大問題になります。後悔しますよ?

「それほどの罪を犯したとは思えません」

「未来の国母に対する暗殺未遂だ。

 国家反逆罪を適用するのに不足はないだろう」



 なんとも無茶苦茶な理論です。

 だいたい王子がジュリーヌさんとの婚約を発表したのは、たった今です。

 その身分を元に既に行われた罪を裁くなんて話は、聞いたことがありません。


 それ以前に、そもそも私はやってない。



「暴れるかもしれん。衛兵、この者を捕えよ」


 出てきた衛兵というのは……あなたですか。

 私を捉えるために出てきた人物を見て、私は思わずため息をつきます。



「観念しろ、フィーネ!

 身分を笠に、やりたい放題していたようだがな。

 フォード王子は、そのような愚かな行為を見過ごさない!」


 登場したのは騎士団長の息子。

 彼もジュリーヌさんとは親しくしていましたね。


「どうか考え直してください。

 フォード王子の言うことを鵜吞みにして、後で後悔することになっても知りませんよ?」

「ふん、後悔だと。

 貴様こそ、これまでの振る舞いを深く反省して魔族領で朽ち果てるが良い」


 騎士団長の息子は、憎々しげにそう吐き捨てました。

 助けを求めようにも、周囲の人はみな遠巻きに見守るのみ。


 無理もありません。

 たとえ私を無罪だと思っていても、それを口に出すことは王子に弓を引く行為です。

 ここで提言して聞き入れられるなら、このような事態は起こらなかったでしょう。



「……貴族裁判を要求します」

「さきほどのフォード王子の言葉が聞こえなかったのか?

 魔族領へ追放処分というのは決定事項だ。フォード王子の押印もある」


 裁判の1つもなく、フォード王子の一存で最高刑が下されるですって!?

 これまでの国のあり方を揺るがしかねません。

 独裁者の印象を強く与える、最悪の一手だと言えます。


 本当にフォード王子は何を考えているのでしょう?


「大問題になります。後悔しますよ?」

「ふん、その捨て台詞。

 貴様の最後の言葉として胸に刻んでおこう」


 ……何も考えていないのでしょうね。

 フォード王子に考え直すよう伝えますが、返ってきたのは馬鹿にするような一言。 


 カレイドルさんが、口だけを動かして「ざまぁないわね」と伝えてきました。

 キッと睨みつけると


「その顔は二度と見たくない、早く連れていけ!」

「おい、早く来い!」


 王子がカレイドルさんを庇うように移動。

 この様子では、反論するだけ無駄なのでしょうね。

 

「乱暴に引っ張らないで下さい。女性のエスコートすら出来ないんですか?」

「減らず口を……」


 乱暴に私を引っ張る手を振りほどきます。

 忌々しげな口調の騎士団長の息子をよそに、私はこれからのことを考えます。



 ――魔族領への追放処分


 ……いやいや、まだ死にたくないですよ?

 パーティー会場を出ると、待っていたのは王室御用達の馬車。

 最後の頼みの綱と御者を見ますが、


「早く乗れ! まったく、こっちは休日だってのによ~」


 だ、だめだこれ。

 何の疑問も持たない様子の御者を見て、私は遠い目になります。


 馬車に乗り込むと、ガッチリとした兵士が両脇に乗り込んできました。

 逃げられないように、警備は厳重にということでしょうか。

 馬鹿王子の処分に味方する兵士が多かったことに驚きです。


 ――未だに現実感を欠いたまま。



 状況に翻弄される私を嘲笑うように、馬車は動き出しました。 

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