1 カリフォルニアから
「大介、クリスマス・プレゼントに何が良い?」
スカイプのイヤホンからあいつの弾ける様な声で質問が来た。俺はパソコンの会議ソフトのアイコンをクリックする。
あいつの顔が画面に出た。あいつの背後に写る部屋はカリフォルニアの朝の光に満ちている。日本の北越のログハウスにいる俺は夜の9時の帳の中だ。
俺は画面のあいつを指さしながら言った。
「お・ま・え!」
画面の中のあいつが微笑む。
「じゃ、クリスマス・イブにそっちに行く」
「もっと早く来れないのか?」
あいつが少し済まなそうな顔をして、
「爺ちゃんの具合が悪いんだ・・・」
「え・・・そうなのか?!」
「うん・・・それで動けなくなる前に、印可を受けてくれって言うんだ」
「印可・・・新陰流のか?」
印可とは、武芸などでその流儀を極めた者に与えられる卒業証書の様なものだ。
あいつの家は代々、柳生新陰流の主家を助ける師範代だった。祖先は江戸末期に本家である柳生家より別れ分家となり、二百年の間、主家の陰日向になり武道において補佐してきたのだ。現在の主家は名古屋で道統を継いでおり、林太郎の家は関東の連絡役となっている。
林太郎は六歳のころから祖父の薫陶を受けたそうだ。相当の腕になっている。だが持ち前の運動神経で、サッカーに熱中して祖父をやきもきさせていたのだ。
「爺様を安心させてやれば・・・」
画面の中の林太郎は頷いた。
「大介も来いよ。新陰流の奥義を見たいだろ?」
「え・・・見たい!でも、秘伝じゃないのか?」
「今時、秘伝もないよ。高弟達を納得させるには、その目の前で力を見せる必要があるんだ。おまいは研究家ということで、参観を爺ちゃんにお願いして見る」
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