二番目のお友達
川の湯煙
第1話
私は人付き合いの良い人間だと思う。誰とでも基本仲良くなれるし、喧嘩もしない。何かあったらすぐに謝るし、相手が欲しい言葉をあげる。だから私の周りにはいつも人が集まった。休み時間机に肘をついていると誰かが話しかけにきた。HRの後支度をしていると誰かが帰ろうと声をかけてきた。私は友達が多かった。
昔からこうだったわけではない。小学生の頃はもっと自分勝手で、負けん気が強くて、仲のいい友達も少なかった。けれど、その中で最も仲がいい友達がいた。同じように相手も自分勝手で意地っぱりで、いつも喧嘩ばかりしてたけど、最終的にはお互いに謝って笑い合っていた。これが親友ってやつかと、幼いながらに思っていた。
小学校の授業は、時に残酷ではないかと思う。ある授業で、作文を書かされた。テーマは親友。あなたの親友について書いてください。顔も覚えてない担任が淡々と言っていた言葉はまだ鮮明に覚えている。クラスの何人かは親友と呼べる友人がいないのか、どうしようと焦った顔をしていた。私はそれを見て優越感に浸っていたのだ。私には親友がいる、こんなの迷う必要がない。鼻の穴を膨らませて、自信満々に書き切った。汚い字をデカデカとマスをはみ出しながら書いた原稿用紙を、宝物のように大切に提出した。先生はよく書けていますねと褒めてくれたことを覚えている。
私はその後現実というものを知ることになる。その原稿用紙は授業参観に合わせて掲示された。みんなが恥ずかしいと照れながらも、友達と手を繋いで見にいっていた。「私あなたのこと書いたよ」「私も!」「嬉しいね」「嬉しいな」そんな声が聞こえてきた。私も見に行こうと、あの子を誘った。
「あ、私のこと書いてくれたの」
あの子は私の原稿用紙を見てにっこりと笑った。私は当たり前でしょうと胸を張った。今思えば、それはあまりにも滑稽で、無様で、よくもまあできたものだと笑えてしまう。
「そうだよ、あなたも」
私のことを書いたでしょう?そう言うつもりだった私は言葉を失った。あの子の原稿用紙には、知らないことが書かれていた。
「私幼馴染のこと書いたの。生まれた時から一緒なの。家も隣だったけど小学校の頃引っ越しして離れちゃった。でも今でもお互いの家に泊まりに行くのよ」
あの子は私に笑いかけた。
「あ、でもね、あなたは二番目に仲良し!」
子供は残酷だ。悪気もなく、手に持った刃物を振り回してきゃっきゃと黄色い声をあげる。私は二番目のお友達だった。
だから今度からは誰か一人特別な友人を作るのではなくて、みんなと仲良くしようと思った。今までの自分を捨てて、理想を組み立てていけば簡単に人気者になることができた。
クラスで浮いている地味な子にも、みんなから怖がられてるガサツな子にも、同じように等しく接した。涙を流して感謝されたこともある。その度に歓喜に顔を歪ませて、当たり前のことよと言うのだ。
ああ、これで誰かの一番になれる。誰かの唯一無二になれる。今度こそと拳を握る。けれど私は結局誰の一番にもなることができなかった。そもそも、私が誰か一人を選べなくなってしまっていた。
一番仲の良い友人は誰ですか。
全員同じように仲が良いです。
よく話す人は誰ですか。
誰とでもよく話します。
よく遊びに行く人は誰ですか。
みんなと遊びに行きます。
私はつまらない人間になってしまった。求められることを求めすぎて、いつしか求めることをしなくなった。その結果、私は二番目ですらなくなってしまった。
私をこんな人間にしたあの子は今も幼馴染と笑い合っているのだろうか。恨みすら湧いてこない。もはや人間ですらなくなってしまったのだろうか。この心が求めていたものを、もう私は知ることができない。私は今も皆が欲しがる言葉を与え続けている。
私はどうすればよかったのだろう。二番目のお友達で、満足するべきだったのですか。誰も答えてくれない。
嗚呼、悲しいことです。
二番目のお友達 川の湯煙 @kawa_no_yu
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