エンジェルは死なない
@show_key
第1話僕が引き金を引く理由
円形の視界の中央を男の上半身にセットする。
僕の鼓動はちっともテンポを上げやしない。
ろうそくを消すようにスゥと息を吐き、今度は息を止め、右手の人差し指に力を込める。
さぁ、神様…。
私を止めるなら今、この瞬間しかありませんよ…。
今から、貴方の元へ一人の男が向かうことになるでしょう。
それが嫌なら私の元へ使徒を…。
喜んで貴方の裁きを受けましょう…。
大きな音がその場を支配し、針葉樹に止まっていた二匹の鳥が羽ばたいた。
「ヒット。胴体へ着弾。膝から崩れ落ち、地面へ」
隣から聞こえる無機質な声はスコープから見えていることをご丁寧に実況した。
「これが神の思し召しか…」僕は呟いた。
僕はたった今、人を殺した。
これで何人目なのだろう。
残念ながら僕はいちいち覚えたりはしない。今までに食べたハンバーガーの数を覚えている人間がこの世に存在するだろうか?
それと全く同じだ。
人を殺すことが良いことなのか悪いことなのか、そんなことはどうだっていい、僕には関係のないことだ。
そういうことは検事が弁護士が裁判官があるいは世論が、ともかく戦場に立ったことのない人間が決めることだ。
ただ一つ僕が言えるのは…。
誰かのスコープが僕を捉え、躊躇なく引き金を引く。
僕の人差し指がそうしてきたように、誰かの人差し指が僕を殺す。
それでいい。
いや、それがいい。
戦場を知らない奴に殺されるだなんてまっぴらだ。
地面に伏した肉塊から赤色の液体が周囲に漏れ出すのを確認し、僕は立ち上がり上半身に付いている雪を無意識に払った。
自分の身体に付いていた雪が白いこと、それこそが今ここでの生存の証明。
.QED。
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