Festival Battle Royale is fun
第14話 祭だフェスティバルだ金がねえ!
「上棟だー!」
俺達ワンゲル部一同諸手を上げて新しく建ち上がった部室に歓喜の声を上げていた。
水洗便所にシャワー付きの浴室。御座寝のシュラフに包まって寝るのではなくキチンと寝床となる三段ベットも用意されている。
風通しの良かった前の部室は夜風が答えたが今回はキッチリと密閉がされているようで、隙間風は全く感じない。
新築の木材の香りに、俺と鮫島は転げまわってこの嬉々とした気持ちを体で現わしていた。
寮も十分にいい設備だが、どうにも居心地の悪さはあった。
何しろ俺は対抗乱闘で妙に悪目立ちをしてしまって、皆から目を付けられている。
そのせいなのか、俺に喧嘩を売ってくる連中が多い気がする。気のせいではないだろう、注目株の俺を潰して自らの喧嘩の腕に箔を付けようとしているのが目に見える連中ばかりで俺は辟易しているが、ここならばそんな連中も寄ってくることはない。
安息の地、カナン、まほろぼだ。
「あぁ……新築の香り……最高」
「見てよ轟君! 浴槽はスギ木材だよ!」
「マー!」
俺達は飛んで喜んで走り回っているが、しかしながら。
「…………」
一人だけ神妙な顔をしている男がいた。
腕を組んで何か気に入らないのか。部室を見渡して唸っていた。
「部長どうしたの? 設計が気に入らないの?」
俺はそう聞くが、山懸は首を横に振って言った。
「まさかここまで建築に時間が掛かるとは思っていなかった……」
「なんか予定でも?」
「大アリだ!」
ダンッとホワイトボードが掛けられた壁を叩いて俺達立二人の視線をそれへと向け、マジックペンでデカデカトそれを書いた。
「なんだそれ?」
「──新歓祭。今年参加するんですか?」
意味がよく分からなかったが、山懸は深刻な顔をして頷いた。
「前のオンボロならいざらず、今年はボーイスカウトに勝利して潤沢に部費がある。その上ここを新築して客も招きやすくなった。ならば勧誘も部費確保もせずに何をすべきなのか。そんな物はない。ワンゲルは万年金欠な上に尚且つ寮や教室棟、部活棟から距離もあり足は遠のきやすい。我らが代でワンゲルを廃らせるには歴史がワンゲルにはあり過ぎる。故に──」
再度バンっとホワイトボードを叩いて言う。
「新人勧誘の絶好のチャンスだ!」
俺はよく分かっていなかったが、新歓祭──新生歓迎文化祭。
これは文化祭であるという側面を持っていながら、只の文化祭ではない。
一般観客の極天地学園敷地内への来園を許可して、出店や出し物、その他部活の出店で部費を確保する絶好の機会なのだ。
尚且つ一般観客を入れると言う事は将来的な新入生たちの事前勧誘を済ませる事を目的ともしているのだ。
大変盛況な祭になるらしく、学園長の話曰く、郷土祭に匹敵する様な文化祭を目指して、卒業生OBたちも招き、学生たちのビジネス力の向上と就職先確保の大前提を目的としているそうだ。
確かに俺達の就職先確保といった面で考えるとこの新歓祭は大変重要なイベントであるが、いまいちその重要性が伝わってこないのは俺がまだ編入したてだからだろうか。
「小賢しい事に今年の新歓祭にプロレス部が月例の『乱闘喧嘩祭』をぶつけてきやがった。……客は間違いなくそっちに流れる……どうにかしてこの状況を打開せねば!」
エラく熱の入った熱弁を披露する山懸のそれに俺はどこ吹く風だが、一体何をするのだろうか。
「乱闘喧嘩祭と時期が被るなら……どこかの部活と共同で出し物をした方がいいじゃないですか?」
鮫島の提案に山懸はビッと鮫島に指を差して賞賛する。
「そうだその通り、僕たちにプロレス部程の部費も人材もいない。故に、我々の財布の財源たるボーイスカウトに頼るのも心もとない程だ。故に他の強豪部活と連携して売り上げを上げるしかない」
「候補は?」
俺は何とも言えないが、一応の部員だ。これだけやる気の部長の意向を反故にするほど恩知らずでも礼儀知らずでもない。
やるだけやるだけだ。
「財源にボーイスカウト。これは絶対だ、連中は俺達との乱闘で負けて契約書は俺が持っている」
