4 武士の復活

 林太郎の稽古着の姿は美しく、凛々(りり)しく、初々(ういうい)しかった。


 あのハリウッドで撮った、俺の小説が原作の映画『りんと小吉の物語』のオーディションで、林太郎が始めて少年刺客の出で立ちをしてスタジオに登場した時を思いだした。あの時はカツラを被り、長髪で袴をはかずに膝小僧が見える丈の小袖だけだったが。

 俺は下腹に興奮を感じてしまった。


 林太郎は居並ぶ高弟達の列にそれぞれ一礼をして、神棚の下の祖父に向いて道場の中央に正座した。

 座る時、袴が足にまとわりつかない様に膝の上を押さえながら美しく座る。左足を少し後ろに送って先に曲げるのは茶道と反対か?背筋は伸び、撫で肩で長い首のフォルム。首までさらと揺れる黒髪。脚の付け根に添えた手のたおやかさ。


「これを」


 『石舟斎』が、自分の横に置いたひきはだ竹刀を持って横にして差し出した。約1メートルの竹の先を八つ割(やつわり)にして、馬革の袋を被せたものだ。剣道の竹刀は120センチで四つ割なので、かなり短く感じるが1メートルは真剣の定寸(じょうすん)の長さである。

 林太郎は一度、正座から後ろ足の踵にお尻を乗せた居合腰になると、そのまま膝行してうやうやしく祖父から竹刀を受け取る。そしてそれを左手で腰に捧げて祖父に背を向けて座った。


「!」


 居並ぶ高弟達から殺気が放たれた。


 師範代である祖父の竹刀を受け取り、祖父を後ろに、自分達を見据えた林太郎は明らかに、将来、祖父に代わって師範代を務める事を高弟達に宣言したのだ。


「高田殿、試して見られよ」


 祖父が高弟の列でも中頃に座っていた四十前後の弟子を名指した。呼ばれたずんぐりとした男は、頭を鋭く下げて一礼すると、左の竹刀をひっ掴み、すっと立ち上がり道場の中央に進み出た。背丈も190cmはあるだろうか!どすんどすんと足を踏みならして怒りの表情である。どうやら高弟の中でも、林太郎を認めたくない粗暴な男の様だ。


 俺や他の野次馬は、呆気に取られて見ていた。まるで戦国時代か江戸時代に戻った様な感覚だ。バルブだ、経済破綻だと世が変転している間、彼らはこんな世界を脈々と継いでいたのだ!


 どこに彼らは逼塞(ひっそく)していた?侍が現代に蘇った様だ!


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