第12話 期待と絶望

 極上の雌を目の前にした雄の反応とは如何なるものか。

 欲情の果てにその雌を犯すために逸物をそそり立たせ襲い掛かるか? 。それとももっと好ましい雌を探すか? 。

 俺は──緊張していた。

 心臓が高鳴って、目の前にいる壁沢リョウの痴態に興奮こそすれど何故去ろうか──本気になれなかった。

 顔を上げて俺を見上げてくる壁沢の潤んだ瞳。その柔らかそうなルージュに染められた唇。

 その乳房も日本の一般的女性のそれと比較すると十分に巨乳と言っていい大きさのおっぱい。身に纏う衣服も男の劣情を煽る為だけの恥部を隠すことをやめた布切れと化したそれ。

 今にも泣きだしそうなその視線に加虐心を大いにくすぐられ、そしてその女性の立場を考えると父性とも呼べる庇護欲を掻き立てられる。

 その双方の欲望の中間点。ちょうどいい位置に俺の性欲はあり、混乱、といった言葉が適切な程動揺していた。

 抱きたい。しかし、人としての何かが喪失してしまいそうな気がしてならない。

 勃起はしている。準備は万端だ。しかし、心が追い付いていない。

 体は抱いてしまえと叫んでいる。しかし感情がそれを止めに入っている。

 心の中で天使と悪魔が囁き合っているようなそんな陳腐な妄想の産物に俺は板挟みになっていた。


「よ、よーし。じゃぁ……どうすっか……」


 この感情を紛らわせるように俺は口に出してそう言って見るものの、壁沢の視線と息遣いは既に準備が出来ている様子であった。

 熱く湿っぽい吐息に僅かに汗ばんだ肌が照り輝いて、俺の肉体を舞っている様子。

 頭をバリバリと掻き毟り覚悟を決める。

 据え膳食わぬは男の恥というではないか。ここまでお膳立てされて女を抱かないなど男ではない。

 乱暴な手つきで俺は壁沢のおっぱいに手を伸ばして鷲掴んだ。


「……んッ」


 その喘ぎとも、乱暴に扱われた痛みとも取れる小さな壁沢の声に俺の目は更にマジになる。

 そして感動を覚える。記憶にも薄い母親の乳房に貪りついていた赤子の頃に存分に触り尽くしていたと俺は思っていたが、そんな事は全然ないようだ。

 握り込むとズブズブと際限なく埋まっていくような乳肉の柔らかさ。そして爆川同様に、きめの細かい肌の触り心地。二プレス越しに手の平の中心に感じる小さく硬く、反発してくるようなそれの確かな感触は容易にそれが何なのかを想像できた。

 楽しい、愉しい。いくらでも触っていられそうな感触だ。手荒くその形を崩さんばかりの男らしい愛撫の童貞臭い下手糞なそれであったが、だがこれにはまだ前菜。


「ここに何を隠してんだ? ええ?」


 意地悪に俺は壁沢の耳元で囁くように聴くと色目くような声を上げて体をくねらせて艶っぽく緩んだ表情を見えた。

 何だろうか。征服感とでもいうのか、陥落させたという達成感にも似た感覚があった。

 まだまだ序盤の序盤なのに、彼女の表情を見ると眩暈がしてしまいそうなほどの色気にどうにかなってしまいそうだった。

 二プレスを押し上げて自己主張している乳首を指先で絡ませて弄び、コリコリと指先で転がして快感に耐えるような壁沢の表情を観察する。


「早く……済ませましょう……」


「ッ──」


 おもむろに壁沢の手が俺の股間に伸びてその細い指先が俺の陰部を直に擦り上げてきた。

 指先が俺の竿、亀頭を撫でまわし握りつぶさない程度には手加減した強さでしっかりと俺のチンポを握ってくるではないか。

 ビクンとチンポが跳ねて、驚いたようにピクピクと震えている。

 こんな事初めてだ。自分で扱うよりもより敏感にそして鮮烈にその感触が伝わってくる。

 拙い手つきであったが俺のチンポを必死に愛撫する壁沢の視線はチンポに釘付けになって、頬は朱色に染まって遂には耳まで紅に染まっている。


「ッ──ツッ……」


 俺も必死に声を殺す様に息づぎをして感じていることを壁沢に悟らせないように必死に我慢する。

 恐らく壁沢は初めて触るのだろう。男性の逸物を、チンポを。

 敏感な亀頭のエラに爪を引っ掻けてしまったり、さぞ恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤に、伏し目がちにとにかく必死に俺を満足させようとした荒っぽく激しい、こうすれば男が興奮するというだけの知識を持っているといった手付き。

