陰で僕たちは家でコードを書いているような奴らとは比べものにならないほどの金をもらっているんじゃないか」

「まぁ、そうだけどな。そういえばお前の相棒はどこ行ったんだ?」

「さぁ?戦場では大事な相棒だけど、ベースキャンブでは別に相棒ではないからね」

「お前って冷たいのな。というか気にならね?普通。相棒が休みのとき何をしているかって」

「うーん、そういうもんなのかなぁ。でも、ここの娯楽室にいないということは、部屋で本を読んでいるか、ネットでチェスでもしているか、あるいは…」

「あるいは?」

「女と寝ているか」

「お前、意地悪だな」

「最初に言いだしたのはお前だろ?」

「悪かったよ」男は笑った。「で、どうなの?あいつとは上手くやれそう?」

「うん、問題ないよ。ていうか、そもそも僕一人で十分なんだけどなぁ。別にスポッターなんて僕には必要がないんだよ。でも、本人は自分のことを最新型だって言ってたし、確かにそうだと思った。役には立つかな」

「ふーん、まぁ、どうせ人工知能だからな」男は自分の缶ビールをゴミ箱に捨て「ビリヤードでもしないか?」

「うん、いいよ」僕は残っていたビールを一気に飲み干し、立ち上がった。

 その後、男とはビリヤードをしながら明後日から始まる一週間の休暇について話をした。男はすでに結婚しており、国に帰ったら妻と子供とバーベキューがしたいと言っていた。僕は自分が飼っている犬と散歩したいと言った。ビリヤードをし終えるとそれぞれ部屋に戻った。そこでようやく、男の名前はサイガだと思い出せた。

 最近、何かを思い出そうとすると昔より時間がかかっているような気がする。思い出そうとすれば大抵何でも思い出せるから、アルツハイマーとかではないとは思う。ただ、少し自分の脳の中の引き出しが多くなっているような気がする。

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