第2話神様とは…
「ナイスショットでした」
僕の後ろを歩くソレは言った。
「ありがとう」
僕は振り向くことなく足を進めた。
「あの、聞いてもいいですか?」
「えっ、あ、うん。別に構いはしなけど、少し驚いたな。ヒイラギは質問が出来るのか…。でも僕は知っていることしか答えられないからね」
僕は歩くペースを変えずに言った。
「では、どうして先ほど『これが神の思し召しか…』と仰ったのでしょう?それは周りからエンジェルと言われていることに関係がありますか?」
「あぁ、『神が人間を裁く』って言う人がいるでしょ?だから、人を撃ち殺そうとしている僕を止めてみろ。止めないのであればそれが神の意志だって、挑発しているわけだよ。僕が周りからエンジェルと呼ばれている理由は知らない、勝手に誰かが言い出したんだと思っている」
「なるほど、なぜそう呼ばれているのか本人ですらわからないのですか…。でも、神という存在を信じておられていることは意外です」
「さぁ?本当のところはどうなんだろうね。もしかしたら、ただの罪悪感の逃げ場として使っているのかも」
「神という概念は随分と便利なのですね」
ヒイラギが笑っているように思えた。
「人間なら基本的にそうなんじゃない?嬉しいときには感謝し、悲しいときには助けを乞い、どうしようもないときには縋る。神様っていうのは万能だ」
万能だから神様なのか…。
そう思うとなんだか可笑しい気がして口角が上がった。自分の機嫌が良くなっていることに気付く。これもまたヒイラギの仕事の内の一つなのだろうか。
後ろの方からアラームが鳴り、僕は左腕のデバイスをちらりと確認する。定時点検の時刻だった。後ろにいるヒイラギはアラームを止め、僕を一度追い越し、振り返った。
「念のため、あそこで行いましょう」
僕の十倍は生きているであろう大木を指差した。
僕はそれに同意しヒイラギが先頭のまま、そこへ向かった。
ヒイラギは僕の全身を凝視した。
ヒイラギにとっては大事な仕事を真剣にこなしているだけだが、僕にはとてつもなく不愉快に感じる。スーパーで野菜を持ち上げて品定めする主婦のような下品さを感じた。
「問題なしです。すべての箇所が任務前とほぼ同じ数値です」
「そりゃそうだよ。ただ、寝そべって、人差し指を動かしただけだもん」僕は顎を引き、自分の強化外骨格をちらりと見た。
「しかし、こういった雪が積もっている山岳地帯では通常の戦場より人工筋肉が消耗しやすい傾向がありますのでこまめにチェックすることは怠れません」
「仕事熱心なスポッターで嬉しいよ」と笑顔でヒイラギに言うと軽く受け流された。もしかしたら、僕が嫌味を言っていると思われたのかもしれない。
だとしたら、心外だ。
僕は本気で言っている。
神様にだって誓えるさ。
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