懐から出された契約書。まるで借金の形のように意地悪く笑うその姿にこいつは金貸しの才能があると思い、山懸からは何があっても金は借りないと心に誓った。
「第二にワンダーフォーゲルのというモノの知名度の低さが問題だ。登山部やボーイスカウトみたいに混同されがちなワンゲルが他の類似部活とは違う事を知らしめる為に活用できる部活が必要だ」
そうなると一捻り考える必要があるだろう。
ワンダーフォーゲル、自然体験野外部活動に必要な要素と言えば何を必要とする? まあ自然体験野外部活なのだから自然は必須だろう。それに捻りを咥えて新人勧誘となれば。
「炊き出しとかっすか?」
「確かにそれもいいだろう。しかし食材はどうする? わざわざコンビニにまで歩いて行ってここで食べるのか? それじゃあ散歩と変わらない」
「バードウォッチングとかどうですか?」
「カラスしかここには来ない! 残念だ!」
しかしそう言いつつホワイトボードに『炊き出し』『バードウォッチング』と候補を上げていく。
他にも野外キャンプや屋外工作体験など候補を上げるが皆いまいちピンとこない。
もっとこう……ワクワクするような事ではないと新入生は入部しないだろう。
そんな事は分かりきっているが、中学生をまずこの喧嘩上等のイカれた学園に入る事が不思議で仕方ない。
様々な意見を提案するが、やはりこれといったいいアイディアは出てこなかった。
「新歓祭用のアイディアねぇ……ふぅん」
俺は学園をブラブラと散策しながら煙草を吹かし、売られた喧嘩を勝って倒れて気絶するその連中を玉座に俺は腰を落ち着かせていた。
「いっ……てぇ──」
「ああ痛いだろ? 痛くしたからな。一週間はベットの上だお疲れさん」
俺は灰をそいつらの上に降らせて深く紫煙を吸い込んで喉に伝う煙のキック感、苦味と煙の甘美な脳の痺れを楽しんだ。
最近調子がいい。
あれだけ女を抱いてイケなかったのに、爆川とのキスだけで射精した俺は何かが吹っ切れたように体が軽く動くようになった。
あのウザったらしい親父の『廻天』の冴えもいい。肩甲骨の調子もよく、余計な筋も気泡も消えつつあり全盛期にとまではいかないモノのそれに近い迄には戻りつつある。
まあそれを嫌でも試せるのがこの極天地学園のいい所でもあり悪い所でもある。
喧嘩上等、喧嘩がしてなんぼ。ボーイスカウトととの乱闘試合はこの極天地でも例を見ない程の盛況な試合だったらしく、俺の活躍はある意味で目立って、的に挙げられている。
Aランクを潰し、Sランクとも互角にやり合ったからこそ、俺は最高のランクを上げる獲物となったのだ。
と言っても俺はランク目当ての下っ端木っ端どもに足をすくわれるほど喧嘩を熟してきたわけではないし、何より個々の喧嘩はルールありきの喧嘩、勝つ条件も甘い。
野晒しのストリートファイトの決闘罪事項の喧嘩を経験してきた俺にとって寧ろそいつ等は俺のランクを微々たるものだが上げる最高の鴨でしかなかった。
Bランク53位。──たったの一週間、凡そ十五回の喧嘩、人数で言うのなら30人は下らないであろう人数とやり合って39しかランクが上がっていないと言う事は俺よりも低レベルとやり合った事になるのだろう。
まァAランクSランクでも俺は負ける気はしない。
「もっとランクを上げるには上の連中と喧嘩をしろって事か……」
無意味な喧嘩をするほど俺の青春は暇ではないし、売られた喧嘩は買うが、喧嘩を売りに行く暇まではない。
やるとしてもこうしたゴミを虱潰しにするだけだろう。
モワッと特大の煙を吐いて、俺は麗らかな放課後に現を抜かしていた。
「おおぅ、有名人は相変わらず探しやすいな」
不意に俺に声を掛けられ、俺の口からポロリと煙草が転げ落ちてしまう。
「ああくそ、まだ半分あったのに……タイミング考えろよ三河」
「そう言うなよ。ほれ、今月分の煙草だ」
取り巻きを連れた半グレとでもいうか、闇取引を堂々と行う俺達に普通の生徒は口出しは出来ない様子だった。
普通の風紀員でも俺よりも下のランクの連中なら声も掛けないだろう。掛けたところで奴隷落ちが目に見えて、唯一突っ掛かってくる風紀員と言えば爆川くらいだ。
キチンと三十一箱あるかを確認たが──。