 無論それを察しているが故に、俺の中に生まれてくる支配欲求が、このおんなを抱いてしまえと叫んで止まない。

 俺の手はスルリと静かに、ヘビが得物に狙いを定めたように壁沢のそのクレバスへと伸びて。


「んぁっ──!」


 壁沢の口から喘ぎが漏れた。

 ビクンと体が揺れ動き、震えその感覚を畏れているかのような顔で俺を見上げてくる。

 だが、これでは、この程度では──満たされぬ獣欲。

 指先を『穴』へと滑り込ませ、感触を確かめるように弄繰り回す。

 ザラりとした部分もあれば、襞の連なった部分もある。入口は強く俺の指を咥え込んで離す気がないのか、餌を欲しがる犬の無様な涎を垂らすその姿を連想させる。

 無様、滑稽、憐れみすら誘う不純なヌメり。


「あっ。んンッ──ハッはぁ……」


「感じているのか? 壁沢さんは初めて会う相手にオマンコグチャグチャに濡らしてちゃうんだ?」


「ちがっ──ちが、ぅうッ! 三河の……ガスのせいで」


「言い訳がましいのは潔くないぜ……言っちまえよ。俺の指で、──『感じた』って」


 その音を強調するように激しくオマンコを指で搔き回し、グチャグチャとニクニクしい湿った音が部屋全体に反響して耳を楽しませた。

 十分に濡れただろうか。──そんな事童貞の俺が知る訳はない。

 水気があるかないか、せめてもの紳士的な行動として手マンをしただけで現状俺は獣にも劣る思考能力しかなかった。

 猿のように盛って、青臭い青春に現を抜かす阿呆の中学生のようにスケベで下品な変態のそれだ。

 我慢があるか? 出来るはずがないだろう。

 俺は指先で得た愛液の湿り具合にセックスをする準備は出来たと判断した。

 必死で俺を手淫で満足させようとする壁沢に容赦なく、俺は机の上に押し倒した。

 汗ばんだ体に荒い吐息。共に性の一献にひと花咲かせようではないか。

 彼女の熟した花弁へと俺は自らの肉槍を宛がった。


「いいのか。抵抗しなくて」


 最後の勧告のように聴いた。

 壁沢は震えて、そして──頷いた。

 これはもうやってもいいという合図なのではないか? ならば一発、いや一発と言わずニ、三発決めてやろう。


「くッ──アアァ……」


 不覚にも声が漏れてしまった。

 そう、入れたのだ。ズブズブとマンコの割れ目の肉を押し広げて侵入したチンポが感じた最初の感覚は──熱い、だった。

 人の体温はこれだけ熱いモノなのか、そう思わせるほど熱く灼熱の体温が俺のチンポの亀頭に強く感じた。

 襞が俺のチンポのエラに引っかかって気持ちいや、ザラついた肉壁が刺激的といったモノよりも先にその熱さに驚いてしまう。

 そして──腰が抜けてしまいそうなほど、キツイ。

 締め付けが、マンコの入口が死ぬほど締まって俺のを食い千切らんばかりに絞めつけてくる。


「ん……あぁっ──ハッ、ああ、熱い……痛い──」


 壁沢はそう訴えてきたがもう後戻りはできない。先は入れたのだもう──ニ、三センチ、十センチニ十センチ入れたところで違いはないだろう。

 頬が裂けんばかりに意地汚い笑顔を見せている実感はある。しかしそれでも更に奥へと入れられずにはいられない。

 グッと腰を更に押し付けて遂に──。


「いッ──痛いっ! 痛いぃっ!」


 ブツッという衝撃がチンポ越しに俺の体に響いた。

 破ったのだ。処女膜を、壁沢の処女を俺が奪ったのだ。そして俺は──童貞を捨てたのだ。


「ハッ! ハハ。アハハハハ!」


 思わず笑い声が漏れた。こんなにも簡単な、こんなにも容易にセックスが出来るなんて、この学園はこの極天地は本当に──狂っている。

 腰を容赦なく打ち付けて激しく、とにかく激しく俺が気持ち良くなることだけを追求した動きで醜い交尾を披露していた。

 まるで、そう、まるで虎の交尾だ。雄の虎のペニスには棘のエラが付いていて一度ヤッた雌の陰部をズタズタにして二度と交尾を出来ないようにするそうだ。

 今の俺ではないだろうか。彼女の処女を奪って、傷物にして慰み者にしている。

 それに罪悪感があるのか、罪責感あるのか、後ろめたさがあるのか──皆無。

 ただセックス出来たという感覚を認識して、そして機械的にセックスをしている感じがした。

 気持ちいい、この体温の熱をチンポの全部で感じられて快感だ。

 だが──なぜだ。


「くっそ! くっそ! クッソ‼」


 どれだけ腰を振ろうと、どれだけペニスを打ち抜けようと、イケない。

 感じてはいるものの絶頂には達しない。それを認識することで更に、萎えてくるようでチンポが中折れしてくるようで、シオシオと元気が失われていく。


「あ……アレぇ──?」


 何故だろう。急激に興奮が冷めてくる。

 冷めて冷めて、そして虚無。


「ゴメンちょっとタンマ」


 ヌッとペニスを引き抜いて俺は俺の息子へと問いかけた。何故元気がないのだと。

 答えは出ず、沈黙で答えるチンポに首を捻った。


「あの……続けるの?」


 そう問いかけてくる壁沢に、俺はニッと笑って言った。

 きっと爽やか悲し笑顔だったのだろう。


「終わりだ」

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