毛繕いルウロボ
ツンと尖った三角耳、整った相貌に、どこか異国情緒のある蒼い瞳。それを綺麗めコーデで包めば誰もが羨む美狼の出来上がりなのだが、一皮剥けばひどいものである。
「えっ……うそでしょ……枝毛あるし、なんか絡まってるし……」
「それ以上言わないでえ……」
本狼は見えない部分はやりにくくて……などと誤魔化しているが、服で隠れる所のブラッシングをおざなりにしてきたのは明白だ。
というか、見えない部分がやりにくいとか、仔犬の言い訳だろうか?
この仔がズボラなのは昔からなんとなくわかっていたけれど、まさかここまでとは思っていなかった。何故か自分の監督不行き届きのような気がして責任を感じてしまう。
とにかく、こんな毛皮を雄に晒したら、どんなに美狼であろうと百年の恋も醒めてしまうだろう。
仕方ないというふうに、ため息をつく。
「もう、わかった…アタシが教えてあげるから」
「ロボナも脱ぐの?」
「じゃないとアタシの服がルウムの毛だらけになるでしょ」「あ、そっか」
最初はやり方を教えるという名目だったのが、だれかにブラッシングしてもらうことにすっかり味を占めたルウムだった。
なので腕前は一向に上手くならず、結局アタシは週一のくらいのペースでだらだらと友人を毛繕いしに通っている。
「ンフ……気持ちいい……」
アタシの胸を枕か何かと勘違いしているのか、ルウムは背中からこちらにもたれかかって夢心地だ。
ブラッシングをしながら、ときおり漏らす満足そうなため息に、どこか色っぽさを感じて、なぜかどきどきしてしまう。
「ルウム、手が届かないから、屈伸して」
「え〜〜このまま寝たい……」
ルウムのふとももをブラシするふりをして、わがままを言う友人の背中に耳をぴっとつける。
とくーん、とくーんと、穏やかに波打つ心臓の音が聞こえる。何の猜疑もない、リラックスしきって、アタシを信頼しきった音だ。
一方のアタシは、さっきから胸の早鐘が止まらない。
理由のわからないそれを、なぜか、この仔に聴かれたくなかった。
「あれっ!ルウム、背中がなんか前より、もこもこする気がする……」
アタシが手入れした自慢の背中は、とても良い匂いがした。
「うっ……大丈夫、海に行くまでになんとかする完璧な計画なんですぅ……」
ルウムがまた雄と付き合ったら、こんなふうに毛皮が触れ合うこともあるのだろうか。
「ところで、最近駅前にお肉の美味しい店を見つけてね」
それはなんだか、自慢の庭を荒らされるようで、嫌だな、と思う。
「あっ、ロボナ、そういうのズル〜い」
この仔から知らない雄の匂いがしたら、アタシはちゃんとこうやって手入れしてあげられるだろうか?
「行かない?」「行く」
無意識から湧き上がる想いを誤魔化すように、あたりさわりのない話を続ける。
この空気が壊れないように。
こんな他愛のない時間が、ずっと続けば良いのにと思いながら。
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