「妙に多くないか。今月分」
「ああ、お前には気張ってもらわないといけないからな──新歓祭で」
妙に覇気のある言い方で俺の肩を掴んだ三河は邪悪な笑顔で言う。
「やっとこの屈辱を晴らせる。この博打業の一切を俺達で仕切ることできるようになる──お前の働き次第でな」
「はァ?」
「もう知ってるはずだろう? 新歓祭でプロレス部の月例乱闘喧嘩祭が被っているの」
そう言えばそんな事を山懸が言っていたような気がするが、だが俺は正直なところその乱闘喧嘩祭に参加する気などはなく、蚊帳の外の話だと流していたが。
「おいおい、マジで言ってんのか? 俺を使った博打業の独占って」
「大マジだ。お前言ったよな。ワンゲル対ボーイスカウトの時に煙草と引き換えにお前に賭けろって、これでお前が乱闘喧嘩祭で勝ったのなら、今迄散々プロレス部に独占されていた賭け事に光明が差す」
なんでもこれまでの賭け事、博打業の一切を取り仕切っているのは乱闘喧嘩祭の主催部活たるプロレス部で乱闘喧嘩祭はその賭けの大一番であり、大抵はプロレス部が上がりを掻っ攫っていくのが通例なのだという。
「Aランク同列4位のあの憎き『革命兄弟』をぶっ潰せたなら。俺達化学部が連中のシノギを掻っ攫らえる寸法だ。分かるか?」
「まっッたく?」
面倒くさい用心棒を雇ったといった風に三河はポケットの中から一枚のチラシを取り出した。
「ほら見ろ」
「ん~なになに……新歓祭目玉プロレス部主催月例乱闘喧嘩祭──ラウンドマッチ……Bランク期待の新星『“
さっと乱闘喧嘩祭の出場権を取り出した三河。その参加項目者の名前には──何を隠そう俺の名前が書かれているでないか。
「なに勝手にエントリーしてんの!?」
「お前の喧嘩の権利はもう俺が握ってるようなもんだ。そうだろう? ここでヤニが吸いたかったら俺に奉公するんだな」
「いや待てよ! 俺も新歓祭にゃあワンゲルの出し物で手一杯なんだよ!」
「何出すんだよ」
「そりゃあ……まだ決まってないけどよ……」
バツが悪い。何せワンゲル部は出し物が決まっていない。新歓祭は二週間半後に控えている。
今出し物が決まっていないとなると大変な致命傷になるのは目に見えていた。
大急ぎで出し物を決めなければならないのだが、それよりも先に三河のこの勝手な乱闘喧嘩祭のエントリーに俺もどうしたものかと頭を捻って考える。
「ところで三河。お前んとこの出し物何にするんだよ」
「幼稚な幼稚な中学生親御を楽しませるには、楽しい楽しい科学教室が手っ取り早い。液体窒素のパフォーマンスで入場料をせびる」
「お前……カガクはカガクでも、サイエンスじゃなくてケミストリーの化学だろうが」
「広義的にとらえれば似たようなもんだ」
確かにその通りだが反則だろう。中学生や親の受けそりゃいいだろう。何せ普通液体窒素なんて扱う機会がないんだから、バラを凍らせて握り割るか? それともバナナを凍らせて釘でも打つか? さぞ受けはいいだろうに。
「こちとら出し物が決まってないってのに……潤沢に資金のある部活は違うな」
「お前らがマイナー過ぎんだよ。ワンダーフォーゲルなんて、日本人の何人が知ってる事か──まあでも手伝ってやらんこともない」
「マジで!」
それは願ってもない申し入れだ。知恵もアイディアも今日のワンゲル部会議で出し切った感がある。
化学部の部員の脳味噌を使ってアイディアを出せばもしかしたら、三人寄れば文殊の知恵ともいう、こう言った場合提案する人間が多い違法がこした事はない。なにより、化学部は金があるしな。
「そりゃァありがてえ。頼むぜ三河」
「お前はその前にこの乱闘喧嘩祭にどう勝つかを思考しとけ」
「なに高々雑魚この烏合の衆だ。俺が負ける訳ないだろうが」
その言葉に三河はポカンとしていた。
「お前もしかして喧嘩ランクの意味分かってないのか?」
「ぶちのめした数で上がるんだろ?」
深いため息と共に三河は付いて来いと俺を顎で示してた。
向かった先はプロレス部の部室かなり大きな体育館──。
三河は言った。
「──地獄見んなよ」
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